第29話 勝利者

第二十九話 勝利者


サイド 剣崎 蒼太



 灰となった人斬りを見下ろした後、周囲を警戒しながら彼女が投げた小刀の方へと歩いて行く。


 何故彼女は小刀を使わず、燃え尽きながらも炎に巻き込まれない位置に投げたのか。それどころか、絶対に壊すまいと出来るだけ優しく放った気もする。


 もしや、あれが人斬りの『核』?原理はわからないが、異能も固有異能もわけがわからんものばかりだ。


 時間もない。精神的疲労も酷い。逸る意識を抑え付けて、できうる限り周囲を警戒しゆっくりと小刀へと近づく。


 迷宮への支配権に介入しながら、跪いて小刀を近くで見る。魔力の類は碌に感じない。転生者がずっと身に着けていたからか、微妙に魔力を帯びているがその程度。異能の一種とは思えない。


 指先で軽くつついてから、拾い上げる。もう手っ取り早く燃やすか。どんな罠があるかもわからないし。


 そう思いながらも、少しだけ違和感を覚える。


 なんの飾りもなく、鍔すらもない白木の柄と鞘。簡素過ぎるつくりなのだが……やけに綺麗だ。装飾とか色とかでもなく、単純に手入れが行き届いている。


 試しに刀身も見てみる。


「ほぉ……」


 刀の良し悪しなんてわからない。だがこれが名刀ではないのはなんとなくわかる。大量生産品ではない。だが、かといって昔見た美術館に展示されていた物どころか、剣道場の道場主が自慢していた刀と比べても大した出来ではないと思う。


 強いて言うなら中の上。そんな評価しか出せそうにない小刀だ。だが、それでも柄と鞘同様に綺麗だと思った。


 なんと言えばいいのか。それこそ重要な展示品にするかのように、専門の知識と経験を積んだ人が全力で日頃から整備をしている逸品だ。


「とっ……」


 そんな事を考えている暇はない。今も世界の危機は迫っている。こう言うと陳腐になってしまうが、残念なことに事実だ。


 ともかく、この小刀が異能の類ではないのは察しが付く。人斬りにとって何か思い入れのある品なのはわかった。


 ……放置していくべきなのだろう。自分では想像もつかない何かがこの小刀に仕込まれているかもしれない。置いていくか、破壊するか。


 だが、自分は一度鎧を解除してまで懐にしまい、再度鎧を展開するという無駄な行為におよんでいる。


 ただの感傷だ。人斬りが自分の命よりもこの小刀を優先した。自分達転生者が言うのもおかしい話だが、死ねば仏。出来る範囲でだが、その思いは拾ってやりたかった。


 魔瓦の位置はわかっている。ダミーしか直接見ていないが、どうやら自分の血を肉体に取り込んでいるようだ。こちらの手の内を察する事ができても、容易に取り外す事はできまい。


 このまま魔瓦を討ち、邪神の召喚を阻止する。


 そっと、腰に提げた短刀を撫でた。



*         *           *



サイド 新城 明里



 凄まじい衝突音が聞こえた後、耳をつんざく爆発音が響き渡る。どうやら上手くいったらしい。


 何をしたかと言えば、例の拝借したトラックにガソリンやら爆発物やら乗っけて五つあるうちの一つ。上半分が吹き飛んでいる製薬会社の正面玄関にぶつけたのだ。


 一応あらかじめ下見はしたうえでやった。このビルに『まっとうな生者は』いない。


 ちょっとした工夫でトラックを一人でに走らせてぶつけて、少しだけ間をおいて裏口からビルへと侵入する。どうやって?マスターキーならこの手にある。


 銃声を響かせて鍵を開けると、『助っ人』を先行させる。


「一号、二号は前衛。三号は私の後ろについてカバー。ごーごー」


 ガシャリガシャリと音をたて、三体の使い魔が進んでいく。


 これらこそ剣崎さんから預かった助っ人達。二メートル近い全高のゴーレムだ。その姿は廃材を強引に人型に成形しただけに見える。というか実際にそうだが、性能はなかなかのものだ。


 剣崎さんは『ないよりはマシかも』と言っていたが、現役軍人なみの膂力と敏捷性。鋼の体だけあってハンドガン程度なら数発受けても戦闘続行できる頑強さ。あげく死を恐れない非人間的……いや、そこはゴーレムだから当たり前か。


