第33話 とてもよく切れる剣ができました

「さて室長、説明してもらえるんですか?」


カルアとピノを送り出してから、ロベリーはモリスにたずねた。いや、たずねた。

「そうだね、ここからは君にも参加してもらった方がいいだろうね。ただし、他言無用で秘密厳守が条件だけど、どうする?」

「もちろん参加しますし秘密は守りますよ。というかですね、室長の秘書をやってる時点で秘密厳守なんて今更でしょう?」

「あっはっは。それもそうだね、了解了解。じゃあロベリー君、ようこそ『チームカルア』へ」


そしてモリスは、フィラストダンジョンの新トラップ発見に端を発する一連の騒動、そのすべてをロベリーに明かした。

当然その内容は、かなり早い段階からカルアのやらかしについて、となるわけだが。


そのすべてを聞き終え、しばし呆然としていたロベリーだったが、やがて、

「はぁ、室長もですけど、皆さん苦労されたんですねえ。それはブラック氏もピノに胃薬を頼むわけだ・・・。それにしてもカルアくん・・・あんな可愛い顔して『歩き回る地雷原』だったなんて。」


「あははは、『歩き回る地雷原』って彼にピッタリの言葉だねえ。彼の二つ名としてギルドの会員情報にこっそり登録しちゃおうか」

「そんなことしたらピノの地雷を踏み抜いちゃいますよ? それ、即死案件ですからね」

「おっと、即死とは穏やかじゃあないな。僕も命は惜しいからね。そういう危険な箇所には触れないでおくとするよ」


「それにしても、そんなカルアくんを学校に・・・ですか。ずいぶん思い切ったというか無茶なプランだって気もしますけど」

「まあリスクはあるだろうね。ただほら、魔法の基礎や常識、それに一般的な難易度感なんかを肌で感じてくれれば、彼も何かやらかす前に自分から気づいてくれるようになるんじゃないか、ってね。まあ発案はブラック君だったわけだけど、僕もいい案だと思ってるよ」


モリスの言葉に、それでもやっぱりロベリーは不安を拭いきれない。


「そううまく運んでくれればいいんですけどね。逆に地雷が増えるとか信管が軽くなるとか・・・、苦労が増える事になるかもしれませんよ?」

「ふむ、その可能性も無いとは言えないね。でもまあ、きっと大丈夫だよ。彼自身が緩やかに成長していくことで、その危険も緩やかに減っていく、っていう無理のないだからね」


「はあぁ・・・。室長、これまで何回『想定外』って言葉使いました?」

「・・・あ・・・」





大通りを歩く僕たち。

だんだん日が傾いてきて、そろそろ夕方って言ってもいい時間に差し掛かってきたかな。


「さてカルア君、デートの締めくくりはやっぱりディナーですよね。でもここで残念なお知らせをしなくちゃなりません。実は王都の門って、日没で閉鎖されちゃうんですよ。なので今日帰るためには、ここでディナーってわけにいかないんですよね」

「ああそうか、そうですよね。だからってあんまり早く食べたら、後でまたお腹空いちゃいますもんね」

「そうなんです。という事でカルア君、今から市場に行きましょう。王都の市場はすごいですよぉ。なんといっても各地の珍しい食材とかが色々揃っていますからね。ふふふ、今日はいつもと一味違った夕食をお約束しましょう!」

「やったっ! すっごく楽しみです」




「おや、そこのかわいいご夫婦、うちの店に寄ってくれよ。近くの農園からさっき届いたばかりの新鮮野菜が揃ってるよ。なんたってうちの提携農園だからね。定番から珍しいところまで何だって用意してるよ。どうだい? 今だったら特別に安くしとくよ?」

「やだもう! まだ夫婦じゃないですよっ。カルア君、ちょっとこのお店見ていきましょうかっ」




「そこのカップルさん、今夜は肉なんてどうだい? 彼氏には精を付けて頑張ってもらわないとね。動物肉から魔物肉まで揃ってるよ。うちは専属のハンターと直接契約してるからね」

「そうね。カルア君は冒険者としてまだまだ頑張らなくっちゃだからね。そうだ、いつも魔物肉だから、たまには動物肉も食べ比べてみましょうか」

「はいっ」


「まいどあり。うちの肉食ってくれればもう今夜か」

「わざわざ言い直さなくっていいですよ?」

「す、すみません・・・」


最近分かるようになったんだけど、ピノさんの笑顔って時々ヒュッてなる時があるよね。

あ、店主さん少しおまけしてくれたみたいだ。




「あとは昔行きつけだったお店でちょっと珍しい調味料を買うだけ。ふふふ、期待していて下さいカルア君。今日の夕食は暑い国の郷土料理『カレヱライス』に決定しました!」

「おおー、どんな料理かまったく分からないけど、すっごく楽しみです!」




買い物を終えた僕たちは、門が閉まる前に無事王都を出ることができた。

そして、来た時に使った転移スポットから一瞬で僕の家へ。


「「ただいまー」」

まあ誰か待ってるわけじゃないんだけどね。


「さあカルア君、今から夕飯の仕込みに入りますから、カルア君はボックスから食材を出したら休んでいてね。そうだ、いつもよりちょっとだけ時間がかかるから、あちらで剣の錬成とかしてたらちょうど良いかも」

「あ、そうですね。そうします」




よし、じゃあさっそく剣の錬成、やってみよう!!

まずは今日もらってきた金属を取り出して・・・いや待てよ、そういえば壊れた剣の修復がまだだった。

そうだよ、練習にちょうど良いじゃないか。


久しぶりに剣を鞘から出す。

初めて魔物部屋に入った時に折れちゃったんだよね。

そのまま鞘に入れて持って帰ってきたけど・・・

それでそのまま忘れて手入れとかもしてなかったけど、どうなってるかな・・・

あ、よかった。ちょっとしか錆びてないや。


あれ? そういえば錆って一体なんだろう?

水に濡れてそのままにしてると錆びるよね。

じゃあ水? うーん、でも鉄に水が染み込むなんてあるのかなあ?


あ、『融解』したあとに『分離』したら錆びてない状態に戻るかな? 戻るかも。

戻ったらいいなあ。


まずは折れた刃の部分をテーブルに置いて、と。

あ、そうか。柄は取り外さなくっちゃ。

ええっと、柄頭つかがしらから取り外してブレードだけにしてっと。

最後は元通りの形にしないといけないからね。折れた部分と合わせた状態で大きさと形を記憶しとかなきゃ。

どうしようかな? あ、空間魔法で把握すればいいんじゃない? ふふ、僕って冴えてるかも。


さあ、それじゃあまずは「融解」。

溶けてドロドロになったところで、錆はもう見えないけどどうなるかな? 「分離」。

うん、色が変わって・・・これで鉄だけになったってことかな。


あれ? 横には結構な大きさの金属が。

もしかしてこの剣って、鉄と他の金属を混ぜて作ってるってこと?

それってどうなのかな? 混ぜるほうがいいのか混ぜないほうがいいのか?

うーん、今度プロに聞いてみよう。

今日のところは大きさが変わっちゃうと困るから元通り混ぜておこうっと。


できるだけ均一になるように・・・「混合」。

うん、全体的に同じ色になった。そうしたらさっき把握した形になるように魔力で調整して・・・、よし、「凝固」。


うん、いいんじゃないかな。寸分違わずさっきと同じ形。じゃあ柄を取り付けて・・・

よし、出来た!

どうだろう。いい出来栄えなんじゃない? なんだか前よりも輝きが増してるように見えるしね。

今度マイケルさんに見てもらおうっと。


さて、それじゃあいよいよ本番。

なんだけど、今と同じ手順でそのまま溶かして固めるだけなんだよねえ。

何か工夫できないかな・・・


今僕に出来ること・・・

っていうと、錬成に時空間魔術、それと付与・・・

!?

ちょっと待って、すっごいこと思いついちゃった!

もしかして僕、アレ作れちゃうんじゃない?

物語に出てくる、あの『魔剣』を!!


