06話 身丈岩の幻
それなのに....
「佑斗さん、あの.. 『身丈岩』の方には調査行かなくていいんですか? 」
そう、私の目的はエリアエンドにある『身丈岩』にある。
私が立っていた岩から
「行ってみたいの? 」
「 ..何かあっちには全然近づかないなって思って」
「近づかないというか、『身丈岩』付近に行くダイバーが少ないんだよ。遠くて、深く、そして何よりも潮が複雑だからね。だから生物調査があまり役立つこともないんだ」
「じゃ、やっぱり行かないんですか? 」
「ははは、行きたいって顔してるね。じゃ、今度行ってみようか」
「本当ですか! ありがとうございます!! 」
きっとそこに『青いトンネル』の手がかりがあるに違いないんだ。
きっと....
・・・・・・
・・
その日、私はデジカメを携えて海に潜った。
佑斗さんはエアーを節約するために水深を浅くエリアエンドまで泳いでいく。
それまでにたくさんの魚の群れが通り過ぎて行った。
私は特徴的な岩やそこの景色などを写真に収めた。
自分一人で潜った時にいつでも行けるようにするために。
かなり長い間、泳いだ印象だった。
そこには白い浮き|球(ブイ)が目印として浮いている。
佑斗さんはスレートに『この先エリアエンド』の文字を書く。
そして水深を25mにまで一気に深めていく。
巨大なコンクリートブロックが2つ折り重なっていた周辺にはカラフルな大きな海ウチワがいくつも咲き乱れていた。
そしてひときわ透明度が良い冷たい潮が流れてくる向こうに、砂地から切り立つような『身丈岩』が見えた。
私は夢中でシャッターを切る。
ファインダーの中にほんの一瞬でも探し求めたものが映り込むかもしれない。
設定してきた連射モードで、身丈岩から、漁礁、そこから見える景色全て、もらさず撮らんとばかりに。
私がさらに『身丈岩』に泳いで近づこうとすると佑斗さんに手を掴まれた。
それでも少しでも近くに寄ろうと身を乗り出す。
もっと、もっと、いろいろな角度で、水深でひたすらシャッターを切る。
やがて激しく鳴らすベルの音が聞こえた。
自分の残圧系を見るとまだ110くらいは残っている。
残圧100を切ったら申告する約束をしていた。
まだ、ここに居てもいいはずだ。
私はベルの音を無視して写真を撮り続けた。
(もう少し身丈岩に近づきたい)
私がフィンを
(じゃましないで! まだ空気あるんだから!! )
私は佑斗さんの手を思い切り振り払った。
『戻る』のサイン?
私はまだ大丈夫。
戻りたければ私を置いて佑斗さんひとりで戻ればいい。
だが、今度はBCDをしっかりと掴まれてしまった。
・・
・・・・・・
佑斗さんは陸に上がってから無言だった。
だが、素振りでかなり怒っているのを感じる。
器材を洗い、着替えをする。
そしてロビーの椅子に座り缶コーヒーをひとくち飲むと、ついに始まった。
「あれはいったいどういうつもりだ、蒔絵」
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