第34話 アーシェ、イラッとする

「そろそろ、限界みたいだから、これ飲ませてもいいかな?」

サラが二人に声をかける。遠目にシンとベルが走っているのを見て、厨房に飲み物をもらいに行っていたのだ。


「サラちゃん!」

「これ、ベルくんに飲ませてあげて!」

サラはアーシェに果実水が入った水筒を手渡す。

「何で私が…。」

「それじゃ、アタシが膝枕しながら飲ませてあげよっかな〜。アタシ、頑張るヤツってキライじゃないんだよね〜。」

「デュフ?」

ベルは動揺する。冗談でもこんな事を言われるとは思わなかったからだ。

「ダメ!」

アーシェは動揺するベルを見て腹が立ってきた。

「ふふっ。ベルくん、ゴメンね〜。アタシの膝はコイツ専用なの!さ〜て、頑張ったご褒美に膝枕してあげる!」

「〜〜!」

シンが顔を真っ赤にして抵抗する。

「体力尽きてんだから、す・な・お・に・な・り・な!」

サラはシンに構わず膝枕をし、果実水を飲ませる。


「ほ、他の娘がするくらいなら…、私が…する。でも…別に…貴方のことがどうとかじゃなくって…、他の娘がするのを見るのが嫌なだけだから!

それに今…、サラちゃんのこと、イヤらしい目で見てなかった?貴方が他の娘をイヤらしい目で見るのはイヤ!」

「ごめんデュフ…。」

「ほら!早く!飲ませてあげるから!サラちゃん達だってしてるんだから、あれくらい普通だから!」


--ここは…天国デュフか…


ベルはアーシェに膝枕をしてもらい、果実水を飲ませてもらう。今までの人生がどうでもよく感じてしまう。



「ヒソヒソ…あの二人、良くない?」

「ヒソヒソ…た、確かに…。」

「ヒソヒソ…いいよねえ。」

「ヒソヒソ…付き合っていないのに、『他の娘見ないで!』って言っているよね?」

「ヒソヒソ…二人とも気づいてないところがヤバい。」

「ヒソヒソ…『他の娘をイヤらしい目で見るのはイヤ!』って、『自分のことはイヤらしい目で見ていい』ってこと?」

「分かってるじゃん!アンタはアタシのこと、そーゆー目で見ていいからね!」

「ヒソヒソ…い、いや、君だからこそ、そういう目で見るのは…。」

「ヒソヒソ…ふふっ、ありがとう!」

サラはシンに満面の笑みを返すのだった。



--あ、あれ?私…おかしいかな?サラちゃんとシンくんは幼なじみで…サラちゃんはシンくんの事が好きで…シンくんもサラちゃんの事が好きで…だから膝枕で…私は?


「どうしたデュフ?」

「〜〜!バカバカバカぁ!ひ、人の気も知らないで!何か言ってみなさいよ!」

「果実水ありがとうデュフ!」

「お礼を言うの遅いんだから!(そうよ、お礼を言ってくれないから、頭にきただけよ!)」

「それと…膝枕もありがとうデュフ。」

「ま、またやってもいいけどね!で、でも…次は貴方がしてよね!私ばっかりって不公平!」


--そう、私がベルくんに何かをするだけというのはおかしいのよ!

付き合っているとか、婚約者とか、夫とかなら…一方的に尽くすということも珍しい事ではないけれど…

あくまで今日話し始めたクラスメイトに一方的に何かをしてばかりなんて不公平よ!

だから、同じことをしてもらうのは…、普通よ、普通!


「いいね、アーちん!アタシもシンにしてもらうから、よろしく!」

「!」

「いいじゃん〜、不・公・平!」

「う、うん。」




「凄い…アーシェちゃん、ベルくんの方に脇目もふらず行っちゃった…。」

「サラさんは、シンさんとベルさんの様子を見て厨房に飲み物もらいに行きましたし…。」

「腐腐腐…これが尊み…。あの豚と代わりたい…。」

イリス、カレン、ローズの3人は、アーシェたちの様子を見届けて、寮に戻ることにするのだった…

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