第44話 第1章 エピローグ その4 冥王

 Z寮屋上

 屋上に五つの人影がある。

 冥王とガイコツ、No.1、No.2、No.3だ。

 ガイコツたちは冥王の前に跪いて、その言葉を待つ。


「ホホホ。今日一日、いかがだったでしょうかねえ?」


「ヒョヒョヒョ!冥王様のご指導を受けることができ、生徒たちはその幸運に涙することになるでしょう!」


「問題ないべ。」


「アーシェちゃん、本当に可愛らしい子でしたわあ。」


「ほぉっほぉっほぉっ。面白い生徒たちじゃぞい。」


 ガイコツ、No.1、No.2、No.3が順に答える。


「ホホホ。『盟約の子』に関してはギリギリでしたねえ。『報告書』で予想はされていましたが…まさか今日だったとはねえ…」


「ヒョヒョヒョ。危うかったですなあ!No.103に面目が立たなくなるところでしたなあ!」


「防げて、本当に良かっただ。」


「アーシェちゃん、これからドンドン可愛くなっていくと思うわあ。他にも可愛らしい子が4人もいるし、楽しみだわあ。」


「ほぉっほぉっほぉっ。これで覇王殿の動きも変わるぞい。」


 冥王が潰した未来--アーシェが義兄により慰み者にされた上で有力貴族に売り払われる未来。

 これを知った『覇王グランバーズ』の悔恨と絶望と怒り。

 これが引き金となって勃発する、覇王、獣王、そして冥王の連合軍による『三王戦役』。


『三王戦役』により次の大戦はかつてない凄惨なもなになるはずだったのだ--


「ほぉっほぉっほぉっ。今までの大戦にない始まり方をするところじゃったが…これはあまりに不自然。となると…『あの痴れ者』が関わっていると見るのが自然ぞい。」


 No.3が冥王に告げる。


「『あどみにすとれえた』…!世界の管理者を気取り、災厄をもたらす者!これ以上、お前の好きにはさせぬ!!」


 冥王が一瞬だけ怒気を露わにする。

 かつて封印され、解放されてからの100年。

『あどみにすとれえた』と戦うために費やした。最後の鍵が『盟約の子』なのだ。


「それと冥王様。報告したいことがあるぞい。」


「ホホホ。何でしょうか?No.3アル・バーニヤ。」


「『腐海魔法』を使う生徒…かなりのレベルだぞい。」


「ホホホ。ローズさんですねえ。腐海と言えば…かつての大森林…そこに封印されているのは『邪悪龍ヴァデュグリィ』……」


「ヒョヒョヒョ! 邪悪龍殿ですか! 懐かしいですなあ! そろそろ復活の頃合いですかなあ!」


 ガイコツが合いの手を入れる。


 『邪悪龍ヴァデュグリィ』……、200年前の『真魔大戦』において冥王と同様に魔王軍に参加し、人間たちに味方した『黄金龍アルハザード』との戦いに敗れ封印された存在……。

 闇、情愛と狂気を司り、『暗黒魔法』の根源とされた存在…。


「100年前に一度、『暗黒魔法』の使い手の力が強まった時期があったが、それから『暗黒魔法』の力は弱まるばかりだぞい。そして、『腐海魔法』の登場。あの娘、かつての『暗黒魔法』の使い手たちと同水準にあるぞい。」


 No.3が危惧を漏らす。No.3としては、その『腐海魔法』の使い手がローズということに思うところがあるが、この場では言わないことにしていた。


「ホホホ。邪悪龍サンに何かあったと考えるのが妥当でしょうねえ。邪悪龍サンもワタシと同じ『真なる王』……。心配するようなことはないでしょうがねえ。」


「おら、邪悪龍どんに会ったことないべ。どんな方だべ。」


「うふふ。ローズちゃんと関係ありそうな方ねえ。なら、悪いことは起こらないと思いますわあ。」


 No.1とNo.2が感想を述べる。


 そこに


「冥王。初日から色々やってくれたようじゃのー」


 大賢者ゼニスの幽体が冥王の横に現れた。


「ホホホ。教師というものを初めてしてみましたが……。如何でしたかねえ」


「ワシとは違い手取り足取りやっているようじゃのー」


「ホホホ。アナタのやり方は……、結果として生徒に無限の自由を与えるもの……。当人たちがそこから何を身につけるかも自由……。ワタシとは違いますねえ」


「お前のやり方は、ワシからするとごちゃごちゃしているように見えるのー」


 揶揄うようにゼニスの幽体が笑う。


「ホホホ。自由にさせるにも、まずは必要な基礎を身につける必要があると思うんですよねえ。放任というと聞こえはいいですが……、それでアナタのようになれるのは、資質を持った一部の方に限られてしまいますからねえ」


「そうじゃのー。その者を数十年待つことになったのー」


 ゼニスが『冥王の剣』を託し、宿命の旅に出た愛弟子の姿がゼニスの脳裏をよぎる。


「じゃが、他の生徒たちもそれぞれの道を切り開いているのー」


「ホホホ。アナタの生徒たちはアナタから自由の精神を学んだようですからねえ」


 冥王とゼニスはニヤリと笑う。『大戦』から40年が経ち、その間も関わり合いが幾度とあった。そのため、この二人には不思議な信頼関係がある。


 ゼニスの幽体は笑みを残したまま消えていった。自身の肉体へと戻っていったのだろう。



「ホホホ。夜も更けてきましたねえ。少しやすんで明日に備えましょうかねえ。」


「「「「全て冥王様の御心のままに」」」」

 ガイコツたちは跪き、唱和するのだった…。

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