メゾン・ド・モンストルの住人
来宮ハル
プロローグ
恋人と住むマンションの一室でベッドのシーツを引っ張りぴんと整えるのが、
潔子は子どもの頃から綺麗好きで、小学生の頃は「お掃除隊長」なんてあだ名をつけられていたくらいだ。よくよく考えれば、おそらくそれは侮蔑を含んでいたのだろうけど、潔子にとっては勲章のようなものだった。
恋人──
裕也は経理部にふらっと現れては、潔子のデスクを見て「いつも綺麗だね」と声をかけ、「ありがとうございます」と潔子が返して、それを繰り返していくうちに付き合うようになった。そして今や同棲までしていて、そろそろ結婚を意識しだす頃だった。
朝食を取った後にふたり揃ってマンションを出る。一応、別々に出勤した風を装っていた。
ある日のことだった。どうも体調が優れずに会社を早退して帰宅したところ、玄関先に女性もののパンプスがあった。潔子が履かないような七センチヒール。淡い桜色のエナメル素材のもので、左側のヒールの先が擦れ落ちて金属部分が見えている。
──誰?
ふたり暮らしの1DKの部屋の、一番奥から人の声がした。空気伝導率が良さそうな甲高い女の声、そしてぎしぎしという音が潔子の心臓を締めつけた。一気に右手が汗ばんで、その音が響く部屋の扉を開けてしまった。
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