44 亀


「やぁヨモ君」


ヒラヒラと手を振る幼馴染のナトリ。

その姿はセクシーな赤のビキニ。

彼女の髪色と同じ妖しい色。

水を含んでるからか、その赤髪は今、昨日の『雨宿りバス停』の時と同じように少し『深い紅』に。

水着姿なのは、場所が河原なんだから何もおかしくない。


僕は「やぁ」と手を上げ、


「夢ぶりだね」


「なんともまぁ、ロマンチックな口説き文句だ。君らしいや」

「一人で川遊びかい?」

「んー、まぁそんなとこかな。この辺はひと目も無いし、伸び伸びするにはうってつけの場所さ」

「残念だな、それももう終わりだ。これからここでビービーキューをさせて貰う」

「侵略者め。ま、別にもう川遊びは堪能したからいいんだけどね」


肩をすくめるナトリ。

どうせだからと、僕はねっとり、彼女のスタイル(肢体)を上から下からと観察する。


出るところは出ていて、引き締まっている所は引き締まってる健全ボディ。

その白い素肌は、水を弾くほどにツルンとすべすべ。

シノリノ姉妹と…………いや、比べるのは違うな。

これはこれで別の需要がある。

姉妹が早熟なだけだ。

姉妹はJKではなく、シノリノという種族なのだ。


「堂々と睨め回してくるじゃないか。遠慮とかないのかい?」


「ちらちら見るよりは堂々としてる方がカッコいいだろ」

「そうかな……そうかも……」


チラリ

ナトリは視線を僕の『隣』に移して、


「それより。その子らが、君のヒロインかい?」


にこやかな顔だが、感情の読めないその深い瞳を、姉妹に向けた。

初めて見る顔? かな。

何考えてるか興味あるー。


「確かに、私も丁度、紹介して頂きたい所でした」

「私のセリフ取らないでよお姉っ」


一方、蚊帳の外状態だった姉妹も同じ様子だ。

僕を間に挟んで ぐにゃぁ〜 と空間が歪む感覚。


僕は首を傾げ、


「不思議な反応だね。三人とも、お互いを知らないの? 昔は仲良さそうに遊んでたのに」


「なんの話? お兄ちゃん」

「僕の夢の中(前々話)の話」

「じゃあ知らないです。…………にしてもこの残り香……昨夜の、玄関の……」


すると、顎に手を当てていたナトリが、


「成る程……君のヒロインとは、かの有名なアイドル『シノリノ』の二人だったか」


「言わなかったっけ?」

「言われたかな……まぁ、それはどっちでもいいさ。『重要なのは今』だ」

「それはそう」


「あっ! 誰かと思えば写真の女だなっ」


「リノ、失礼ですよ。『初対面の相手』に女呼ばわりは無いでしょう」

「彼女はナトリってんだ。けど、なにかリノちゃんをイラつかせるポイントあったっけ?」

「私は初対面だろうが『本能的に危険』と感じた相手に平気で噛み付ける小型犬のような女なんだっ」

「自覚してるのであれば改善して下さい」


「いいや、二人ならナトリの事を知ってる筈だね」


「どんな自信ですか。今のやり取りの時点で既知の間柄では無いと分かるものでしょう」

「でも最後に会ったのが子供時代っしょ? 成長して見た目が変わったとか、子供特有の忘れっぽさとか」

「いや、寧ろ子供の頃の方が記憶力強いんじゃないっ? お兄ちゃんは私達の事忘れてたけどっ」

「チクチク言葉やめい」


とほほ、こんな事ならヨミちゃんも田舎に連れてくるべきだったな。

彼女なら、当時の僕ら(子供時代)を覚えてるかもだし。

なら今からビデオ通話でもしろって話だが、それはなんか面倒だから却下。

ヨミちゃんも『面倒くせぇ』ってすぐ通話切りそうだし。


「てか、ナトリはなにも覚えてないの?」


「さて、どうだったか。察するに、子供時代にこの田舎に来てたって話なら、そりゃあ顔を合わせる機会がゼロとは言えないだろう」

「やっぱガキ時代に会ってたけど忘れてるパティーンかぁ」


まぁなんで僕自身、姉妹とナトリの会った会わないにこんだけこだわってるのかは謎だけど。

顔の知る女の子同士が仲良くしてる姿を見て一杯引っ掛けたいだけかしら?


