04話 荻島リゾート計画

この荻島おきしまダイビングセンターで働いて約ひと月。


佑斗ひろとさんの腕もだいぶ良くなり、私が荻島ダイビングセンターを去る日ももうすぐと思っていた。


「おはようございます。佐藤開発工業です。オーナーさん、いらっしゃいますか? 」


「オーナーなら今、漁協さんの事務所にいってますけど.... 」


「では、こちらのお知らせ置いていきますので、よろしくお願いします」


『工事計画に伴う現地調査及び立ち入り禁止期間』


そこには沿岸整備工事とマリンレジャー施設の概要が書かれていた。


「佑斗さん、これって何? 」


「この荻島を様々なマリンレジャー施設有する観光地にするという計画だよ」


「なんで? そんなの必要ない。だってここは素朴で静かな島なのがいいのに」


「蒔絵の意見と同じ人ももちろんいるよ。俺だってそうさ。でも漁業しかないこの島の経済や雇用に観光開発は役立つ事も確かなんだ」


「 ..じゃ、あの場所も壊されちゃうの? 」


いや、もうわかっていた。

この計画書には書かれていた。

あの沿岸一帯がヨットハーバーになってしまうって。


「工事はいつからなの? 」

「たしか来年の春先じゃないかな」


そっか....

工事は春には始まってしまう。

もう来年の5月には岩の上に立つことはできない。

あそこから探すことはできないんだ。



「  .....佑斗さん、私、海の中に潜りたい。」



・・・・・・

・・


今までスポーツというものをやった事はなかった。


しかし、200m泳げと言われれば泳いだ。

15分立ち泳ぎと言われれば、それに耐えた。


何回も何回も失敗の連続だったけど、佑斗さんからアドバイスをもらいながら習得したダイビングスキル。


そして7月に私は40mまで潜ることが可能なアドバンスド・オープン・ウォーターのライセンスを取得した。


・・

・・・・・・


「海の中....か..」


私はセンターに飾られた写真を見て思う。


青い世界と光のコントラスト、そして華やかな魚たち。


確かに人を魅了する素晴らしい世界がそこにあった。


「佑斗さんは写真撮らないの? 」

「撮るよ。ほら、そこの写真は俺が撮った写真だよ 」


真っ青な海に浮かぶダイバー、そこに射すひとすじの光。

私が一番素敵だと思った写真だ。


「あの.... 佑斗さん、私に水中写真、教えてもらえないですか? 」


「ああ、構わないよ。でも、もう少し蒔絵が海に慣れる方が先かな....そうだ、蒔絵が俺のバディになればいい 」


「佑斗さんのバディ? ..それって海の中だけってことですよね? 」


「も、もちろんだよ。生物調査に付いてきてもらうって事 ..そう、そういう事だ」


なんで、あんなわかり切った質問しちゃったのだろう。

質問した事を思い返すと、自分の耳が赤くなるのがわかる。


その日から業務の間を縫って佑斗さんの生物調査に同行させてもらうことになった。

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