第4話

 数日後。

 

 ボルグの借金を肩代わりする男が現れた。

 

 男の名は、ウィル・ローレン・ネヴィル。

 同く伯爵の爵位を賜っているが、ボルグにとっては夜会などで顔を会わす程度の相手で、特別な接点はない。


 顔が厳つく、戦場で戦う姿は鬼気迫るものがあり、敵には容赦ない冷酷な男だと称されている。彼が、人前で仏頂面を崩したところも、見たことがなかった。


 だからなのか、他の女たちも彼には近づかないため、浮いた話は一つも聞かない。


「アメリア殿を、使用人として買い取りたい。金は一括で払おう」


 提示してきた金額は、ボルグの借金と同じ額だった。


 理由は聞かなかった。

 借金がなくなるのであれば、妻の差し出し先が娼館でもウィルでも、どちらでも良かったからだ。


 いや、むしろ娼婦に堕ちた妻をまたこの家に迎え入れるよりも、いっそのこと、目の前の男に売った方がいい。

 家の存続がかかっている事態なのだ。離縁の理由としても十分だった。


 これで、セーラを妻として迎えることができる。


 ボルグは快諾した。

 自分の要望に何一つ応えられない妻だ。それでよければ、好きにしろと笑いながら。


 ウィルは、笑わなかった。

 ただ黙って頭を下げると、借金を肩代わりする旨を記載した書類と離縁届を、黙ってボルグに差し出した。


 こうしてアメリアは、冷酷とされるウィルの元に、使用人として買い取られることになった。


 彼女が発つ時でさえ、ボルグはセーラの元にいて、見送ることすらしなかった。

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