第09話★交差する思惑【人間界Side】
同刻、ブルクハルト王宮の一室――
「いよいよ恐れていた婚礼の日が来てしまった」
幾何学模様を描く大理石の床の上を落ち着きなく歩き回っているのは、この国の第二王子アルトゥーロだ。
「魔族とて人を食ったりはしませんからご安心なさいませ」
声をかけたのは、装飾のほどこされた円柱脇に控えた侍従。
「なぜそんなことを断言できるのか。あいつらは姿も醜く恐ろしいと聞くぞ」
王子は端正に整った顔を
「そうでしたかな? 少なくとも肖像画に描かれていたレモネッラ姫は桃色の髪が愛らしい美少女でしたが」
「魔術で人間に化けているのだ!」
アルトゥーロは震える声で断言する。
「まあご安心くだされ。王都は聖女の強力な結界で守られております。魔族たちは手も足も出ませんよ」
侍従の言葉が聞こえているのかいないのか、
「ああ、こんなことなら東の帝国皇女フェイリェンとの婚約を受けておけばよかった。東の帝国では蛇を食べると聞いて恐ろしくて断ったが、魔界では魔獣や毒草を調理するそうじゃないか」
「まあ魔界は瘴気が強くて普通の植物や家畜が育ちませんからな」
そのとき扉が叩かれ、使用人の一人が顔を出した。
「早めに到着された帝国皇女フェイリェン様がアルトゥーロ殿下と話したがっております。客間にお通ししました」
客間で待っていたフェイリェンがアルトゥーロに伝えたのは、彼をさらに恐怖させるに十分な内容だった。
「我が帝国の間者が魔族たちの計画を入手しました。魔界の姫レモネッラは婚礼の儀において、あなたを殺して自分も死ぬつもりです」
「だが―― 聖女ルクレツィアの張った結界のおかげで、魔族たちは攻撃魔術を使えないのだぞ!?」
「ええ。ですから彼らはこの日のために魔道具を用意したのです。魔道具に魔力を込めて持ち込む
アルトゥーロが去った客間で、フェイリェンは座った腰の後ろに隠していた大きな鞄から水晶玉を取り出すと、その中をのぞきこんだ。
「魔界の姫レモネッラよ、悪趣味なネックレスをつけて下さって助かりましたわ。なぜわたくしの愛おしいアルトゥーロ様が魔族なんかと結ばれなければならないのでしょう? 帝国舞踏会でお会いしてからわたくしはずっとアルトゥーロ様だけをお慕いしております。決してあなたなんかに渡しませんわ」
金糸の織り込まれたソファのうしろに控えていた侍女が、
「アルトゥーロ殿下にはフェイリェン様こそおふさわしい」
と、うなずいた。
フェイリェンが見つめる水晶玉には、今まさに転移魔法陣で人間界に移動しようとするレモネッラが映っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます