第14話 突撃! 渡辺家

 あの素晴らしい試合から二日が経過した。


 幸子の言動がオカシイ。明らかに俺へのアプローチだとわかるのだ。


 いつもは一太郎、花子、幸子、そして俺。このメンバーで昼食を摂るのだが、幸子は相談があると言っては俺と二人きりになろうとする。そして毎回押し倒してくるのだ。


 彼女の力は異常に強く、俺は貞操の危機を感じている。


 じゃあ二人きりにならなければ良いだろって?


 無理言うなよ。


 普通の男子高校生が、巨乳童顔清楚系可愛い女の子に迫られて全力で抵抗出来る訳が無い。


 好きな人がいて抵抗する奴もいるだろって?


 ないない。


 それは抵抗しているように見えて、実際は大して抵抗してないよ。嬉しい癖に、俺は好きな人がいるんだっていうポーズをとっているに過ぎない。


 本当にそんな奴がいるなら見てみたいもんだ。もしいるなら聖人かなんかだろ。いっそ悟りでも開いたら良いんじゃないか?


 幸子は可愛い……。


 拒否するなんて出来ない。


 だが、俺には怜がいる。


(そう考えている時点で、答えは決まってるようなもんだな……。)


 既に俺は怜と付き合う覚悟を決めていた。


 一方で、幸子をないがしろに出来ない自分がいる。


 感動の再会だったのもあり、俺自身心が揺れている部分がある事を否定は出来ない。


 怜とは付き合う。でも幸子をないがしろにはしたくない。


(いっそ二人と付き合っちゃうか? でも二股だよな……。)


 待てよ?


 父さんに相談すれば解決せんだろうか?


 3人で付き合うと言えば俺の父、渡辺樹。


 父はその道20年のプロだ。3人で付き合う事に関しては右に出る者はいない。


 俺は父に相談した。



「二人を切っても切れない親友同士にすれば良いさ。」


「どうやって?」


「それは分からん。」


 そうやって堂々と言い切る父。全く役に立たん親父である。


 だが、アイディアとしては悪くない。


(というか、それしか無いだろうな……。先ずは二人を会わせてみるか。)




翌日


「なあ幸子。」


「どうしたの?」


 キョトンと俺を見つめる彼女はなかなかに魅力的だ。


「俺の股間に股を擦り付けないでくれ。」


「そういう気分じゃなかった?」


 そういう気分になるから止めて欲しいのだが……。


 俺の上に跨る彼女の対応は、既にアピールとか言うレベルを宇宙の彼方まで飛び越えてしまっている。


「話したい事があるから家に来てくれ。」


「やっとその気になった?」


 何がだ?


「私は初めてが学校のトイレとかでも気にしないよ?」


「いや、そうじゃなくて。」


 急に何を言い出すのやら。


 というか、初めてが学校のトイレってのは気にしろよ。


「この前の記憶に関して話したいんだ。」


「あ。そっち? それは気になってたから助かるよ。」


「いつなら良い?」


「今日が良いかな。なるべく早く知りたいし。」


「じゃあそれで。」


 とりあえず、怜に会わせる為のファーストステップはクリアだ。後は怜との相性次第か。


 記憶の話をするのは本当だし、この際一緒に遊んで3人で楽しく過ごせるように努力しよう。



「ただいまー。」


「あら、お帰りなさい。可愛い女の子連れ込んで何する気?」


 慧ママがニヤニヤと俺と幸子を見ている。


「今日は楠君とセック……」


 俺は慌てて幸子の口を塞ぐ。それでも口を動かそうとする彼女は一体何を考えているのか。


「随分仲が良いじゃない。もしかして本当に何かする気だった?」


「いや、この子が前に言ってた記憶を取り戻した子だよ。」


「あらそうなの? 私はてっきり……。」


 てっきり何だよ。まあ、それ程外れてはいないが。


「楠君のお姉ちゃん美人だね。」


「嬉しい事言ってくれるじゃない。嫁に来る?」


「是非!」


 勝手に話が進んでいく。


「この人は慧ママ。怜の母親だ。」


「怜ちゃんのお母さん!?」


「怜の母です。」


 若いと言われるのが嬉しいのだろう。慧ママは上機嫌で幸子を家に迎え入れる。


(実際、俺の姉でも通じるくらい見た目若いしな。)



「じゃあ早速本題から。幸子ちゃんの記憶に関してだけど……それは前世の記憶よ。」


「前世…ですか?」


「そう。私と怜は魔法が使えるのだけど、怜が楠に魔法を掛けまくったせいで、それが幸子ちゃんにも影響を及ぼしたみたいなの。」


「言われてみれば、前世ってのは腑に落ちますけど……。」


(まぁ……。魔法と言われても、すぐには納得出来ないよな。)


「信じられない?」


「にわかには……。」


 そうよね、と言って慧ママは掌の上に炎を出現させる。


「え?」


「これが魔法よ。じゃあもう一丁!」


 突然幸子の体がソファーから浮き上がる。


「なにこれ? 凄い!」


 まるで宇宙遊泳でもしているかのように、その場にふわふわと浮いている。


「どう? 信じた?」


「はい! それはもう!」


「楠は何をしても、手品だって言って信じなかったけどね。」


 すみません。俺が馬鹿でした。


「これで信じないって逆に凄くない?」


「ほんとにね。手品だって言うなら、どんな種があるか逆に聞きたいくらいよ。」


 おっしゃる通りです。


「魔法は私も使えますか?」


「こればっかりは無理ね。私とその子孫にしか使えないみたいだし。」


「残念です。」


「と言う事で、幸子ちゃんのそれは前世の記憶。見た所、前世で楠と付き合ってたんでしょ?」


「その通りです。ですから、楠君を下さい。」






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