46 don't forget

「連絡したかい? ヨモ君」


「オメーはよぉ! 肝心な時に来なくてよぉ!」

「はは、ごめんごめん」


場所は神社の敷地内……つまりは僕のジジババの家の前。


そこで赤髪の幼馴染、ナトリが僕を待っていた。



バーベキューが終わり、ジジババの家に戻って来た僕達。

帰りの支度をしていると、スマホにナトリからのメッセージが。

そんなこんなで、僕は一人、抜け出して来たのだった。


普段なら、そこそこ人のいる時間帯。


ましてや土日だ。


なのに、不自然なほど、今のこの場所は僕達だけの空間。


神社の中……二人きり……

まるで、今朝見たあの不思議な夢のようなシチュ。



何か色々と聞きたかった事があった気がするけど……


「色々ありすぎて忘れちゃった」


「話す内容かい?」

「そ」


「記憶を振り返れば思い出せるんじゃないか? 私に電話した時、周りとどんな会話をしていた?」


「えーっとねぇ……ヒロインズ&ジジババとバーベキューしてた時でねぇ……(コメカミぐりぐり)」


ぽくぽくぽくぽく ちーん


「ああ、君んちについて話してたかも」

「私の家?」


僕は頷き、


「聞いたぜ? ナトリんちが村八分にあってるって」


「いや、そんな事実はないけれど」

「でも、ジジババは今はこっち住んで無いって」

「そうだね」


あっさり頷くナトリ。


「引っ越したって事? 村人(げんじゅうみん)には何も言わずに?」


「ああ、それには事情が……なんかあった気がしたけど、忘れたよ。当時はゴタゴタしてたとかなんとか。『今は落ち着いてる』から気にしないでと、君らの祖父母には伝えといて」


「落ち着いてるんなら、そっちのジジババもこっちに顔出せば良いのに」

「ま、田舎は色々あるのさ」

「分かる」


ナトリのその言い逃れの言葉は強過ぎるから本来なら禁止カードだが、ルールを提示する前に納得させられたんで僕の負けだ。


「むむっ、でもなんだか、今のやり取りで色々思い出してきたぞっ。次は僕のターンなっ」


「ターン制バトルかい?」

「ならっ、祖父母に用がないなら何しにこんな田舎に来たのさっ?」

「別に、田舎で静養はおかしくないだろう? 女優や声優業の息抜きさ」


「むぅ……でもでもっ、泊まる家がないのに昨日はどうやって一晩過ごしたんだい? ホテルなんてこんな田舎に無いぜ? キャンプ道具でも持って来てた?」


「いや? 普通に祖父母の家で一晩を明かしたよ? 確かに今は誰も住んでないけど、電気もガスも通してるし、綺麗に維持もしてるからね。たまに別荘代わり使わせて貰ってるよ」


「金持ってんなぁ。流石売れっ子」


「周りがどう感じてたは想像に難くないけど、蓋を開けば真実なんてそんなもんさ。幽霊の正体枯れ尾花、だよ。ヨモ君が訊きたかった疑問はそれくらいかな?」


「うーん……あとなにかあったかなぁ」


モヤっとしてる感が消えない。

整理しよう。

今判明している疑問は三つ。


一つは、僕には『姉妹との昔の記憶がない』。


二つ目は…………アレ?


三つくらいあると思ったが、二つ目も思い浮かばないぞ?

というか、一つ目のそれも、いま目の前にいるナトリと何か関連性、あるか?