 手に持っている鉈みたいな片手剣と盾もかなりの出来。転生者とやら基準では数合わせにもならない雑魚らしいが、私みたいな一般人からしたら十分頼れる戦力だ。


 三体で壁となり自分を守らせながら、足早に人気のない廊下を進む。名目上は無人であるはずなのに、廊下にはバッチリと電気がついている。


 足音が二人分聞こえてくる。向こうもこちらに気づいているのだろう。来客に対応するため急いで来たらしい。玄関が忙しそうだからそっちに行ってくれればいいのに。


 廊下の角から現れたのは、白衣を着た男二人。正確には、二体と呼ぶべきか。


「アー……」


「うぁ……うぅ……」


 土気色の肌。白く濁った眼。足取りはおぼつかなく、半開きになった口からは腐臭が香る。


 パニック映画の定番とも言えるゾンビ。それが現れたのだ。下見した時に度肝を抜かれた。世界というやつは、私が思っていた以上にファンタジーなものらしい。


 すぐさま一発ずつゾンビの胸に散弾を叩きこむ。自分でも驚くほど、人型の敵を撃つのに躊躇がなかった。


 もしかしたら私は、いわゆる社会不適合者なのかもしれない。まあ、私に合わせられない社会の方が悪い面もあるから、お相子だ。


「前進」


 映画に出てくるゾンビと違い、魔術により作られたゾンビは人間同様に『死ぬ』。具体的に言うと頭以外でも致命傷を与えれば機能停止する。ただし、出血多量ではなかなか死なないし、痛覚も碌にないらしい。


 自分も魔導書にチラッと載っていた知識ぐらいしかないので、詳しくはないけど。


 ピクピクとしている二体のゾンビを踏み越えて、ビルの中を進んでいく。


 さあ、世界を救いにいくとしよう。



*          *            *



サイド 剣崎 蒼太



 人形を斬り捨て、燃やし、踏み砕きながら魔瓦に向かって走り続ける。迷宮全体の広さは変わらないが、自分が通り過ぎた端から空間を削り、代わりに奴の逃げ道の方を拡張し続けているようだ。


 それでも、着実に距離は縮まっている。人斬りによる妨害がなくなったのが大きい。もはや道を阻むのは壁や天井の操作と、人形どもによる銃撃程度。


 三体の人形どもが、アサルトライフルでこちらに弾をばら撒いてくる。狙いも碌につけられていないが、狭い通路を一直線に走っているのだ。鎧には何十発も着弾している。


 だが、この程度小雨も同然。あちらには自分に有効な火器は残っていないと見える。


 駆け抜けざまに二体の胴を両断し、中央の一体を踏み潰していく。鎧越しに感じる肉を踏み潰し、血が溢れる感覚。


 どれだけ自分に人形だと言い聞かせようとも、これらが『元人間』である事は一目瞭然。少しでも魔法に関わる者であれば、わかる。わかってしまう。


 彼らにも、家族がいたのではないか。そもそも何故このような動く死体にされたのか。そこに理由はあるのか。それを破壊する権利が、自分にはあるのか。


「どぉけぇぇぇええええ!!」


 胸中に渦巻く不安と不満を吐き出すように、声が荒々しくなるのが自分でもわかる。


 本来なら、遺体は清めできうる限り綺麗な状態で遺族に届けるべきだ。そうでなくとも、ちゃんとした墓にでもいれて供養してやるべきなのだろう。


 自分には、そうするだけの力がある。銃を手にこちらを殺しに来る相手を一方的に制圧する異能がある。


 だが状況がそれを許さない。もはや十時間以上はこの迷宮に囚われているのではないか。邪神製の肉体だから体力の消費は少なくとも、タイムリミットが近付いている。一刻も早くこの迷宮を踏破し、魔瓦を殺し邪神に備えなければならない。


