第5話 仮契約

「では契約完了と言う事で。」


 そんな事一言も言ってないんですけど……。


「そもそも契約の内容は?」


「可愛い妹とラブラブなお付き合いをするだけで、どんなご要望にもお応えします。」


 妹と付き合う。俺の様な病気持ちの兄にとっては最高なシチュエーションだ。


「でもなぁ……。」


「今なら仮契約も出来ますよ?」



  キャンセルは認めねえけどな



「今何か言った?」


「なーんも言ってないよ?」


 ニコニコと笑顔でこちらを見ている怜。


 気のせいか?


(とりあえず仮契約して、後でキャンセルすれば大丈夫だろ……。一線を越えなければ良いさ。)


「じゃあ仮契約をお願いします。」


「それでは今から恋人(仮)です。色んなプレイを短時間だけお楽しみ頂けます。」


「……少しだけ触っても良いですか?」


 俺のしょうもない質問に笑顔で尻をこちらに向ける彼女。


 なでなで……。


 これは!? 何と素晴らしい感触。100年に一人の逸材かもしれん!


 100年も生きてないけど。


「お客さん、お時間です。」


 そう言いながら俺の手をペシっと払いのける怜。


 何でだよ!?


 絶望する俺に無情な言葉が告げられる。


「仮契約なので少ししか触れません。」


「ぐぬぬぬ……」


 悔しい! でも本契約は流石に……。


「本契約するともっと触れますよ?」


(惜しい……。この機会を逃すのはあまりにも惜しい。だがそれだけはダメなんだ!)


 俺は悔し涙を流し意図せず唸ってしまった。


「いや、何も泣かなくても……。」


 俺は呆れる怜に対し、悔しすぎて言葉を返す事が出来ない。


「そんなに触りたいなら私と契約して彼氏になってよ。」


「……保留で。」


「ちゃんと考えておいてね。」


 そう言って、はぁ~と溜息をつき怜は穿いていたパンツを一瞬で脱いで俺に被せてきた。


「ありがとうございます!」


 俺は感謝の気持ちを伝える為、何度もお礼を言って頭を下げた。





 そのやり取りの後、妹からのスキンシップが極端に増えた。まるで一線を越えた恋人のようだ。


(前世では一線越えてるけどさ……。)


 だからと言って兄妹の垣根を越えるのは違うと思う。


 いくらなんでも、これは親にバレる。


 そう思った俺は、前世を思い出した二日後に妹と話し合う事にした。





「なあ。親に不審がられるから、もうちょっと抑えてくれない?」


「大丈夫大丈夫! 自分達がイチャイチャする事に夢中でこっちの様子なんて気にしてないよ。」


 俺達の親三人は家に居れば基本的にイチャイチャしている。現時点では確かに気付いていないが、妹からのアタックがこのまま長期間に渡って続けば流石にバレると思うんだけど……。


「いや…でもな……。」


「お兄ちゃんだって満更でもないじゃん。」


「うぐっ……。」


 前世の記憶を取り戻した俺は、怜からのスキンシップを好ましく思っている。何だったら良いぞもっとやれ! くらいに思っていない事もない。


 だが、やはり今まで妹としてきた俺の記憶もあるわけで……。


「兄妹で恋人なんて普通だよ普通。むしろ流行ってるよ。いっぱいそうゆう人知ってるし?」


「前に言ってた人の事か? あれは環境が特殊なだけで普通の恋人だったじゃん。」


「それとは別。」


 もしかして本当にいるのだろうか?


「もう最近のトレンドって言うか……。そうゆうジャンルも受け入れられてるって言うか……。」


 何だかハッキリしない言い方である。


「周りにはそんな奴居ないと思うけど……。」


「お兄ちゃんの持ってる漫画にいっぱい出てるじゃん。」


 またそれかよ!?


 俺のコレクションもしかして全部見ちゃったの? バレないように分散してあったのに……。


「あまり前世の恋人を舐めない事だ。」


 はっはっはと豪快に笑う妹が可愛い。


「何が不満なの? 私達の関係ってお兄ちゃんの性癖にも優しいじゃん。」


「リアルでは流石にマズいと思います。」


「っていうかさ、前世の記憶取り戻す前から妹物のエロ本持ってたって事だよね?」


 ギクッ


「前世関係なしにそうゆう目で妹を見てたの?」


「……。」


 もうやめてくれ…。


 お願いだから。


「そんなお兄ちゃんに朗報です!」


 なんですか?


「今ならお兄ちゃんのゲスい性癖を包み込んでくれる妹が、恋人として貴方をサポートします!」



 おお……!


 やはり俺には君しか……。




 待て! 騙されるな!


「今、俺の事洗脳しようとした?」


「え? えぇ? そんなこtあるわけな、ないし?」


 思いっきり噛んでるじゃねえか。


 しかも、目がバタフライでもしてんじゃないかってくらいに泳ぎまくっている。



「もう! つべこべ言わず恋人になれー!!」



 両手を振り上げた怜の手が強い光を放ち始めた。


 こんな時にまでトリックを使うなんて……芸人魂でもしみついてるのだろうか?






(お姉ちゃんね。——君の幸せの為ならお仕事たくさん頑張るから。


 お姉ちゃん……。無理しないでよね?




 ——君。勉強大変だろうけど、体壊しちゃダメよ?


 姉さんこそ。無理し過ぎだよ。




 ——君。立派になったね……。もうお姉ちゃん居なくても安心ね。


 待ってよ姉さん! 俺…まだ全然恩返し出来てないよ!!)



「この記憶は……。」


 妹を見れば、取り戻してしまった悲しい記憶の中の人物と重なる。


 容姿は全然似ていないのに、何故か妹が記憶の中の姉とかつて同じ存在だったのだと否が応でも分かってしまった。

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