『魔剣・・・か。そうだよな。誰だって一度は魔剣ってもんに憧れるもんだ。ただなあ、どうやって手に入れるかってのが問題だ。買うか? って、そんな金なんざあ持ってるわけねえよなあ。じゃあ作るか? はは、分かってるって。ただの剣だって打てやしねえってな。なら誰かから奪う? そりゃあねえな。第一俺が許さねえ。だったら答えははなっからひとつだけだ。伝説にあるとおりドラゴンの巣からかっぱらって来るしかねえよなあ』


「ふふ、主人公ヒーロー、僕は『作る』を選択するよ。魔剣、できるといいなあ」





王都某所。

キュピーーン☆「む、この反応、『想定外』かっ!!」

「・・・なんてね。うん、気のせい気のせい。カルア君ももうヒトツメの家に帰ってる頃だしね。今頃はきっとピノ君と楽しく夕食でも食べてるところだろうさ」





「うーん、付与・・・金属に付与ってしたこと無いけど、出来るのかなあ? 確か物語だと伝説の『ミスリル』とか『オリハルコン』の剣だった気がするし・・・やっぱ特別な金属じゃないと駄目な気がするなあ。じゃなきゃ世の中魔剣だらけになっちゃうよね」


どうしたらいいかなあ・・・そもそも僕って魔石にしか付与したこと無いしねえ・・・魔石、うーん魔石かあ・・・いっそのこと魔石で剣作っちゃう? って切れ味悪そうだしすぐに壊れちゃいそう。っていうか魔石ってそもそも剣に出来るほど硬いのかな?


「あ、さっきの剣みたいに混ぜちゃう? ちょっとずつ増やしながら魔力の通り具合を見ていけばいけるかも。駄目だったら分離しちゃえばいいだけだし。そうだよ、まず混合だけやってみよう」





王都某所。

キュキュピーーン☆「っ!! また!?」

「・・・昼間の件でちょっとナーバスになってるのかなあ。『想定外センサー』とか言ってるだけで、別に魔法でもスキルでもないしね。うんうんうん、気のせい気のせい。気のせいだと・・・いいなあ」





「さてと、魔石は地下室から持ってきたし、マイケルさんからもらったインゴットと混合していこうかな。まずはインゴット・・・あれ? そういえばこれって何の金属だろう? さっきの剣の色とも鉄だけ分離した時の色とも違うし・・・もしかして剣にするのにいい感じの混合とかしてあるのかな? うん、きっとそうだね。よし、じゃあ『融解』してっと」


うん、いい感じにドロドロ。


「魔石は・・・剣の1割、の半分くらい入れてみようか。こちらも『融解』、でこの金属に『混合』。魔力の通りは・・・うん、少し通る感じかな。じゃあ魔石を追加。今度は1割になるくらいでと。さて、魔力は・・・うん、さっきよりも通りが良くなった」


こんな感じで進めていったけど、2割を超えた辺りからうまく『混合』できなくなってきた。なんだか抵抗されるみたいな感触がある。ってことは2割くらいにしておくのがいいってことかな。


「よし、じゃあ魔石だけ『分離』して2割分だけをもう一度『混合』。念のため魔力の通りを・・・うん、いいね。ちゃんと通る。じゃあこのままさっきの剣と同じ大きさで形を整えて・・・よし『凝固』」


おお! これは・・・


「ちょっと透明がかって神秘的な色。これ何だかすごくカッコイイんじゃない!?」


よし、さっきの剣から柄を取り外してこっちに付けてみよう。

おお! これ魔剣っていうより聖剣みたい!

ブレードの色がすっごく綺麗。柄はボロいけど。


「あとは付与だけど・・・当然時空間魔法だよね。錬成とかはちょっと違うし。あれ? でも『融解』とか付与したら打ち合った相手の剣が溶けちゃったり? うわ、それって悪役っぽい! 錬成は無し無し! 時空間魔法に決定! 時空間魔法で剣と相性がいいっていうと・・・やっぱりアレしかないよね。『空間ずらし』」


でもそのままってわけにはいかないから、ちょっとアレンジ。

空間を切断するのは刃先だけ、剣の側面には結界と同じように空間の断面をコーティング。

うん、これなら魔力を通した時だけ鋭さと硬さが増してくれるはず。

あ、魔力を通せるように柄やグリップも魔石で加工しとかなきゃ。



「よし、形とイメージは完成! あとは付与するだけだね」

剣を額の前に掲げるようにして、

「君は何でも切り裂く最強の魔剣だよ。さあ、僕の魔力を受け入れてみて。分かる? 君の刃先は空間を切り裂き、その側面はすべてを防ぐ最強の盾となる。最強になった気分はどう? これで僕と君は最高のパートナーさ。だからね、僕以外の魔力は絶対に受け入れちゃ駄目だよ。いいかい、約束だよ」


剣は光を発し、もとに戻る。

うん、どうやら受け入れてくれたみたいだ。

ちょっとだけ、切れ味を試してみたいな。

そうだなあ・・・よし、薪で試してみよう。


裏の薪割り場で原木を縦に置いて、僕は剣を振った。

何の抵抗もなく・・・ってあれ? 空振りしちゃった?