「あ! てかこの特徴的な赤髪! よく見れば『有名なアノ女』じゃない!?」


「だから、その女呼びをやめなさい」

「おいナトリ。お前有名なのか?」

「さて、どうだかね。シノリノ姉妹に比べたら一般人とそう変わらないと思うけど」

「シノさんは知ってる?」

「……先日アルバムを見た際に、髪色や名前を聞いてもしやとは思っていましたが……いや、というか、なぜ貴方が知らないんです?」


スマホを弄っていたシノさんが、とある動画を僕に見せる。

その画面の中で、ナトリは『別人』となっていた。


「あー、思えばこの映画、ヨミちゃんと見に行ったなぁ。すごい話題作で、いくつか賞も取ってたよねぇ。って、この主演女優、もしかしてナトリ?」


「やっぱり、気付いてなかったんだね。前会った時は普通に『あの映画、◯テマかと思ったら良くてさー』って作品の感想を言ってたのに」

「化粧してたから気付けなかったんじゃないかな?」

「特殊メイクはしてないよ。あと、その日にもう一本見たっていう『アニメ映画の声優』も私だよ」

「なにっ! サインくれよ!」

「アニメ声優と聞くとテンションの上がりようが違うね……」

「オタクの本能ってやつさ」


しかし……今の話を統合するなら……


「ナトリは『女優』をしてるって事かい?」


「ん。まぁ、そういう事になるのかな」

「言ってよー」

「結構テレビだのの露出は多かったと思うんだけどね……」

「ナトリ、まさか君に、そんな承認欲求があったとは」

「女優=承認欲求の塊というイメージなのが君らしいけど……まぁ、そうだね。私は『見て貰いたかった』んだ」

「なら遠慮は要らねえって事か(ジロジロ)」

「今は違う。というか……いつまでもこうして水着姿で居るのも恥ずかしいんだが……」

「なら今から僕らも水着になるぜ」


「いや、私は着ませんよ」

「お兄ちゃんの前でしかアタシャ脱がないからねっ」


「姉妹の水着も見たいなぁ。三人を一つのフレームに納めたいなぁ」

「強欲過ぎるのもダメという事さ。……さて。私はそろそろ上がらせて貰うよ」

「この後バーベキューもするんだが?」

「参加出来るのは君みたいな鉄の心臓の持ち主だろうね。なに。また、『すぐに会える』だろうさ」


チャプ チャプ チャプ


サンダルをパチャパチャさせながら、川から上がるナトリ。


「ほらっ」

「えっ? っとと」


フワリ 僕が投げたタオルを、予想外という顔でキャッチする彼女。


「見た感じ、身体拭くの持って来てないだろ? へっ、貸し、なっ」

「昨日もタオル借りてその日の内に返したってのに……全く、君には敵わないね」


ナトリは水分をコシコシ拭いつつ、「ならコレの返却は、『帰った後』にでも」と言って……その場を後にした。


「……もう! お兄ちゃんと来たら!」


「なんだいリノちゃん、そんなにプンプンして」

「ワザとでしょっ。ウチらの前で他の女とイチャついて嫉妬させようって魂胆だねっ」

「くくく、効果は抜群だったようだな?」

「グギィ!」

「貴方もあまりリノを煽らないで下さい」

「シノさんは大人だなぁ」

「へっ、お姉も心中穏やかじゃないくせにっ」

「ほんとだっ、眉毛がピクピクしてるっ」

「気の所為ですっ」


「それにしたって君ら、ナトリに敵対オーラをバリバリ漏らし過ぎだよ」


「お兄ちゃんは警戒心なさ過ぎだよっ。あの女は信用ならないねっ」


「流石は僕を家に拉致った極悪妹だ、その悪(似た者同士)に対する嗅覚は信頼して良さそうだね。でもまぁ、僕的にはいつもの遣り取りをしてるわけで、特に警戒する要素は無かったけど?」


「そのいつもさが油断を誘うんだよっ。現にお兄ちゃんはさっきも警戒心ゼロだったでしょっ。それこそ相手の思う壺だっ」

「本当、どの口が、な妹ですね……」

「ふむ。つまりは僕がまた拉致られる心配をしてくれてるわけか。全く、要らぬ心配だぜ? 僕を誰だと思ってる」

「くそっ、心配過ぎるよっ。これは更に位置特定系グッズをお兄ちゃんに持たせないとっ」

「現段階でいくつ持たせてるんですか……」


やれやれ、心配性なリノちゃんだ。

コレは僕もしっかりしないとな。


「はいはいっ(パンパン)。僕ら、遊んで汗だくになったから泳ぎに来たんだぜ? サッパリしなきゃ(脱ぎ)」


「むぅ! 誤魔化されてる感じ! でも、確かに今泳がなきゃもうタイミングは無いねっ! (脱ぎっ プルンッ)」

「いや、本当に泳ぐんですか………………(脱……)」


そうして、水着姿になる僕達。

なんやかんや、シノさんは中に水着を着ていたらしい。

リノちゃんは今から着替え始めるらしく絶賛下着姿だが、下着も水着も変わらんしもうそのままでいいじゃ無いだろうか?


それはそれとして、二人が水着姿になった。

二人とも、初めて見る夏色の水着。


「素晴らしいぜ二人とも。心なしか、二人して、前……の候補(風呂なりプールなり)が多過ぎるけど、前に見た水着よりサイズアップしたかい?」


「流石は目利きのお兄ちゃんだねっ」

「……そういうのは、分かってても言わないのがマナーです」

「今なお成長が止まらぬとは天晴れだ。まるで亀だねっ」

「成長限界が無いという意味でのチョイスでしょうが、普通に煽りに聞こえますね」

「にしてもさっきのあの女っ、ウチらの服装チェンジについては触れ無かったねっ」

「僕がリノちゃんのワンピを着て(リノちゃんが僕の服を着て)た事? んー、まぁナトリ的には見慣れてるからね。僕もよく訳あってヨミちゃんと服トレードしてるし」

「おかしな兄妹……ですが、今更もう驚きません」


さっ、川でサッパリした後は丁度いい時間だろう。

バーベキューのな!

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