『大地ノ穴土竜』(※ステータス表記あり)
「はあああっ!」
巨大モグラ目がけて駆け出し、剣の姿になった『導ノ剣』を振り下ろす。
『グモォッ!』
巨大モグラは俺の斬撃を鋭い爪で弾き返してくる。なんてパワーだ!
『ロイ、力押しでは勝ち目がないぞ!』
「ああ。けど、スピードはこっちが上だ!」
相手の力のほうが強いため、一撃離脱を繰り返して着実にダメージを与える戦法を取る。
巨大モグラはぶんぶんと爪を振り回すがすべて空振りに終わり、逆に俺の攻撃は巨大モグラにダメージを蓄積させていく。
『グモォオッ……』
巨大モグラはあちこちに切り傷を負い、体をよろめかせる。
このままいけば倒しきれるだろう。
そう考える俺の前方で、巨大モグラは両前脚を地面に叩きつけた。
……何をするつもりだ?
『グモォオオオオオオッ!』
瞬間、巨大モグラがもの凄いスピードで穴を掘り始めた。あっという間に巨大な穴を作り出し、そのまま地面の中へ潜っていく。
やがて試練の間全体が揺れ始める。
巨大モグラが地面や壁の内側を凄まじいスピードで移動しているのだ。
『気をつけろ、仕掛けてくるぞ!』
「ああ!」
おそらく巨大モグラは地中に身を隠し、こちらの死角から襲うつもりだろう。
かなり厄介だ。相手が見えない以上は俺から攻撃することはできないし、迎え撃とうにも、相手がいつどこから現れるかわからない。
『グモォオッ!』
「うおっ!?」
地面が強く揺れ、俺の足元から巨大モグラが飛び出してくる。
俺はぎりぎりのところで巨大モグラの爪をかわし、離れた場所に着地する。
巨大モグラはそのまま穴からは出ず、再び地面の中へと戻っていく。
どうやら俺に深手を負わせるまで、意地でも地上には出てこないつもりのようだ。
このままじゃジリ貧だ。せめて相手の場所がわからないと――って、待てよ?
「『導ノ剣』! あのモグラの位置を探知してくれ!」
『任せろ!』
『導ノ剣』が能力を発動し、俺の足元から青い線状の光が伸びていく。
これで相手の居場所が割れた!
俺は青い光が示す壁へと剣を突き入れた。
『グモォオオオオオオオオオオッ!』
確かな手ごたえを感じた直後、巨大モグラが壁の中から転がり出てきた。
その胴体にはしっかりと剣が刺さっている。
「まだやるか?」
『グモォ……』
巨大モグラは首を横にぶんぶん振って否定。
どうやら試練は終わったようだ。
そして試練の間を光が満たしていき、気が付けば俺は召喚スポットの外にいた。
召喚スポットは役目を終えたように消えていく。
契約成立だ。
『やったようだな、ロイ』
「ああ。お前のおかげだ。ありがとう、『導ノ剣』」
『ふん、このくらい当然だ』
さて、さっそくステータスの確認だ。
ロイ
<召喚士>
▷魔術:【召喚】【送還】
▷スキル:【フィードバック】
▷召喚獣
風ノ子蜂(力上昇Ⅰ)
風ノ子梟(魔力上昇Ⅰ)
大地ノ穴土竜(力上昇Ⅰ/耐久上昇Ⅰ/スキル【掘削】)
地ノ子蟻(力上昇Ⅰ)×2
地ノ子甲虫(耐久上昇Ⅰ)
樹ノ子鼠(敏捷上昇Ⅰ)×2
樹ノ子百足(力上昇Ⅰ)
▷召喚武装
導ノ剣:あらゆるものへの道筋を示す。
「なんかこいつだけ名前が長いな」
『大地ノ穴土竜』、というのがさっきの巨大モグラだろう。
名前も長いし【フィードバック】の中身も他に契約した召喚獣と比べて多い。
『今まで契約してきた召喚獣と違い、さっきの者は幼体でもなかったし、格もけっこう高かったからな。契約が難しいぶん恩恵も大きいのだ』
『導ノ剣』が説明してくれる。
