初めての召喚獣(※ステータス表記あり)

「勢いで試験を受けたけど、どうやってオークなんて倒すんだよ……」


 ひとまずオークが出るという『魔食いの森』に向かいながら俺はぼやいた。


 オークは猪のような頭部を持つ二足歩行の魔物だ。

 高さが三メートル近くもあり、拳で木を殴り倒すほどの腕力を持つ。

 支部長に喧嘩を売ったことに後悔はしてないが……どうしたもんかな。


『何を心配することがある、ロイ』

「心配しかないぞ。俺は基礎スキルの【フィードバック】も使えないんだからな」


 【フィードバック】。

 このスキルを使えば、契約した召喚獣の身体能力を借りられる。


 例えば素早さの高い召喚獣と契約すればスピードが、耐久の高い召喚獣と契約すれば頑丈さが<召喚士>自身の肉体にプラスされる。


 <召喚士>が魔物と戦うためにはこの【フィードバック】で身体能力を上げるのが定石だ。


 だが今の俺が契約しているのは召喚武装の『導ノ剣』だけなので、これは使えない。


『問題ない。今のロイで勝てないなら、もっと契約すればいいだけだ』

「……あのな、簡単に言うなよ。召喚契約をするには召喚スポットを探し出さなきゃいけないんだぞ? それがどれだけ大変だと――」


 『導ノ剣』の言葉に反論しかけて、俺は気付いた。

 召喚スポットを『探す』?


「……まさかと思うが、『導ノ剣』、お前召喚スポットを探知できるのか?」

『無論だ。我の能力を忘れたのか?』


 なんということだろう。

 召喚スポットを見つけ出せるというのか。

 既存のどんな技術でも探知不可能だと言われているのに!

 普通なら信じられないが、『導ノ剣』の能力についてはすでに証明されている。


「こ、この近くに召喚スポットはあるのか?」


 駄目元で聞いてみる。

 そう簡単に見つかるとは思えないが、万が一近くに召喚スポットがあればどんな困難があろうとも必ず辿り着いて――


『十個ほどあるな』

「十個!?」


 その数はさすがに想定外だ。


『論より証拠だ。案内してやろう』


 『導ノ剣』の能力が発動し、足元から青い光が伸びていく。

 俺はそれに従って歩き出した。





『ここだ』


 『導ノ剣』の能力に従い森の奥までやってくる。


「この近くにあるのか? どこだ?」

『足元を見ろ』


 言われた通りに視線を下へ。

 あるのは湿った地面や伸びっぱなしの雑草、石ころといった普通の光景だ。

 しかし目を凝らすと、その中に不自然な『揺らぎ』がある。


「……って、まさかこれが召喚スポットか!?」


 木の陰に隠れるように黒い水晶が生えている。

 しかし『導ノ剣』のものが二メートルくらいだったのに対し、これは数センチ程度しかない。


『召喚スポットの大きさは、契約対象によって変わる。我ほどの存在ならばひと目でわかる大きさになるが――』

「自分で言うな自分で」

『逆にあまり強くないものなら、召喚スポットは小さく、また数も多くなる。実際、この森にあるのもそういったものばかりだ』

「だとしても、このサイズはあんまりだろ……」


 召喚スポットはただでさえ見つけにくいのに、こんなに小さくては絶対に気付かない。俺だって『導ノ剣』がいなかったら通り過ぎていたはずだ。


 おそらく世界中の<召喚士>の誰一人として、こんなサイズの召喚スポットが存在していると知らないだろう。


 ……これ、実は歴史に残るくらいの発見じゃないのか?


『契約するなら早くしろ。この召喚スポットはすぐに消えるはずだ』

「ん? どういう意味だ?」

『召喚スポットの大きさと同じで、中にいる召喚獣や召喚武装の格が低いと召喚スポットの持続時間も短くなる。このサイズならおそらく半日も持たないだろう』


 それなら確かに急いだほうがいいな。


「【我は汝との契約を望む】」


 俺は召喚スポットに触れ、試練を始めた。





 試練の間に来たとき、俺はまずその狭さに驚いた。


 『導ノ剣』の時はそれなりに広さがあったが、今はせいぜい安宿一室くらいのスペースくらいしかない。

 周囲にはさっきまでの森と似たような木々や草花が生えている。

 森に近い環境の試練の間、ということのようだ。


『試練の間が森ということは……【樹】属性の召喚獣か?』


 『導ノ剣』がそんなことを言っている。

 試練の間には召喚武装も持ってこられる。俺が召喚スポットに触れたことで、俺と同時にここに送り込まれたのだ。


『出たぞ、ロイ! あれがこの召喚スポットの主だ!』


 前を見ると――そこにいたのは葉っぱのような服を纏った、小さな二足歩行のネズミだった。


『きゅうー』


 ネズミはぽてぽてと俺の足元に寄ってくると、俺の靴の近くを陣取ってまったりし始めた。

 ……なんというか、すごく癒される。


『ふむ。どうやらこやつもロイのことが気に入ったようだな』

「そ、そうか」


 気に入られたのは嬉しいが、それで試練は?


 何が何だかわからないでいると、試練の間がぱあっと輝いた。現実世界に戻ってくる。


 視線を前に戻すと、触れていたはずの召喚スポットが消えていく。

 ちょうど『導ノ剣』の試練をクリアした時と同じような感じで。


『まず一体だな、ロイ。契約おめでとう』

「今ので終わりか!?」


 慌ててステータスボードを確認すると、



ロイ

<召喚士>

▷魔術:【召喚】【送還】

▷スキル:【フィードバック】

▷召喚獣

樹ノ子鼠(敏捷上昇Ⅰ)

▷召喚武装

導ノ剣:あらゆるものへの道筋を示す。



「本当に契約できてる……」


 俺は呆然と呟くのだった。

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