ナトリに訊いても意味は無い。


フフッ と笑い声。


「ヨモ君、もしかして私やその親族が『オカルトな何かに巻き込まれて変な事になった』とか思ってないかい?」


「うん? まぁね。その方が面白くない?」

「君はほんとにオカルトが好きだよね。むしろ『そうなった原因は』……」

「原因は?」


「そうだ。ここで一つ、面白いオカルト話があるんだ」


「ほう。怖い話にはうるさいぜ? つまらなかったら覚悟しろ? 一週間くらい声が出せないくらいのトラウマ植え付けるぞ」


「こわいなぁ。でも多分、満足させられるよ」



「面白い話というのは、この五色神社の話、だ」


「知っての通り、この神社の売りは『縁結びと縁切り』」


「縁結び、はどこの神社もやってるから何となく効果は掴みやすいと思うけれど、『縁切り』、というご利益は、少し把握し辛いだろう?」


「まぁそう難しいもんじゃない。嫌いな人間との縁を切ったり、プラス方面だと『病気との縁を切る』とか、そういう願われ方もある」


「そういった方面で、この五色神社は実は有名だったわけだ」


「けれど、皆はまだ、『常識の範囲内』でしかこの神社を利用出来ていない」


「この神社の御利益の力は、そんなもんじゃない」


「どのくらい御利益があるのかというと……うまくコトが運べれば、『死者蘇生』も可能って話だ」


「縁結びと縁切りに、死者蘇生がどう関わってくるのかと思うよね?」


「これは私の解釈なんだけど……」


「『生き返って貰いたい死者と現世との縁を結ぶ』、そして、『死者の世界と(生き返って貰いたい)死者との縁を切る』、という御利益で、死者を蘇生させてるんだと思う」



「なるほど」


と僕は頷く。


「死者が蘇生すれば、それは御利益どころじゃない凄い神社って事になるね」


「ああ。凄い神社だよ。ただ、みんなその『やり方』を知らないだけ」


「人ひとり生き返すんだ、それはもう、行う手順も複雑だし、その代償も凄いもんだろうさ」


「まぁ、その手順も代償もキツいかどうかの『感じ方』は、人それぞれだろうさ。しかし死者蘇生ってのは、それだけ苦労する価値がある儀式だ」


「うーん。でも、神話でも昔話でもホラー作品でも、そんな上手い話がないのがセオリーだよね、こういうの(死者の蘇生)は」


「ふふ、さて……では、その『代償』の話だ」



「君は、代償といえば何を想像する?」


「お金? 物々交換? おかしな契約?」


「正解はね、『存在感』だ」


「いや……正確には『今の時代の』代償」


「『昔は』代償がなかったらしいよ。詳しくは知らないけどね」


「まぁ、兎に角。死者蘇生の代償には『存在感』が用いられる、というわけだ」


「君は思ったはずだ。『それだけ?』と」


「その通り。それだけだ。代償の無かった時代と比べてもなお、破格過ぎる。それほどに、ここの神社の『神』が凄いという話だね」


「まぁだからこそ、その手軽さゆえに『方法』は秘匿されている。『〇〇を生き返してくれ』なんて願っても達成されないし、なにより、正確な手順を追ってもなお実行してもらえるかは『神様の気分』だ。蘇生に限らず、縁結びと縁切りもね」


