自分の完璧に応えられない妻を売った伯爵の末路

めぐめぐ

第1話

 伯爵である彼――ボルグ・ヒルス・ユーバンクは常に、自分にとっての完璧を求めていた。


 食事の味も、部屋の整理も、日々のスケジュールも。

 全てが自分の思い通りでなければ、気が済まなかった。


 そして、全て彼の思い通りになっていた。


 たった一つ。


 ――彼の妻のこと以外は。


 *


「旦那様、今日の料理の味はいかがでしょうか?」

「美味かった。特に、この肉料理のソースが最高だった」


 給仕係が料理の出来を尋ねると、ボルグは満足そうに答えた。

 本当に美味しかった。彼の好みとマッチしていたのだ。


 ボルグと給仕係のやり取りの傍で、口元を緩ませている女性の姿があった。彼女が笑っているのを見たボルグは、不機嫌そうに眉根を寄せた。


「何を笑っている、アメリア」

「あっ……ご不快でしたか? も、申し訳ございません……」


 ボルグの妻であるアメリア・ファース・ユーバンクが、ハッと口元を隠すと、慌てて頭を下げた。それを見て、ボルグはふんっと鼻を鳴らすと、矢継ぎ早に責め立てる。


「お前には、これと同じ味が出せるほどの料理の腕があるのか? そうやって、私たちの会話を笑っていられるような料理の腕前なのか?」

「い……いいえ……」


 アメリアは俯くと、手に持っていった銀食器を皿に置いた。そんな弱々しい妻の態度を見ると、ボルグの中で、さらなる苛立ちが湧き上がる。


「それなら、何故笑った‼ 俺の望む完璧に答えられないのは、この家でお前くらいだ! この出来損ないがっ‼」

「旦那様、申し訳ございません……」


 妻は小さく震えながら、先ほど以上に頭を下げた。

 ボルグは大きな音を立てて席を立つと、頭を下げたままのアメリアに言い放つ。


「今から出かける。今日は戻ってこない」

「い、今から……でしょうか? もう夜――」

「黙れ、アメリア。お前と話して、夕食がまずくなった。口直しをしてくる」


 そう言ってボルグは、屋敷を出て行った。


 彼が囲っている完璧な愛人――セーラの元へ。

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