第13話 自分で自分の首を絞めるレオ

「あいつ、図体がでかいだけで、ほんと、どうしようもない奴ですね」


 昼休みの休憩室で、レオは先週入社してきた派遣社員の木戸浩二のことを吐き捨てるように言った。


「この前も、もっと速く作業するよう私が注意したら、『いくら頑張って働いても、もらえる金額は一緒なんだから、それなららくして働いた方がいいじゃないですか』って、生意気に反論したんですよ」


「まあ、最近の若い奴はそんなもんだろ。俺もあいつぐらいの年齢の時は、同じような考え方をしてたからな」


 協田は、現在22歳の木戸の気持ちをおもんばかった。


「でも、手を抜くだけならまだしも、この前なんて正社員の許可も得ず、勝手にコンベアーの速度を変えてましたよ」


「確かに、それはやり過ぎだな。で、レオはちゃんと注意したのか?」


「ええ。そしたらあいつ、『みんなのためにやったことなので、僕に非はないですよ』って、キレ気味に言い返してきたんですよ」


「ははは。多分あいつ、目立ちたくてそんな行動を起こしたんだよ。あの年齢の頃は、そんなことを考えガチだからな」


「そんなことしなくても、体がでかいから十分目立ってるんですけどね。知ってます? あいつ、身長が190センチあるんですよ」


「そんなにあるのか! じゃあ、もしかしたら、学生時代にバレーかバスケでもやってたかもしれないな」


「あいつトロそうなんで、多分やってなかったんじゃないですかね。まあ、今度機会があったら、聞いておきますよ」






 翌日、レオは隣のラインで自分と同じパレット積みの作業をしていた木戸に話し掛けた。


「木戸君、学生時代、バレーかバスケしてた?」


「いえ。勧誘は数え切れないくらいされましたが、全部断りました」


「どうして?」


「ダルいからです。自分が将来プロになれるレベルだったらやってたかもしれませんが、そこまでじゃなかったので、やっても時間の無駄だと思いまして」

 

「そんな理由でやらなかったのか? ブラジル人の俺が言うのもなんだけど、部活ってそれだけのためにやるものではないだろ?」


「まさか、部活をすることで友情をはぐくんだり、精神を鍛えたりできるとか言うんじゃないでしょうね。そんなのは、今の時代には流行らないですよ」


「俺もそこまで言うつもりはないよ。で、君は、学生時代に部活はやってなかったのか?」


「はい。高校時代は、ひたすらバイトに明け暮れていました。そのせいで大学受験に失敗して、現在派遣社員に甘んじてるわけなんですよ。はははっ!」


「甘んじてるって……それは同じ派遣社員の俺に向かって言う言葉じゃないだろ」


「えっ、レオさんは、好きで派遣社員をやってるんじゃないんですか?」


「そんな訳ないだろ。できることなら、どこかの正社員になりたいと思ってるよ」


「今は日本人でも中途採用で正社員になるのは難しいのに、ブラジル人のレオさんだと、その何倍もハードルが高いんじゃないですか?」


「まあね。でも、いくら高いからといって、あきらめてしまったらそこでおしまいだろ? 高いからこそ、それに立ち向かっていくのが男ってもんじゃないか。はははっ!」 


「なるほど。じゃあ、どこかの正社員になれるよう、お互い頑張りましょう」


「ああ。ところで話は変わるが、君はどうしてパレット積みしたダンボール箱に、ラップを巻かないんだ?」


 この職場では、パレット積みの係になった者がラップ巻きの作業をするきまりになっている。


「面倒だからです。各ラインにはオペレーターが付いているのだから、その人がやればいいと思います」


「でも、一応パレット積みの者がやるきまりになっているんだから、それに従った方がいいんじゃないか?」


「そのきまりも、僕から言わせてもらうと、おかしなものですね。だって、ラップを巻くことによって、次の製品が2、3個流れてきて追われることになるじゃないですか。それなら、オペレーターがラップを巻いた方が効率的だと思いませんか?」


「君の言うこともわかるが、最初に私はパレット積みの者がラップを巻くよう教わって、今までそれを実践してきたんだ。だから君も、あれこれ屁理屈を言ってないで、私と同じように自分でラップを巻けよ」


「屁理屈とはなんですか! 僕はレオさんみたいな非効率な仕事をしたくないだけなんですよ」


「非効率だと? それが屁理屈だと言ってるんだ。このウドの大木が!」


「あなたにそんなことを言われる筋合いはありません! 不愉快だ! 僕はもう、こんなところ辞めます!」


 木戸は吐き捨てるように言い、さっさと退室していった。


「レオ、どうしたの、そんな大きな声出して?」


 騒ぎを聞きつけた井上に、レオはそれまでの経緯を説明した。そしたら……





「なんですって! レオ! 責任を取って、今日は2つのラインのパレット積みをやりなさい!」


「ひえー! いくらなんでも、それは無茶というものですよ」


「無茶だろうと、やりなさい! でないと、あんたはクビよ!」


「わかりましたよ! やればいいんでしょ!」


 結局レオは自らの失言で、普段の二倍の仕事量をこなすハメとなった。






   

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