「うーん、神様ねぇ」


僕は腕を組んで、


「当たり前のように神神言ってるけど、そんなの神社で見た事ないぜ? 経営者だか責任者たるウチのジジババにしか見えないのかい?」


「かもしれない。当然、私もこの目で見た事は無いよ」


「ふぅむ。神様に気に入られれば、実質この世は思いのままって事か。僕は血族だからチャンスは多そうだしね」


ファンタジーな話ではあるが、僕は既に受け入れていた。

田舎に来てから、そんな不思議体験が多かったからね。


「で、ナトリ。君はそのファンタジーを教える為に、僕をここ(神社前)に呼んだのかい?」


「ああ。面白い話だろう?」


「うむ。ここがそんなパワースポットだとは思わなかったぜ。で、因みにだけど、その『蘇生実行者』と『蘇生者自身』も知り合いだったりするのかい?」


クスリ と、微笑むナトリ。



「ああ、いるよ。『意外と近くに』ね」


「その子はね、『双子』だったんだ」


「無事に生まれて来られたなら、祝福された『双子』だったろう」


「けれど、片方は亡くなった……いや、『生まれて来られなかった』」


「死産、というのかな。生きて出産(で)られるのはどちらか、という感じだったらしい」


「結果的に、どちらかが『そうなった』」


「だからこその蘇生、だったのだろう」


「どのタイミングで、かという正確な『実行時間』は『私には』分からない」


「お腹の中にいる時かも知れないし、分娩直後かもしれないし、数年後かもしれない」


「だが、『それ』は確実に行われた」


「蘇生は見事に成功」


「そんなこんなで、無事、双子は今も元気に生きている」



「成る程ねぇ、ええ話や」


うんうんと頷く僕。


「でもなんかこう、命に対する冒涜を感じたよね」


「突然百八十度意見を変えるのが君らしいなぁ」


「だってそうでしょ? 死んだ子を生き返らせてハッピーハッピーはいいけど、なんかこう、ズルしてる感じやん?」


「ズルといえばズル、だね。運命というレールから外れた裏切り者だ。でも忘れてないかい? 一応、『代償』はあるんだよ?」


「『存在感』だっけぇ? なんだかなぁって感じ。ま、その人には会わなくてもいいかなぁ。せめて代償が『獣人化』とかならお知り合いになりたかったけど」


「会わせるなんて一言も言ってないのに……ま、確かにそういった、いかにもなデメリットな代償の方が分かりやすかったかもね。『存在感』なんていう、真綿で首を絞めるような代償よりは」


「代償といえば、蘇った側は普通なの? 五体満足? クリーチャー化はしない?」

「それはそう。半端な状態でお出しする程、この神社の力は甘くない」

「ウチの神様も律儀だねぇ」


ロリッ子っぽい見た目であろうと勝手にイメージしつつ……


「まぁ、『母親』からすれば、子の為なら存在感ぐらい捧げるよね」


「え?」

「え?」


「……ああ。確かに、母親が儀式を行ったと考えるよね、普通」


「まさか、他の奴に肩代わりさせた……? パパ? どっちでもねぇなら碌な親じゃねぇなっ」


「いや、二人は責められない。だって、二人が(実行)するより前に『別の人間』が『儀式を完了』させたんだから」


「へぇ、素晴らしい人も居たもんだ。生い先短いと『祖父母』のどっちかとか?」


「いいや、そのどちらでもない。『私が聞いた話』によると、その『実行者』は『無意識』だったらしいよ。無意識に『条件』を達成し、見事に相手を蘇生させた」


「ふぅん。偶然に条件を踏めるんなら、簡単な方法なのかもね」


「どちらにしろ、儀式をした人にとっては生き返したいほどの相手だったって事か」


「……、……ああ、そうだ、言い忘れてた」


とナトリは肩をすくめ、


「ごめんごめん。蘇生した者は五体満足、とは言ったが、本人(蘇生者)には多少なりとも『齟齬』はあるみたいなんだ。生活に支障のないレベルのね」


「齟齬? って言うと、多少のズレって感じ? 蘇生したあと食べ物の好みが変わる、みたいな?」


「ああ。人によりけりらしいが、一部の者は『過去の記憶が曖昧に』なったり、『実行者と同じく存在感が希薄に』なったりするようだね」


「あら、可哀想に。ま、それだけなら確かに、少し困るってくらいの齟齬(ズレ)だねぇ」


「……うん、まぁ、『君がそういう認識』なら他人がどうこう言うのは違うよね」


なんだか引っ掛かる言い方だな?


「と、まぁ、私が君にしたかった話は以上だ」


フゥ、と一仕事終えた後のように息をつく名取。


「なんだか、普通に昔話朗読会って感じだったね。因みに、君が知る『蘇生』の逸話はそれくらいかい?」


「ん。他にも知ってはいるけど、君が好きそうなドラマ(脚本)ではないと思うよ。気になるならまた今度ね」


「今度漫画にして見せてくれ。それか小説で。女優なんだからその辺上手いっしょ?」

「君は女優をどういう仕事だと……」



「おーい、お兄ちゃんー!」



「おや、リノちゃんが呼んでら。じゃ、僕は戻るね」

「ああ。…………けれど、忘れないでくれよ?」

「なにを?」


「君と私は『昔』…………」


「早よいえ。『元カノ』だったとかいうオチ?」

「ふふ、さぁて。それを言うのは野暮だろ?」

「そうかぁ? 君は『匂わせ』ばっかだねぇ」



「どこですかー」



「シノさんも探してら。したば、またね。帰ったら連絡すっから」


「またね」

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