01話 岩の上の出会い

今年も今日で3日目。


荻島おきしま行きのフェリーからの景色は、青い海にこの海鳥たちのみ。

でも.. 良い天気だ。


「今日、見れるといいな.... 」


お父さんが私に見せようとしていたものとは何なの?

『あれ』を見ることが出来ず、もう4年が経ってしまった。


『蒔絵、きっとお前は見ることが出来るはずだよ。また一緒に見に来ような』


(お父さんの嘘つき..『一緒に』って約束したのに.... )



せめて、『あれ』が本当にあることを知りたくて、私は今日もこの荻島に来た。



***


もういい加減この岩を渡り歩くのも慣れてしまった。


今では日傘を持ってこの岩までたどり着ける。


この場所から見る海はとても穏やかで光り輝いている。


もうすぐ正午。


『あれ』が現れるという午前が終わろうとする時、いつも思ってしまう。


『やっぱり、お父さんの.... 』


それでも、諦めきれずに私はまたこの岩に来てしまうんだ。


きっと、そうしないと.. 私にはもう何も残らない気がして....



「君、凄いな。スカート、いやワンピースで、よくここまで渡ってきたね。おお、日傘まで」

「スカート? 」


「ごめん、驚かせないようにと思ったんだけど」

「 ....」


誰?ウエットスーツ。また漁協の人?

それともナンパ?


「 ..何の用ですか? 」


どちらにせよ、この荻島の人なら.. 嫌だな。

あまり島の人とは関わりたくない。


「さっき海から君が見えたんだ。俺あそこにあるダイビングセンターの者だけど、オーナーがこれを君にって」

「ライフジャケット? 」


「この辺りは潮の流れもあって危ないんだ」

「そうですか.... でもいらないです」


さっき海に浮いていたダイビングのひとか....


でも、ごめんなさい。

もう構わないで立ち去ってほしい。


「 ..じゃ、ここに置いておくから」

「いらないから!もう放っておい— キャッ.. 」


「危ない! 」



なに?

海に落ちたの?

水のはじける音と鼻をつく痛み。

音はこもっていき、視界は.... もうわからない。


=====


『まだあきらめる時じゃない。お前には進みたい道があるのだろう。それなら何度でも— 』


『蒔絵、ほら、良い眺めだろう。父さんはこの海が大好きなんだ。この場所は、父さんの特別な場所なんだ。おまえも、いつか— 』


『 蒔絵.. 蒔絵....  』



お父さん.. 私、もう.. わからないの....


=====


誰?私の手を引っ張るのは..  お父さん?



「ほら、これにつかまって」

「ケホ ケホ ..ケホ 」



身体が うまく動かない....


「さ、さむい 」

「ちょっと我慢して、俺があそこまで引っ張るから」


あんなに遠くまで.... 私を曳いて?


「ごめんなさい.. 」

「え? なにか言った? とにかくすぐ.... 着くから、ちょっとの辛抱だよ」


5月の海はまだ冷たく、私の体温を奪っていった。

腕の震えが止まらない。

でも、私はかじかむ手で必死にライフジャケットを掴んでいる。


虚ろになっていく意識の中、私を一生懸命に曳いていく背中が見える。


お、お父さん..


『蒔絵、まだあきらめる時じゃないんだよ』

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