第8話 おっぱいとの付き合い方

 放課後。それは数多の魑魅魍魎が学校より解き放たれ、様々なストーリーを繰り広げる時間だ。そんな魑魅魍魎の内の一人である俺も、これから起こる新たな展開に胸を馳せている。


「何ぶつぶつ言ってるの? 付き合い方を教えてるんだから真面目に聞いて。」


「すみません。」


 今はとある小さなカフェで、幸子からレクチャーを受けている。


 あれからおっぱいと付き合うが分からなくて、授業中も集中出来ず考えていた。


 結局分からなかったのだが、なんだかエッチな気がするのでちょっと楽しみになってきている。


「簡単に言うと、人と付き合う時と同じ。おっぱいにどんどん話かけて。そうすれば答えてくれるから。」


 何それ?


「やってみて。」


 そんな馬鹿らしい事を幸子は真面目な顔で告げてくる。


 もしや本当に……?


 そんなワケあるか! と思いつつも万が一という事もある。


 俺は幸子のおっぱいに顔を近付け話しかける。


「こんにちは。元気ですか?」


「幸子裏声(まぁまぁかな。今日からよろしくね。)」


 え?


「本当に喋ったぁぁぁぁ!!」


「だから言ったでしょ。ほらほら…会話して。」


 マジか……。 常識的にあり得んだろ。


 俺っていつの間にか異世界転移でもしてたのか?


「幸子裏声(楠君どうしたの?)」


「えーと…驚いちゃってさ。」


 マジで? これマジで?


「幸子裏声(変なの。ねえ、付き合ってるんだし…普段通り話して良い?)」


 幸子のおっぱいの普段通りってのが分からん。


「まぁ…良いよ。」


「幸子裏声(よき? マジあげみざわー。きよぶたで聞いて良かった~。)」

※いい? テンションあがるー。清水の舞台から飛び降りるつもりで聞いて良かった。


 はい?


「幸子裏声(とりま、おなかすきぴだからケンタにガンダらない?)」

※とりあえず、お腹空いたからケンタッチーにダッシュで行かない?


 ギャル語だと…?


「待った! 全然何言ってるか分からん。」


「幸子裏声(どゆこと? ウチの会話幕の内だった?)」

※どういう事? 私の会話、内容多すぎ分からなかった?


「何言ってるのか全然分からんので、日本語で話して下さい。」


「幸子裏声(あーね。生類わかりみの令。ウチも最初はそうだったし。)」

※相槌 わかるわかる。私も最初はそうだった。


 マジでわからん。


「普通の日本語でお願いします。」


「幸子裏声(仕方ないなー。とりあえず、お腹空いたからケンタッチー行かない?)」


 それなら分かる。


「良いね。行こうか。」



 第三者がこの場面を目撃すれば、清楚系可愛い女子のおっぱいに向かって話しかける頭のオカシイ奴だ。


 俺はいつの間にか、幸子のおっぱいと会話する事に全く違和感を抱いていなかった。


(これがおっぱいと付き合うって事か……。)


 今日一日でだいぶ理解が深まった。


 どうやらおっぱいとデートする時は、おっぱいの行き先に持ち主が付いてきてくれるようだ。そして、持ち主は基本あまり会話に加わらないのがマナー。


 ちなみに触ろうとしたら手を叩かれた。


 それは幸子に対するセクハラになるらしい。


 おっぱいは独立した個人としての人格を持ちながらも、持ち主の体の一部であるという扱いになるそうだ。


 考えてみれば当たり前の話だった。いくら付き合っていると言っても相手は幸子のおっぱいだ。普通は触ったらセクハラになるに決まってる。


 もしかして怜のおっぱいと付き合うなら、妹とか抜きにして有りよりの有りなんじゃね?


 幸子のおっぱいはそれを教えてくれようとしたんだろうか……?







「ただいまー!」


「お兄ちゃんお帰り。今日の夕飯はハンバーグカレーだよ。」


「よっしゃー!」


「手洗いうがいを忘れずにね。」


 怜がまるで姉のようだ。


 そう言えば前前世は姉だったな。



「いただきます。」


「どうぞ召し上がれ。」


 懐かしい味だ…。


 一口食べただけで涙が出そうになる。


 俺が前前世で大好きだった…姉の手作りハンバーグカレー。


(お姉ちゃんね。——君の幸せの為ならお仕事たくさん頑張るから。


 お姉ちゃん……。無理しないでよね?


 ありがとう。ところで今日のご飯はハンバーグカレーよ?


 わーい! 



 あら。 もう食べちゃったの? そしたら食後の休憩に膝枕する?


 うん! するする!)




 俺は涙を流しながらカレーを完食する。


「お兄ちゃん。もう食べちゃったの? そしたら食後の休憩に膝枕する?」


「……うん。する。」


 この圧倒的な姉力に俺は抗う術を持たなかった。決して怜の誘惑に負けたのではない。前前世の記憶が蘇り、姉に甘えたくなっただけだ。



 分かるだろ? 分かれよ!



 怜の部屋に行き、早速膝枕をしてもらう。


 俺は彼女の股間に顔を埋めるようにして、うつ伏せの恰好で体を横たえる。



 スゥゥゥゥッ ハァァァー



 懐かしい匂いがする。俺はあの頃の出来事を思い出していた。



(——君。勉強大変だろうけど、体壊しちゃダメよ?


 姉さんこそ。無理し過ぎだよ。


 私は大丈夫。ほら、休憩して。膝枕してあげるから。


 ありがとう姉さん。



 本当にこの体勢が膝枕の正しいやり方なの?


 友達が彼女にしてもらう時は、こうするんだぞって教えてくれたんだ。


 息を大きく吸い込むのも?


 こうすると健康に良いらしいよ。)



 あの時の俺は、自分の欲求に従って嘘をついていた。何故か姉にはバレなかったが。


 健康に良いのは本当だ。自分のやりたい事をやっているのだから、健康には良いに決まっている。


 懐かしい……。


 俺は姉さんの膝に帰ってきたんだ。


 もう一生このままで良い。

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