 理屈ではわかっているのだ。しょうがない事なのだと。だから手を緩める事はせず、立ち止まらずに走り続けている。


 それでも手足に残る感覚は消えない。先ほど人斬りの遺品を回収しておきながらこの体たらく。自分で自分が嫌になる。


 炎による加速と破壊を行いながら、前へ。落ちてくる天井をかち上げ、閉じる壁を切り開き、立ちはだかる人形どもを蹴散らしていく。


 そうして、ようやく、ようやく魔瓦に追いついた。


「あー……追いついちゃったかぁ」


 そうこちらを見て呟く魔瓦。顔色は青白く、僅かにだが呼吸も乱れている。


 一番奥にいる本体。そしてその周囲を囲うように浮遊する包帯でぐるぐる巻きにされた謎の物体が四つ。それらと自分の間に立ちはだかる三体のダミー。


「意味がないかもしれないけどさぁ」


 本体が、自分の周囲に浮かぶ物体に杖を突きつける。


「人質って言ったら止まってくれる?これ、中身その辺で捕まえてきた子供なんだけど」


「もう、死んでいる人間を人質に使えるとでも?」


「あ、わかっちゃう?やっぱ倉庫から出してきた材料の余りじゃ」


 言い終わるより先に地面を砕きながら踏み込めば、迎撃する為に三体のダミーが一斉射を行う。


 迫る三発の魔弾。人の頭ほどもあるそれらは砲弾も同義。一発、二発と避け、三発目を左手の甲で殴りつける。


 背後で起きた爆風で更に加速しながら、ダミーどもに迫る。一番手前のを斬り捨てると、そこでようやく接近戦に切り替えられたかのように杖から魔力で編んだ剣を出現させる。


 反応が遅くなっている。もはや、魔瓦も限界がきているのだ。いかに賢者の石が魔力の塊であり、魔法の補助をしようとも限度はある。


 二体目を杖ごと斬り捨て、退こうとした三体目の足首を掴み振り回してその辺に壁に頭から投げつける。


 一瞬たりとも減速せずに本体に迫ると、浮遊していた物体のうち三つがこちらに飛んでくる。速度は先のダミー達よりは速いが、その程度。


 浮遊物が轟音と共に爆発する。だが、それは既に読めている。剣から放った炎が爆炎ごと肉片に混じった鉄片を焼き尽くす。


 残る障害は奴の傍らに浮かぶ一つだけ。魔瓦も後退はしているが、余裕をもって追いつける。


 追いついて、首を刎ねる。


「これはまだ生きてるよ!」


 最後に盾として魔瓦の眼前に浮かんだそれは、彼女の言う通り命を感じ取れた。確かにあの包帯に包まれた物体には人が入っている。


 人質の背に杖を押し付けながら、魔瓦が魔力を込めるのがわかる。こちらの動きが止まった瞬間に諸共撃つつもりだ。


 ああ、確かにここで、人質の子供を『必要だから』と殺せば、自分は壊れる。


 握られていた剣が、右手からすり抜けて斜め後方に飛んでいく。魔瓦の視線が、一瞬だけそちらに逸れたそれた。


「抜刀」


 同時に、左手は右腰の短刀を握っている。


「『結椿』」


「かひゅっ」


 振りぬいた短刀。鍔もないそれの刀身には、『魔瓦迷子』とだけ己の血で刻まれている。霞の様に消えていく短刀を手放し、右手で腰後ろの鉈を引き抜く。


 杖を手放して、ズレそうになる首を押さえる魔瓦。それを捉えながら、鉈の峰に装着した小さな筒を発火。紅蓮の炎を吐き出すそれを加速に使いながら、コマのように回転して人質を避けて回り込み、魔瓦に接近。


 こちらを振り向いた奴の胸に、鉈を全力で叩き込んだ。


 埋め込まれた賢者の石を砕きながら、奴の胸に鉈が深々と突き立つ。根元からへし折れた刀身は未だ加速しながら魔瓦の体を背後の壁に衝突させる。


 壁にクレーターを作りながら叩きつけられた魔瓦が、血と瓦礫を散らばらせる。それに捉えながら、剣を遠隔起動。刀身から吐き出された炎を推進力にして手元に飛んできた柄を掴み、両手で持って振りかぶる。


