第11話 あんたちょっとバカね

 横にいる怜が気になり一睡も出来ないのでは……と思いきや、彼女の胸に顔を埋めて寝たので、ぐっすりと安眠できた。


 それにしても、本当にあんなものを付けて一緒に出掛けるのだろうか?


 普通に恥ずかしいんだが。


「さあ、今日も元気に学校へ行こうね?」


「ハーネス付けるの恥ずかしいんですけど。」


「ダメよ。危ないもの。」


「怜と手を繋いで学校行きたいから邪魔なんだよなぁ。」


「それなら仕方ないか。手繋いで行こうね。」


 掌クルクル妹じゃん。



 そうして俺達は仲良く手を繋いで登校したのだが、困った事になった。怜が俺の教室まで付いてきたのだ。


 俺をパーになったと思っている彼女は心配だったのだろう。嬉しいんだが嬉しくない。


 当然それを教室にいた奴らは全員目撃しているワケで……。



「今度は本当に付き合うようになったのか?」


「おめでとう!」


「私のお蔭ね。」


 友人たちに祝福されてしまった。もう言い訳なんて通用しないような気がしたので、付き合っている事にしておいた。


 あと幸子。お蔭じゃない。お前のせいだ。


「幸子。俺を騙したのか?」


「騙しちゃった。でも楠君、私のおっぱいと楽しそうにしてたじゃん。」


 教室の中がシンと静まり返った。


 皆が俺らの会話を聞いて、何事かとこちらを見ている。


「その言い方は誤解を招くからやめろ。」


「? 何も嘘は言ってないよ?」


 確かに嘘じゃないけど、言い方がマズいんだよ。


「いやいや、幸子が俺を騙しておっぱいと会話させたんだろ?」


 おっぱいと会話? どんな高度なプレイ? と教室のあちこちから聞こえて来る。


 マズった。結局どう言っても誤解を解くのは難しい。ここは実演するしかない。


「待て。みんな誤解してる。おっぱいが会話できるなんて幸子が言うから騙されたんだよ。」


 皆さんの視線には疑念があふれている。


「本当だって! 幸子。ちょっとやってみてくれ!」


 俺はそう言って幸子のおっぱいに顔を近付け、会話を試みる。


「おはよう。昨日は楽しかったな。」


「……。」


 何か言えよ。俺が馬鹿みたいじゃねぇか!


 幸子は笑ってる場合じゃないだろ。



 あんな事してたんだ。楠君ちょっと良いと思ってたのにゲンメツ~。



 誰も信じてはくれなかった。


 そりゃそうだ。俺だってこんな光景見たら、ただの馬鹿だと思うし。


(くそっ! 良いと思ってたんなら早く声掛けてくれれば良かっただろ!)


「ごめん。私が楠君を騙したの。」


 悲しそうに言う幸子には同情の視線が向けられ、何故か幸子が俺をかばってあげた様な雰囲気になっていた。


 オカシイだろ!


「ごめん。本当に冗談だって。」


 幸子はそう言って、おっぱいが話し始める。


「幸子裏声(楠君を騙しちゃったの。ごめんね?)」


 教室の中は騒然とし、腹話術上手すぎだろ! でも普通騙されるか? などと聞こえて来る。


 誤解は解けたが、今度は俺が馬鹿なんじゃないか疑惑が浮上した。


「幸子……。」


 俺は怒った。


「あ…怒っちゃった?」


 流石の幸子も、俺の怒りを感じとったらしく焦り気味だ。


「ああ激怒した。邪知暴虐の幸子に責任を取ってもらうと決意した。」


「あ、あの……おっぱい触るだけなら。」


 彼女は若干涙目でとんでもない事を言い出した。


(成程。幸子のおっぱいを触れれば、俺の怒りも取り除かれるかもしれないな。)


「それなら許す。昼休みに屋上でじっくり触らせてもらうからな。」


「う、うん。」


 楽しみでテンションが一気に上昇した俺は、ルンルンと自席へと戻っていった。




「幸子。お弁当を持って屋上へ行くぞ。」


「うん。」


 この学校の屋上は意外と穴場なのだ。今日は誰もいないようで、邪魔が入る心配もない。


 これなら安心して触れるな。


「先にご飯食べようぜ!」


「おっぱいは良いの?」


「それは勿論触るけど、先にご飯だろ。」


 幸子は少しほっとしたようで、表情に柔らかさが戻る。


「さっきはごめんね。」


「まぁ、俺も怒り過ぎたな。すまん。」


 良く考えてみれば、昨日は幸子のおっぱいをガン見出来たのだから役得ではある。


「それじゃあ仲直り。」


「ああ。」


 仲直り出来た俺らは弁当を食べながら会話する。


「結局怜ちゃんとは進展出来たんだね。」


「うん。まぁ……。」


 変な方向へ進展してしまったがな。


「元々発破をかけるつもりでやったんだけど、ふざけ過ぎちゃったね。」


「いや、何だかんだでちょっと楽しかったさ。」


 それなら良かったと、幸子は安心したように笑った。


 実際役得ではあったしな。


「それにしても、お弁当豪華だね。怜ちゃんの手作り?」


「そうそう。今日は怜が張り切って作ってたんだよな。」


「良いなー。」


「交換しながら食べようぜ。」


 俺達は弁当のおかずを交換しながら談笑する。



「ごちそうさま。」

「ごちそうさまでした。」


「じゃあ早速触る?」


「嫌だったんじゃないのか?」


「嫌じゃないよ。」


 さっき涙目だったじゃん。


「楠君怒ってたからさ…ちょっと怖かったんだ。」


 そうだったのか。てか嫌じゃなかったのか。


「そういう事なら……。」


 俺は彼女へと手を伸ばし、胸に触れた瞬間……




 グニャリと視界が揺れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る