「ちなみに強いっていうのはどのくらいだ?」
『五段階評価なら、最初の『樹ノ子鼠』は一番下で、『大地の穴土竜』は真ん中といったところか』
「……なみにその評価だとお前はどこにくるんだ?」
『もちろん一番上だ』
堂々と言い切る『導ノ剣』だった。
まあ、召喚スポットのサイズからしても実際そうなんだろうけど……自分で言うのか。
とはいえ、さっきの巨大モグラが強い召喚獣であることには変わらない。
「このスキル【掘削】ってのは?」
『『大地ノ穴土竜』と契約したことで、ロイが新しく使えるようになった能力だ。召喚獣と契約すると、肉体の強さだけじゃなく、特殊能力も借りられることがある』
巨大モグラと契約したことで、俺自身が使えるようになったスキルってことか。
さっそく試してみよう。
「【掘削】!」
スキルを使うと俺の両手を不思議な光が覆った。
……これ、まさかアレか?
俺は光に包まれた両手で地面の土をすくってみた。
するとまるで水面に手を突っ込むような抵抗のなさで地面を掘れる。
そのまま手を動かすと、わずか数秒で人間が入れるほどの穴ができた。
「なるほど、こういう能力か」
【掘削】スキルは超スピードで穴掘りができる能力らしい。
地味ではあるが、大規模な魔術攻撃が来たときに緊急脱出したり、鉱石採取の依頼を受けたりするときに重宝しそうだ。
「検証はこんなとこだな。『導ノ剣』、近くに他の召喚スポットはあるか?」
『いや、もうない。今ので最後だ』
「そうか。じゃあ、いよいよ本番だ。――オークを倒すぞ」
俺が宣言すると、『導ノ剣』は『ああ!』と力強く返事をした。
▽
ロイが着々と召喚契約をこなしていた頃。
アルムの街の冒険者ギルドでは、こんな会話が行われていた。
「しっかし支部長、あんたも人が悪いよなあ?」
「はて、何のことでしょう?」
冒険者の一人がニヤニヤと笑いながら支部長に言う。
「とぼけんなよ、ロイのことに決まってるだろ。オーク十体の討伐を命じてただろ?」
「ええ、そうですね」
「確かにオークは対して強くない魔物だが……最近そのオークを率いる『オークエリート』が現れたって話じゃねえか。もしロイがオークエリートに出くわしたら一瞬でやられちまうぜ?」
冒険者の言っていることは正しい。
最近この街のそばにある『魔食いの森』では、オークの上位種であるオークエリートの出没が確認されていた。
オークらしく腕力に秀でるうえ、知能も高い。
冒険者ギルドが定めた危険度のランクは、オークが下から二番目のEであるのに対し、オークエリートはさらに二段階上のCランク。
ロイが遭遇すれば生きて帰れるかすら怪しい相手だ。
支部長は口の端を吊り上げた。
「ふふ、ギルドのお荷物である<召喚士>ごときが、支部長であるこの私に逆らったんです。死んでも文句は言えないでしょう?」
「おいおい、仮にもあいつはギルドに加盟してる冒険者だろ? そんなこと言っていいのか?」
「構いませんよ、あんな無能、私は冒険者として認めてませんからね」
<召喚士>はギルドのお荷物で周囲の足を引っ張るだけの存在。
そんなクズが自分に盾突くなどあってはならない。
「ロイが無様に逃げ帰り、私に必死に謝罪する姿が今から楽しみですよ。あっははははははは!」
支部長はロイがズタボロになる愉快な未来を想像して、腹を抱えて笑うのだった。
――その予想が、後であっさり裏切られることも知らずに。
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