38 ローカルガール

気付けば、もう週末だ。


この土日は、祖父母のいる田舎に行ってのんびりする予定である。


しっかし、今週はいろいろ忙しかったなぁ。


姉妹を僕んちに泊らせたり……

アルバイトもこなしたり……

ヨミちゃんが生徒会長を辞めるイベントがあったり……


それぞれが一悶着ありまくりなイベント尽くしの一週間だったが、良い具合におさまった(個人の感想)ので良かった良かった。


いや……まだ今週は終わってなかったか。

この土日の故郷帰りでは、一体、何が待ち受けているのか……



ガタンゴトン ガタンゴトン


「いやー、田舎田舎。車窓から見る景色はどこもかしこも田舎(カントリー)だ。休日の昼過ぎにやってるローカル電車の旅って感じだねぇ」


「あー、面白いよねぇアレっ、たまに見るとっ。ゴールデンじゃ見なくなった芸人さんとか出てたりお馴染みのタレントさんが出てたりっ」

「頭空っぽで見るタイプのやつですね。同じ時間帯に放送している〇んでも鑑定団やらも」

「お宝かぁ。ジジババんちからなんかいい(値打ち)もん掘り出されないかなぁ。可愛い孫からのおねだりならなんでもくれそう」

「あたいもグランマグランパに掛け合ってみるよっ。そんで番組に出ようねお兄ちゃん!」

「貰えた所で換金作業が手間だと思いますが……」

「あー確かに。〇〇万円! って価値が判明しても、どこが買い取ってくれるの? って話だし。そこは美術館?」

「やっぱり、貰うんなら現ナマか宝石やら貴金属だねぇ。田舎は金のインゴットを溜め込んでる家多そー」

「偏見……と思いましたが、その認識は分からないでもないですね……」


ガタンゴトン ガタンゴトン


キャッキャ ヤダー


「お? よく見たら電車内にローカルJK? JC? おるやーん?」


「指差さないで下さい、失礼ですよ」

「素材の味って感じだねっ、かわいー」

「私達も別に、都会に住んでいるわけではないでしょう……」

「ジャージ姿だから部活に行く途中かな? 朝練帰りかな? 土日だってのにご苦労様だねぇ。どれ、おいちゃんがアメちゃんでも渡そう」

「怪しすぎて受け取りませんよ」


ふと。

僕らが視線を向けていたからだろう。

ローカルガール達がこちらに気付き、


ネ ネーアレッテー ウソ! マジー?!


とヒソヒソ話し出す。

やはり、銀髪ハーフ美少女な姉妹は目立つか?


「あははっ、不味いよお兄ちゃんっ、不審者として通報されるかもよっ」


「なにっ!? とほほ、まさか田舎に辿り着けずゲームオーバーになるなんて。田舎はもうこりごりだー」

「流石にまだ通報案件ではありませんよ、多分」


フェードアウト寸前の僕。

見れば、ローカルガール達がジリジリと此方に近付いてくる。

今度こそ終わりだと諦めていたが……


「あ、あのー、もしかして、『シノリノ』のお二人ですか?」「ファンなんです!」


おやおや。

どうやら、元アイドルな姉妹のお陰で、この場は乗り切れそうだな?


「たははー、どもー」

「……」


「もう活動はしないんですかっ?」「ネットでも何でもどんな形でも良いのでっ」


ううむ、確かに、今もこんなファンが多いだろうね。


突然の引退宣言。

理由も謎。

リノちゃんは生放送やらの活動をしているとはいえ、姉妹での活躍をまた見たいという声も止まないだろう。


「まっ、気が向いたらねっ! 今の私達はようやく『夢を叶えた』所なんだっ。ネッ、お姉っ」

「どうなんでしょうね。最近では悪夢なのではと思ったりも」

「もうっ、素直じゃないんだからっ」


「お、お二人の今が幸せそうなら良かったですっ」「頑張って下さい!」



その後は、イェーイと女の子達同士で写真を撮ったりなんだりして、ローカルガール達は僕らより先に下車していった。

僕は空気を読み、最後まで傍観者。


「良い子達だったねー、理想のファンのムーブって感じっ」


「ファンがあんな子達ばかりならねぇ。大半のファンはグヘグヘ言う連中だしっ」

「それは言い過ぎ……でも無かったですね」

「つか、記念写真なんて大丈夫? ネットリテラシー的な意味で」

「ウチら降りる駅は知らないだろうから大丈夫でしょっ」

「リノはその辺の警戒心が薄い時がありますからね。身バレしてお互いの祖父母に迷惑が掛からなければよいですが」


……お?


