第3話 平和な日常
「はぁ、ちょっと疲れたな。今回は長い時間、宝箱になってた気がする……」
恭一はアパートのベッドの上で目を覚ますと大きく伸びをする。
昨日は宝箱に転生して初めてのランクアップを体験したので、体が重たく感じてしまう。そして、現在は早朝六時過ぎ。以前の恭一ならばまだ眠っている時間帯だ。
「ふわぁー」
大きな
(また、お菓子を食べながらゲームをしてたんですね……)
恭一は苦笑しながらもミディア様に毛布をかけてあげる。そして、彼女の隣に腰掛けると、しばらくじっと見つめる。
「こうして見るとやっぱり可愛いよなぁ……」
ミディア様の外見年齢は十代半ばくらいに見えるが、実際は何千年と生きているらしい。見た目と同様に性格はかなり子供っぽく、少女のような言動が目立つ。
そんな彼女が朝方までゲームに夢中になって、幸せそうな表情を浮かべたまま寝落ちしている様子を眺めるのは微笑ましい気分になれた。
「求人広告に個室完備って書いてあったけど、まさか女神様と同居することになるとは思わなかったよ。まぁ、それも楽しいんだけどね」
ミディア様が寝返りを打つと毛布がずれ落ち、乱れた寝間着の隙間から白い肌と大きな胸が覗いていた。
「うおっ、これはまずい!」
その
恭一は慌てて床に落ちた毛布を拾い上げようとしたところで、悪戯っぽい笑みを浮かべているミディア様の瞳とかち合った。
「ボクの体が気になるのかい? うーん、恭一にはお世話になってるし、少しなら触ってもいいよ?」
「ちょっ!? 起きてたんですか!?」
「おはよう、恭一。キミが部屋に入ってきた時から目が覚めてたよ。だけど、面白そうだからそのまま寝たふりを続けてみたんだ」
「それ、完全に遊んでましたよね?」
「あはは、ごめん、ごめん。それで、どうだい? 触りたいなら好きにしていいんだよ?」
ミディア様は寝間着を
「そ、そんなことできるわけないじゃないですか!」
「ちぇっ、残念だなぁ。でも、興味があるならいつでも言ってよ。ボクは恭一のおかげで毎日楽しいからさ。そのお礼だよ」
頬を赤く染めながら上目遣いでこちらを見つめてくるミディア様。
「な、なんの話ですかね……。さて、俺は朝ごはんを作ってきますから、ミディア様はちゃんと顔を洗ってください」
恭一は動揺を隠すように立ち上がると、キッチンの方へと歩いていく。
すると、背後から楽しげな笑い声が聞こえてきた。
「あっ、逃げた! あっはっは、照れちゃって、かわいいねぇ。まぁ、そこが恭一の面白いところでもあるんだけどさ。……それにしても、まさかこんなに早く宝箱のランクが上がるなんて予想外だったよ」
ミディア様はソファーの上で
「ランクアップする時っていつもこんな感じなんですか?」
「ううん、違うよ。前にも話したと思うけど、宝箱の仕事は恭一以外にもお願いしたことがあるんだよ。早かった人の中でも、木から鉄にランクアップするのに一ヶ月以上はかかったはずだからね」
「じゃあ、今回はどうしてこんなにも早いんですか?」
「おそらく、恭一が頑張ってくれたからだね。今までの人たちは宝箱イコール動かないって認識があったみたいだから、あまり積極的に行動してくれなくてさ。でも、恭一の仕事ぶりを見てたら期待できそうじゃないか。次のランクアップまで最短記録を更新してみるのもありかもよ?」
ミディア様は嬉しそうに語ると、口いっぱいにパンを詰め込む。そして、ローテーブルに置いてあるスマホを手に取った。
「さて、これから忙しくなるぞぉ」
彼女はそう呟くと、不敵な笑みを浮かべながらスマホの操作を始める。恭一は心の中で小さくため息を吐くと、少し気になったことを聞いてみた。
「ミディア様、こっちの世界の物って異世界に持ち込めたりできないんですか? 待ってる間の暇つぶしに雑誌とかスマホがあれば助かるんですけど」
すると、ミディア様はスマホに集中したまま、首を縦に振る。
「うん、できるよ。『生き物以外のもの』っていう条件はあるけど服や食べ物、本みたいなものなら大丈夫。スマホも持ち込めるけどあっちには電波がないから使えなくなっちゃうかな」
「それじゃあ、スマホに雑誌とか気になるテレビ番組をダウンロードしておけば問題ないですね」
ミディア様の答えを聞いて、恭一は安堵のため息を漏らす。
最初は迷宮で出会う冒険者や魔物など、見るもの全てが新鮮で楽しかった。しかし、いつも誰かが宝箱を見つけるわけでもなく、暇な時間も多い。仕事とはいえ、新しい楽しみを見つけないといけないと思い悩んでいたのである。
(これで溜まってたアニメとドラマの続きが観られる!)
恭一は思わず頬を緩ませていると、ミディア様から声をかけられた。
「恭一、今日の晩ご飯だけどボクは牛丼が食べたいな!」
「牛丼ですね、わかりました。他にもパンと牛乳も買ってきますよ」
「あと、お菓子もね! 次はどの男の子を堕とそうかなぁ」
スマホのゲーム画面を食い入るように見つめるミディア様。恭一はその様子に苦笑しつつ財布を持って玄関へ向かうのであった。
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