アフロとディーテ ~オフ会開いたら、自分のガチ恋勢が妹だった件~
たまごなっとう
第一部
プロローグ
プロローグ
人生においていちばん幸せな時間って、もしかしたら皮算用をしてるときかもしれない。
お金があったらなにを買いたいとか、好きな子と付き合ったらどこに行きたいとか、有名人になったらなにをしてみたいとか。つまり、妄想。
頭のなかだけならどんなことも好きなようにできるし、誰にも邪魔されない。目を閉じるだけで、すぐに幸せを手に入れることができる。
しかし、人はどうしてもその幸せを現実世界でも求めてしまう。現実はいじわるなのに。
もし仮に、妄想のなかの幸せが実現したとする。でも、現実というフィルターを通してしまった瞬間、その幸せの形はまったく別の姿になってしまう。
こんなはずじゃなかった! なにかの間違いだ! そう嘆いたときには、もう手遅れ。妄想への執着が強ければ強いほど、「幸せ」が「不幸せ」へと反転したときの衝撃はすさまじいものだろう。
想像したくもない。誰しも自分が抱いた期待に、裏切られたくないから。
あの瞬間、世界は真っ黒な絶望に覆われた。
大切にしていた自分の期待は完膚なきまでに叩きつけられ、粉々に砕け散った。
こんなことになるなら、ずっと妄想の世界にいたほうが幸せだった。
◯◯◯
~Twitter DM ディーテ⇆ゴッドアフロ~
『おはよう。早く起きたって言ってたけど眠くなってない?』
『眠いです。さっきからあくびが止まりません。昨晩はディーテくんのアーカイブを見ながら寝ようとしてたんですけど、あれは全然ダメですね。笑っちゃって逆に目が覚めちゃいましたw』
『僕の配信、睡眠導入にする人なんているの? 想像したら電車のなかで笑いそうになったんだけど。危ない危ない。周りの人に変な目で見られるところだった』
『別にいいじゃないですか。いつも配信では変な目で見られてるんですし』
『衝撃の事実! そんなふうに見られてたのか……。電車のなかで泣いちゃうかも』
『冗談ですよ。――たぶん』
『今日のオフ会ずっとへこんでたらごめんね……。まあそんなことは置いといて、もうすぐ渋谷に着くけどゴッドアフロさんはいまどの辺?』
『私はもうハチ公のところにいますよ。張り切りすぎてちょっと早く来ちゃいました』
『そうなんだ。いつ着いたの?』
『一時間くらい前です……』
『えっ! それなら言ってくれれば僕が着くタイミングで連絡したのに。ずっとハチ公前にいるより近場で時間つぶしてたほうがよかったでしょ』
『いえ、なんだかそわそわしちゃって。じっと待ってるだけでも精一杯なんですよね』
『あーわかる。僕もそわそわしてるもん。いつもより体力の消費が激しい気がする。一人で居続けるのもさすがにもう退屈だろうし、なるべく急いでいくね』
『すみません』
『気にしないで。残りの参加者の二人なんだけど、一人は遅れるって連絡きた。もう一人は一応渋谷にいるみたいなんだけど、迷子になってるらしいんだよね』
『そうなんですかw じゃあディーテくんが着いたら一緒に探しに行きましょうか。出る改札間違えると大変ですもんね』
『駅着いたよ。これからハチ公前に向かうから、服装とか自分の目印みたいなの教えてもらってもいい?』
『白のブラウスに青いフレアスカートで、ボブなのが私です!』
『了解! いまから向かうね』
『はい、待ってます! 会えるのめちゃくちゃ楽しみです!』
◯◯◯
「すみません。ゴッドアフロさんですか?」
このときはまだ何も知らない。
これが幸せの終わりを告げるひとことだったということを。
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