「外見てみっ。さっきの子達が自転車に乗って手ぇ振ってるよ。おーい」


「あはは、田舎のキッズは元気だねぇ」

「貴方が手を振っても反応に困るでしょうね」

「あー、ガール達、流石に追い付けなくなったか。どんどん遠くなる」

「一期一会って感じだねっ」

「明日の帰りの電車で会ったら少し気まずいですね」


『次はー 五色(ごしき)、五色ですー』


「お、次の駅だよ。準備しよっか」


「意外と早かったねっ。楽しい時間は過ぎるのが早いっ」

「この後嫌なイベントがあるみたいじゃないですか」

「あっ、電車の旅といえば冷凍みかんなのに持ってくるの忘れたっ」

「そーゆの食べるのは新幹線とかじゃない? シンカンセンカタイアイスとかと一緒に」

「みかんでも買って家で凍らせて帰りの電車で食べれば良いじゃないですか」



そんなこんなで、昼前、僕らは目的の駅に到着。


都会と違い、飲食店も売店も無く、良くて自販機が置いてあるような田舎駅。

無人駅よりは少しマシな程度。


「んー(伸び伸び)……はぁ。田舎の空気は美味いねぇ」


「わかるー。肺の空気入れ替えられてデトックス(解毒)って感じっ」

「田舎は田舎で車社会なんで排ガスまみれだと思いますがね。……それで、この後どうするんです? バスで移動ですか?」

「いや。電車の中でメールしたら、駅まで迎えに来るってさ。お? てかもう居るじゃん」


ブウウウゥゥゥゥ…… キィ


軽自動車が僕らの前で止まる。


それから ウィーン と窓が開き、


「みんなお待たせー。さー乗って乗ってぇー」


顔を出したのは僕のバァちゃんである。


「タイミングばっちしだぜバァちゃんっ。ほらっ二人ともっ」


「「し、失礼しま(ー)す」」


ガチャ バタン

ブウウウゥゥゥゥン……


走り出す車。

僕は助手席で、姉妹は後部座席だ。

車は、懐かしい気持ちになる『お香』の香り。


「やぁ、ビックリしたよぉ。急に『週末にオニーちゃん達が行くから』って連絡が来てさぁ」


「ちゃんとママン、連絡してくれてたんだね。寧ろそっち(連絡無し)の方がサプライズになって良かったかな?」

「そしたらオニーちゃん達迎えに行けないよぉ。連絡無しでもメールすれば来ると思ったのぉ?」

「そりゃあね。で、当然、帰ったら用意されてるんでしょ? ブル◯ンのお菓子とか謎ゼリーとか」

「いやぁ? 忘れてたから、コレから買おうかなと思っててねぇ。途中スーパーに寄るよぉ」

「うーん……用意されてるのと買うのとじゃ、食べる時の気持ちの違いがねぇ」

「というか、(妹の)ヨミちゃんはー?」

「僕と二人じゃないなら行かないってー」

「相変わらずのオニーちゃん大好きっ子だねぇ。あ、そーいえば」


バァちゃんは、バックミラー越しに後部座席を見て、


「シノちゃんリノちゃんだよねぇ? テレビでは見てたけど、えらいべっぴんさんになってー」


「ど、どうも……」

「いやーっ、イザナさん(バァちゃん)もお若いですよっ。昔と全然変わってない感じっすっ。いやほんとっ、怖いぐらい年取ってないというか……三〇代と言われても信じますよっ」

「あははっ、やっぱりゲーノージンさんは持ち上げるのが上手いねぇ」

「いや、ウチのババアはただの不老の妖怪だから」


ペシリとバァちゃんに叩かれたりしつつ、僕は流れる田舎の風景に目をやる。


相変わらずの田んぼと畑と農協の建物やらと……


いや、あの建物はこんな放置されたように寂れてなかったし、あの畑も伸びっぱの雑草塗れでもなかった。


管理する人が居なくなったのか、単にシーズンじゃないから手付かずなのか。


うーむ……前者だとしたら、自分の土地でもないのに物悲しくなってくる。


そんなサイクルなんて、都会でも当たり前のようにあるというのに、田舎の、という属性を付けるだけでそう(しんみり)なるのだから不思議。


フッ


ん?

