第39話 協田のモテモテぶりに拗ねるレオ

 本社から応援に来ている川本里奈を飲みに誘うことに成功したレオは、協田と安奈とともに行きつけの居酒屋に来ていた。


「今日は可愛い女性が二人もいるので、自然とテンションが上がりますね。はははっ!」


「おい、レオ。浮かれるのもいいけど、お前には奥さんと子供がいるってことを忘れるなよ」


「協田さん、いきなり出端をくじくようなこと言わないでくださいよ。せっかく今日は、独身に戻った気持ちで楽しもうと思ってたのに」


「こうでも言わないと、お前はすぐにハメを外すからな。あと、今日は本社から応援に来てもらっている川本さんもいるんだから、くれぐれも下ネタは控えろよ」


「協田さん、それはフリですか?」


「フリじゃねえよ! とにかく、そういうことだからな」


「分かりましたよ。じゃあ一応、頭には入れておきます」


 話の流れ上、レオはとりあえずそう言ったが、無論守るつもりなど毛頭なかった。


「ところで、森さんて動物病院で働いてたそうだけど、動物が好きなのか?」


 協田は、安奈が動物病院で看護師の仕事をしていたことを、前に他の女性から聞いて知っていた。


「はい。動物は人間と違って裏切らないでしょ? そういうところがいいんです」


「なんか、そのセリフ意味深だな。前に誰かに裏切られたことがあるのか?」


「ええ。男女問わず、今まで数多くの人間に騙されたり、裏切られたりしました。なので今、ちょっとした人間不信になってるんです」


「ふーん。森さんて、しっかりしてるイメージがあったから、意外だったな。じゃあ、今日はなんで飲み会に参加したんだ?」


「えーと、それは……」


 口ごもる安奈に、レオは「協田さん、それを森さんに言わせるのは酷ですよ」と、透かさずフォローに入った。


「どういう事だ?」


「女性の心に敏感な協田さんにしては珍しく鈍いですね。森さんは、協田さんがいるから飲み会に参加したんですよ」


 レオのまさかの言葉を聞いて、「えっ!」と驚きの声を上げたのは、協田ではなく里奈だった。


「森さんも協田さんのことが好きなんですか? じゃあ、私たちライバルということになるんですね」


「えっ! 川本さんて、まだ応援に来て間もないのに、もう協田さんのこと好きになったんですか?」


「うん。だって、人を好きになるのに時間なんて関係ないでしょ?」


 平然と言ってのける里奈に、レオは「ライバルは森さん以外にもたくさんいるので、協田さんはやめといた方がいいですよ」と忠告した。


「私、ライバルが多ければ多いほど燃えるタイプなんですよ。なので、そんなのちっとも気になりません」


 いつもと同じ展開にイラ立ちをおぼえたレオは、「川本さん、悪いことは言わないので、私にしといた方がいいですよ」と、早くも口説きにかかった。


「レオ、まだ始まったばかりなんで、そういうのはやめとけ。ところで、川本さん。本社では営業の仕事をしてるそうだけど、実は俺も、昔ちょっとだけ化粧品のセールスをしてたことがあるんだ」


「そうなんですか。私、いつも成績が悪くて上司に怒られてるんですけど、協田さんは成績はどうだったんですか?」 


「自慢になるんだけど、成績が良くていつも上司に褒められてたから、他の社員に反感を買っちゃってさ。それが原因で会社に居づらくなってすぐに辞めたんだ」


「本当ですか! どうやったら成績が良くなるか、教えてくださいよ」


「男と女ではまるっきり違うと思うから、聞いても参考にならないんじゃないかな」


「そうですよ。そんなことより、今度は私の話を聞いてください」


 割り込むように口を挟むレオに、里奈は「私はレオさんには興味がないので、少し黙ってもらってもいいですか?」と辛辣な言葉を放った。


「川本さん、それはないでしょ。そもそも、誰のおかげで今日の飲み会をセッティングできたと思ってるんですか? 私がいなければ、この飲み会は成立してなかったんですよ」


「そんな恩着せがましいこと言わないでくださいよ。とにかく、レオさんは結婚してるんだから、大人しくしててください」


「それじゃ、私の持ち味がなくなるじゃないですか。エロ話をしたり、下ネタを言ったりすることで、私のアイデンティティは保たれてるのですから」 


「じゃあ、それは森さんとしてください。私は協田さんと話してますから」


 あくまでもレオを拒絶する里奈に、今度は安奈が「私に押し付けないでくださいよ!」と嚙みついた。


「私だって協田さんと話がしたいんです! 今日ここに来たのはそれが目的なんですから!」


 興奮気味に捲し立てる安奈に、協田は「じゃあ、三人で話そう。レオは話に参加させないから」と、なだめるように言った。そしたら……





「はい、はい。どうせ私はジャマ者ですよ。後は皆さんの気の済むようにすればいいじゃないですか」と拗ねたように言いながら、レオは店を出て行った。

 普通こういう時は、だれか止めたりするものだが、三人は何事もなかったかのように、その後も話を続けていた。




 

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