第2話 狂いまくって

 記憶に鮮明に宿っている。

 地獄とは別な世界の事であった。

 地獄という世界ではあらゆる化け物達が殺し合いを続けていた。

 何度死のうが蘇るシステムだ。


 俺も武器を握りしめてモンスターを倒せと希望の魔王に言われた。

 ひたすら必死に戦い何度も死んだ。

 内臓を抉られたり、内臓を取り出されたり、内臓を食べられたり。

 脳味噌を掴まれたり、脳みそを握りつぶされたり、脳みそをすすられたり。

 右上をもぎ取られたり、左腕をもぎ取られたり、右足をもぎ取られたり、左足をもぎとられたり。


 舌を断絶されたり、眼玉をくりぬかれたり、耳の中に巨大な毛虫をいれられて脳みそをかき乱されたり。


 何度も死んだ。

 痛みはリアルだった。

 ありえない激痛、もうやめてくれと泣いても誰も助けてくれない。

 皆自分達が殺すのに夢中だった。


 ある時気づいていた。

 

 ここにいる化け物達はモンスターのレベルからしたら2000は超えるだろう。

 1体1体がもはやボス級のモンスターだ。


 彼等はここで相手を殺すだけの為に生きている。

 殺されたり拷問される事は全然苦ではないようだ。

 不思議と殺す方と殺される方には絆が生まれている。


 次は俺が殺す番だぜとか、いやいや次は君だろとか。

 最初は言葉を理解する事が出来なかった。

 だけど200年くらい経とうとすると彼等の言葉を理解するようになっていた。

 レベル2000程度の化け物なら倒す事が出来るようになってきた。


「君は成長が早いね」


 希望の魔王はにこりと褒めてくれた。


 彼の姿は全身をローブに包んだ巨漢というイメージだ。

 瞳は大きくて、魔王っぽさも出していた。


「どうして、俺を助けてくれるんですか」


「はっは、これを助けると言えるのかね」


「どういう事です?」


「俺は君が根を上げて心で死ぬものだと思っていた。心で死ねば蒸発するだけだよ、だけど君は心で一切死なない、君の心にあるものはあらかた見ている。君はそんなに復讐がしたいのかね、いや失礼、今は復讐じゃなくて快楽で殺したいようだが」


「はは、希望の魔王さんには心を見透かされるようだね、俺は復讐はしたいけど、この世界を知ったらさ、快感になってしまって、想像するだけで興奮してくる」


「どうやら俺は化け物を作ってしまったようだね、そうだ。1000年以内にここにいる化け物達1000体を倒せば、いい事があるよ」


「はぁ、やってみます」


 それからまた殺し合いが始まった。

 何度も死に、何度も殺し、何度も死に、何度も殺し。


 記憶の中にある恨みをフラッシュバックさせる。

 記憶をフラッシュバックさせると虐待されていた記憶とか、ギルドマスターナルデラの裏切りの顛末まで事細かく蘇らせる事が出来る。


 怒りが、憎悪が、悲しみが全て笑いに変わる。

 けらけら笑いながら化け物殺して、けらけら笑いながら化け物に殺される。

 

 殺して殺され殺して殺され。

 何年が経とうとしていたのだろうか、時の記憶は残酷なものだ。

 

 怒りなのか、それすら分からなくなる。

 だが心の炎は燃え続けている。


 999年たとうが、俺の心は燃え続けている。


「ふ、お前つえーな」


「お前こそな黒き翼よ」


「人間、俺達はお前をあなどっていた。ついにお前と言う王が現れた」


「それはどういう事ですか」


【黒き翼】とは巨大な2本の翼をもった小さなドラゴンで、この地獄で最強の部類に入る。


 俺の眼の前に化け物、いやモンスター達が集まってくる。

 そして1体ずつ頭を下げていく。

 まるで服従の意を示しているようだった。


「「「「「王よ」」」」」


 俺の目は大きく見開かれていた。


「どうやら終わったようですね」


 希望の魔王はこちらにローブをひきずってやってくると、膝を正し。


「我らが王よ、サウザンドモンスターを率いてやりたいことをやりたいようにするのです」


 俺は瞳を大きく見開き。


 記憶に沢山のものが蘇る。

 それは裏切りだった。


 友達とかそういうものは裏切るものだと。


「ご安心ください、彼等の記憶を全てあなたに叩きつけます。さすれば裏切るか裏切らないか理解していただけましょう」


「あ、ああ」


 風のように舞い降りた。

 それは無数どころの話ではない、1000体の記憶を俺にフラッシュバックさせている。


 普通の人間なら発狂しているだろう。

 しかし不思議と涙がとめどなく流れた。

 悲しくて彼等を、そう彼等は。


「人間系統の人達だったのか」


「その通りでございます。彼等は地上で復讐を遂げ地獄にやってきた罪びとでございます。大抵の人間は拷問などに耐えきれず心を燃やして消滅します。しかし彼等は恨みを果たしても強くなることをやめませんでした」


「ああ」


「これでも彼等が裏切ると思いですか?」


 希望の魔王はにこりと微笑む。

 もちろんフラッシュバックの記憶の中には希望の魔王の記憶もある。

 彼は勇者と色々あったという記憶だ。


 これが作られた記憶なのかと少し疑ったがそんなことはまずありえない。


 1000体もの記憶を改ざんした場合それはとんでもない魔力と時間を要するからだ。



「では、我らが王よ、現実時間で3年後の舞台に戻りましょう、あなた様のとても爽快でファンタジックなショーを哀れな人間達に見せてあげましょう」


「ああ、ようやくだ。楽しみだなーみんな俺の事なんて忘れてるんだろうな」


「そうでしょうねぇ、それはそれは悲しい事でしょうねぇ、なにせスキルを何も持たない人に殺されていくんですから」


「そりゃ言えてるな」


 俺の物語はこうしてまた始まりを告げる。

 復讐という劇場を開こうと思う。

 大勢の血の涙で人々を楽しくさせてあげよう。


 

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