解呪(※ステータス表記あり)

 セフィラの足を治すのは、グレフ村の治療院では無理だと言われた。

 そこまで大きな施設ではないし、解呪に詳しい人間もいないらしい。


 そういうわけで、もっと大きな治療院のあるアルムの街までやってきた。


 イオナに乗って近くまで飛んでもらい、そこから降りて街中に入る。


「耳が目立つな……悪いけど、これを着てフードを被ってくれ」

「はい」


 セフィラに上着を貸して身に着けてもらう。これで悪目立ちするようなことはないはずだ。


 さて、治療院に行く。

 対応してくれたのはいかにも経験豊富そうな老女だった。


「ふむ……まず、この娘を歩けるようにするためには二つ必要なものがあるのう」


 セフィラを診察した老女はそう言った。


「必要なもの?」

「中級ポーションと、解呪ポーションじゃ」


 老女いわく、セフィラの足には呪いの他に、怪我もあるそうだ。


 セフィラの足が不自由なのはざっくり斬られたようなその傷が原因。

 それ自体は中級ポーションがあればすぐに治すことができる。


 しかし厄介なのがその上からかけられた呪いで、これには怪我が一定以上治らないようにする効果があるらしい。


 この呪いのせいで足首の傷は血がぎりぎり止まる程度で固定されてしまっている。

 怪我を治すには、まずこの呪いをどうにかしなくてはならない。


「解呪ポーションはここには置いていないんですか?」

「ないのう。材料の『ヒラギ草』があれば、すぐに用意してやれるんじゃが」


 ヒラギ草か。


「シル、探してくれ」

「はーい。んー、一番近いところだとイオナで半日くらいかな」

「あたしを乗り物みたいに言わないでくれる?」


 意外と近いな。それならすぐに採集できそうだ。


「それじゃあ明日また来ます」

「へ? 明日……? ま、まさか採集に行くつもりか!?」

「はい。うちには優秀なサーチ役がいるので」

「えへへぇ~」


 俺の言葉にシルがでれっと笑みを浮かべた。最初に試練を受けたときの威厳はもう欠片もないな。


「ふむ……あそこには『パラライズビー』と呼ばれる蜂の魔物が棲みついておる。針に刺されれば麻痺によって動けなるゆえ、気をつけるとよい。また、やつらは火が弱点じゃ」

「詳しいですね」

「うむ。情報代としてヒラギ草を多めに持ってきてくれ。最近なかなか手に入らんのじゃ」

「……はい」


 ちゃっかりしてるな、この人。





 アルムの街に宿を取り、セフィラをそこに置いてヒラギ草の群生地がある『色彩の樹林』に向かう。


 それにしても、前に戦ったサファイアワイバーンに続いて今回も麻痺毒を持つ魔物が相手か。

 状態異常系の対策も欲しいな。


 ああ、別に今回は期限もないし召喚スポット巡りをしても問題ないのか。


「着いたわよ」


 イオナの背から降り、俺はシルに尋ねた。


「シル、この近くに召喚スポットはあるか?」

「あるよ!」

「それじゃあ、そっちを先に回収するか」


 何か新しいスキルを得られるかもしれないからな。


 その後しばらく『色彩の樹林』をめぐり、俺は新たな召喚獣を四体手に入れた。



ロイ

<召喚士>

▷魔術:【召喚】【送還】

▷スキル:【フィードバック】

▷召喚獣

煉獄ノ雌竜イオナ(力上昇Ⅲ/魔力上昇Ⅲ/スキル【火炎付与】/スキル【火炎耐性】)

水ノ重亀(耐久上昇Ⅱ)

水ノ子蟹×2(耐久上昇Ⅰ)

水ノ子井守(敏捷上昇Ⅰ)

水ノ子蝦蟇(敏捷上昇Ⅰ)

天空ノ翔鳥(敏捷上昇Ⅱ/スキル【飛行】)

風ノ子蜂(力上昇Ⅰ)×3

風ノ子梟(魔力上昇Ⅰ)

大地ノ穴土竜(力上昇Ⅰ/耐久上昇Ⅰ/スキル【掘削】)

地ノ子蟻(力上昇Ⅰ)×2

地ノ子甲虫(耐久上昇Ⅰ)

樹ノ蔓茸(スキル【蔓操術】)

樹ノ悪食蛇(スキル【状態異常耐性】)

樹ノ幻惑蝶(スキル【幻惑粉】)

樹ノ子鼠(敏捷上昇Ⅰ)×3

樹ノ子百足(力上昇Ⅰ)

▷召喚武装

導ノ剣:あらゆるものへの道筋を示す。




 今回はスキル持ちを二体も手に入れることができた。


 【状態異常耐性】の効果はおそらく文字通り、毒や麻痺に強くなるものだろう。


 【幻惑粉】のほうは、相手に幻覚を見せるスキルのようだ。

 適当に魔物に向かって試したが、スキルを受けた魔物はその場でぼうっとしていた。白昼夢を見ているような感じだ。相手に隙を作るのに使えるだろう。


 さて、召喚スポット巡りも済んだので次はヒラギ草の採集だ。





 シルの案内に従いヒラギ草の群生地へと向かう。


『『『ギシャアアアアアアアアアッ!』』』


 情報通り、そこには大量に蜂型の魔物がいた。


『ギイイイイイイイイイイッ!』


 奥にはひときわ大きい個体がいて、周囲の蜂たちに指示を出しているように見える。

 あれが群れのリーダーか……?


「シル、剣の姿になってくれ! イオナは刺されないように気をつけながら、できるだけ群れを引き付けてくれ」

「わかった!」「了解よ!」


 シルを構えて蜂たちの中に突っ込んでいく。

 数は多いが――


「「【火炎付与】!」」

『『『ギィイイイイイイイイイイイ!?』』』


 昨日治療院の老女に聞いたとおり火に弱いようだ。視界の端では、俺と同じスキルを使ってイオナは拳に炎を宿して戦っている。


「うおっ……」


 びりっ、という感覚が腕に走る。

 パラライズビーの麻痺針が俺の腕をかすめたのだ。


 本来なら動けなくなるはずだが、問題なく俺は動けた。新しく手に入れた【状態異常耐性】のおかげだろう。


 イオナが敵の大部分を引き付けてくれている間に俺は奥へと突っ込み、群れのボス――おそらく女王へと斬りかかる。


『ギイッ……』

「逃がすか! 【飛行】!」


 上空に向かおうとする女王蜂を【飛行】スキルで追う。


「【幻惑粉】」


 新たに得たもう一つのスキルを使い、女王蜂の動きを止める。

 そして、叩き斬る。


『ギャアアアアアアアアアアアアア!』


 女王蜂は真っ二つになって落下した。


 すると途端に他の蜂たちが混乱し始める。

 どうやら女王蜂から指示を受けていたらしい。

 蜂たちはそのまま逃げ去っていった。


 戦闘終了だ。

 俺は召喚獣たちを大量に呼び出し、ヒラギ草を採集した。


「よし、帰るか」

「「はーい」」


 そんなわけで目的を果たした俺たちは『彩色の樹林』を撤収した。


 ちなみにパラライズビーの女王は一応近くの冒険者ギルドに持ち込んだら、そこそこの値段で売れた。

 どちらかというと、ヒラギ草の群生地を安全にしたことを感謝されたが。


 少し期待したが、冒険者ランクは上がらなかった。

 さすがにそこまで甘くないか。





「これが採集してきたヒラギ草です」

「ぎゃあああああ!? 何じゃこの数!?」


 治療院にヒラギ草を持ち込んだら悲鳴を上げられた。

 多めに持ってこいって言ったのはそっちだろうに。


「それより、解呪ポーションの調合をお願いします」

「わ、わかったわい。いやはや、とんでもない冒険者がおったもんじゃのう……」


 老女はそんなことを言いながらも手早く調合を行ってくれた。

 そのやり取りを聞いていたセフィラがぽつりと言う。


「ロイ様は……すごい方なのですね」

「うんうん、そうなんだよ!」

「何よあんた、話がわかるじゃない」


 なぜか俺以上にシルとイオナが嬉しそうにしている。恥ずかしいからやめてほしい。


「できたぞい」

「いくらですか?」

「タダでええわい、タダで。あれだけヒラギ草を採ってきてくれたんじゃからのう。もちろん、ヒラギ草のぶんの代金も払うぞい」


 そう言いながら、解呪ポーションと中級ポーションを渡してくる。


 別に今は金には困ってないんだが……まあ、ヒラギ草の代金は少しまけさせてもらおう。

 また世話になるかもしれないし、治療院とは良好な関係を保ちたい。


 ポーションをセフィラの足に使う。

 まず解呪ポーションで、セフィラの怪我の具合を固定している呪いを解く。

 そして中級ポーションを使い、怪我も治す。


「……! た、立てます。普通に歩けます」


 セフィラが感動したように目を見開く。

 よかった。これで移動に支障はなさそうだ。


 セフィラは俺の前までやってきて、深く頭を下げる。


「……申し訳ございません、ロイ様。私なんかのために、お手間をかけさせてしまって」

「……どっちかって言うと、俺は謝罪より感謝のほうが嬉しいんだけど」


 俺の言葉にセフィラは驚いたように顔を上げ、それからこう言った。


「ありがとう、ございます」

「どういたしまして」


 こうしてセフィラは健康な足を手に入れたのだった。

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