うわぁ、しばらく剣を振ってなかったからって、これは恥ずかしいよ!

ってワタワタしてたら、上半分がずるずると滑り落ちて・・・よかったぁ、ちゃんと切れてた!


ああビックリした。

で、下半分はそのまま何事もなかったみたいに動いていない。

ってことは、

「うん、これってなかなかいい切れ味じゃない?」





王都某所。

キュピキュピキュピーーン☆「!!??」

「・・・ああ、これはもう完全に駄目なやつだ・・・でも今の僕にはとても見に行く勇気がないよ。しかたない、警告だけしておくとしようか」





僕の眼の前にふっと便箋が現れた。

あれ? これって昼間見たのと同じ便箋? ってことは、モリスさん!?


おそるおそる便箋を開くと・・・


◇◇◇◇◇◇

やあカルアくん、モリスだよ。

なんだか僕の『想定外センサー』がさっきから激しく反応しててさ。

初めはまあ勘違いだろうと思ってたんだけど、あまりに繰り返すものだからね、もしかしたら君がまた何か想定外をやらかしたんじゃないかって心配になってね。

いや、心当たりがないならいいんだ。単なる僕の勘違いだったってことだからね。

それが一番望ましいってのが正直なところさ。

でもね、残念ながらとてもそうは思えないんだよね。

だからさ、僕は君がさっきから何かやってると仮定した上で言うよ?


いいかい、それ、人前に出す前に必ずブラック氏に相談すること。

いいかい? くれぐれもだよ。くれぐれも。本当にくれぐれもだからね。

◇◇◇◇◇◇



・・・ホントは僕だって薄々気づいてはいたんだよ?

だって魔剣ってほら、伝説のアイテムだし。

主人公ヒーローだって「竜の巣」に取りに行ってたし!


・・・はぁー、明日ギルマスに見てもらうしかないかぁ。




「カルアくーーん、カレヱライスが出来ましたよぉー」


おっと、いつの間にか結構時間が経っていたみたいだ。

「はぁーい、すぐ行きまーす」



食堂の扉を開けた瞬間、うわっ! 何これもの凄くいい香り!

今まで嗅いだことのない香り。

全く味の想像がつかない香り。

でも猛烈に食欲を刺激する香り。


もう我慢できないよ!

「さあカルア君、どうぞ召し上がれ」

「いただきまーす!!」


スプーンで掬って一口。

衝撃!!

そして次に我を取りもどしたのは、眼の前の皿が空になっていた時。

「ふふふ、おかわり沢山ありますよ」



・・・何回おかわりしたかは数えてない。



「ピノさん、この『カレヱライス』って凄いです。初めて食べましたけど、どうしよう、言葉で言い表せないくらい美味しいんです。でも何故美味しいのか、何がどうなって美味しいのか全くわからないんです。なんですかこれ? 魔法みたいな料理です!!」


「ふふっ気に入ってくれてよかった。これって、たくさんの種類のスパイスを程よいバランスでブレンドするの。だから初めて食べたカルア君ならそういう感想になるわよね。食べたことがないもの同士を組み合わせたんだもの。どう? 味と香りと旨味が口の中で爆発したみたいだったでしょう?」


「本っ当に最っ高でした。これだったら毎日でも食べたいです!」

「うーん、さすがに毎日は飽きると思うわよ。でもそんなに気に入ってくれたのなら、これからも時々作るわね」

「やったあ!! ありがとうございますピノさん!」



「じゃああとは片付けるわね。そういえば剣はどうだった?」

「ええ、いいのが出来たと思います。ただ・・・」

「何かあったの?」

「出来上がったところでモリスさんから手紙が来て、『誰かに見せる前にギルマスに相談すること』って」


「ああ、きっと何かやっちゃったのね」

「あはははは・・・」



「じゃあ明日ギルマスに見せましょう。私も同席するわね。ギルマスに頼まれてた胃薬も渡さなきゃだし。でも早速その場で必要になりそうね・・・がんばれギルマス」

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