今……

窓の外に『少女』が見えたような?


デジャヴに近い感覚の、どこかで見たような気のする少女。

振り返る。


後部座席のシノさんと目が合い、パチクリと不思議そうな顔をされた。

奥の後部窓に視線を移すも……既に、見えるのは田舎の風景のみ。


「オニーちゃん、なにしてるのぉ? そろそろ◯ックスバリュー着くよぉ?」


「ん? おお。なんか、田舎のホラー話の冒頭みたいな体験をしてね」

「お兄ちゃん変な場所に行かないでよっ。謎の祠を壊しちゃったり行っちゃいけない場所行ったりっ」

「フリはやめなさいリノ」



それから、地元スーパー(とは言いつつ全国チェーン)でのお買い物タイム。

スーパーは土日で昼の時間帯だからか、そこそこの混みよう。


僕は、夏だけど天ぷらが食べたいなぁ、とだけリクエストし、後は女子達(一人ババア)にお任せ。

姉妹は僕んちでママンと絡んでた時みたく、一緒に行う夕飯作りの話をしていた。


夜は、姉妹んちのジジババも家に顔を出しに来るという。

僕らそっちのけで飲み会が始まって、うるさい夜になる事が決定だ。


アレ? そもそも僕ら三人、なんで田舎に来たんだっけ?

うーん、思い出せない。

まぁ、田舎を感じに来た、という理由の後付けでいいか。


「前に家でも天ぷらやったんすけど、その時は野菜中心だったっすっ」

「そぉ? じゃあシーフード系のお天麩羅にしよっかぁ。ホタテとかイカとかぁ」

「麺系にしますか? 蕎麦とかそうめんとか」


「ちょっとトイレ」


僕の呟きは誰の耳にも届かず、僕は一人とぼとぼとトイレへ向かった。



ジャアー


「ふぅ(フキフキ)寿司。なんか寿司食いたくなって来たなぁ。手巻き寿司」


シーフードな天ぷらとシーフードなお寿司でシーフードが被ってしまうがそれはまぁ良いだろう。

寧ろ、買う物が纏まって効率的、まである。


「……ん? スマホにメッセージ、バァちゃんから来てる?」


『家の用事思い出したから姉妹と先に家に行ってるよぉ。タクシーかバスで帰って来てねぇ』


な……なんてババアだ!


見れば、姉妹からは『今どこ?』というメッセージが来てたみたいだけど、気付けなかった。

普通に置いて行きやがって!


とは言うものの、ここから祖父母宅までは徒歩三〇分くらいの距離。

歩ける距離……だけど、面倒いんで交通手段で帰ろう。

これも旅の醍醐味だ。



そういやお昼がまだだった、て事で、おにぎりと惣菜とお茶を購入。

買い物袋片手にスーパーを出る。


タクシーはスーパーの駐車場で簡単に拾えるけど……そしたらメシを食い終わる前に家に着いちゃうな。

ここは、敢えて不便を楽しむ為にバスを選択しよう。

どうせ田舎だし、こっから二〇分くらい待つ羽目になるだろう。


丁度、スーパーから少し離れたあそこに、屋根付きのバス停が見える。

そこで食べよう。


僕はテクテクと歩き始めて……


ポツ ポツ ポツ


「むっ!?」


あ…………


雨だ!

急に降って来た!

うわ!

なんか急にバスに乗るのが面倒くなって来た!

タクシー乗っときゃ良かった!


かと言って……今からスーパーに戻ってる方が濡れちゃうな……


ええい!

このままバス停に飛び込むぞ!


タッタッタ……


「ふぅぅ」


パンパンと雨粒を払い、バス停の中のベンチへ腰を掛ける。

利用者は僕だけだ。

僕の城だ。


はぁ……切り替えよう。


さて。

次のバスが来る時間は……十分後か。

田舎はその辺ルーズだから、実際の時間は一五分後、とかだろうな。

つまり、そこそこゆっくりメシが食える。


「(ガサゴソ)何から食べようかなっと…………ん?」


タッタッタ……


ゲッ!

人の足音!

バス停まで走ってくる音!

やだ!

人がいると落ち着いて食えない!


タッタッタ!


「ふぅっ! …………あっ」


バス停に飛び込んで来たのは……


赤い髪色の……海外の女の子?

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