 杖はない。石は破壊した。既に致命傷。奴に抵抗する術はない。


 獲った。


「けん、ざき……くん……?」


 金色の髪の隙間から覗く瞳はどこか眠たげで、血まみれの口から紡がれた言葉は気の抜けた声で。


 敵意も悪意も感じられない。ただ、不思議そうなその声は――。


「――おやすみなさい」


 剣を振りぬく。できうる限り、綺麗な太刀筋で放ったそれは切れかけの首に吸い込まれて行き、後ろ側の皮一枚を残して肉も骨も断っていく。


 振りぬいた後に、魔瓦の体が蒼の炎で燃えていく。同時に、迷宮が揺れ始め崩壊が始まった。


 残心。のちに剣を消し。木の葉のようにゆったりと舞いながら落ちてくる人質の詰められた包帯の塊を抱き留める。


 霞んでいく迷宮の中、一度だけ振り返る。ちょうど、炎が燃え尽き、炭化した何かが崩れ落ちる所だった。


 気が付けば、最初人斬りから襲撃を受けた場所に立っていた。星空が長い時間の経過を伝えてくる。


「なんで……」


 漏れ出た声が、知らぬうちに震えている。


「どうして、お前たちは殺せるんだ……!人を、命を、なんだと……!どうして……お前たちは、俺は……俺はぁ!」


 腕の中の子供が、もぞりと動いたのを感じ取る。慌てて包帯を慎重に引き千切れば、顔の皮がはがされた誰かが見える。


 魔力を流し込んで包帯だけ燃やしながら、指輪を消費して治療をする。数秒程で回復し、綺麗な手足をむき出しにした小学生程の少女が現れた。


 近くにあった無人の商店の中にそっと横たえると、少女が小さくうめき声をあげる。


 生きている。生きているのだ。


「……新城さん。聞こえるか」


 耳に着けた魔道具を起動すると、彼女の声が聞こえてくる。


『剣崎さん!?おっそいですよ!もう十一時ですよ!夜の!』


「すまない。手間取った」


『こっちはいいから中央のビルに!もう時間がありません!』


 魔道具越しに、銃声が聞こえてくる。バラバラなタイミングで、複数。彼女に託した使い魔達に銃を撃つ機能はない。つまり、彼女以外にもあちらには銃を使う誰かがいる。それも、恐らく味方ではない存在が。


「大丈夫なのか?」


『誰に言ってんですか!そんな死にそうな声の人に心配される筋合いはありませんよ!』


「ご、ごめん」


 商店を出ながら、中央のビルへと目を向ける。


『というか、なにまたうじうじと悩んでるんですか、面倒くさい!声でわかりますからね!一回一回悩まないと気が済まない人ですか、このバカ!』


「え、あ、これは」


『貴方は!……貴方は、人殺しかもしれません』


 喉から出かかった言葉がつっかえる。心臓に、ずるりとナイフを刺された様に、動きが止まる。


『ですが、私は貴方が間違っていたとは思いません。戦った人たちが死んで当然とは言いませんが、そうしなければならなかったとも思います』


「それ、は……」


『PTSDって言うのも存在すると頭では理解しているつもりです。ですが、後にしてください』


「……ああ、そうだな」


 そう、後にすべきだ。そう決めたはずだ。後悔も、悲しみも。それら全て、この馬鹿げた邪神の思惑を崩した後にするのだと。


『まあ、後で愚痴ぐらいならつきあってあげますよ。だから、まずは生きて、勝ちましょう』


「……ごめん」


『ああ!?そこはセリフが違いますよねぇ!?』


「ああ、うん……ありがとう」


『よし!けど言うのが遅い!こっちはゾンビと銃撃戦で忙しいんですよ!なんでゾンビのくせに銃使ってくるんですか!?』


「えー、ありがとう?」


『今言う事じゃない!?このおっちょこちょいさん!』


「すまん、今のはジョークだ」


 魔道具越しに呆れたような声が聞こえる。


『とにかく、こっちはこっちでどうにかします。だから』


「こっちは、任せろ」


『帰ったらお酒でも奢ってくださいよ?』


「ジュースならいいぞ未成年」


『もう少しかっこつけさせてくださいよ!……グッドラック、剣崎さん』


「ああ。そちらも武運を祈る」


 少しだけ笑った後、念話を切り中央のビルへと跳躍する。


 過ぎ去っていく景色の中、左腰に残ったもう一本の短刀に少しだけ視線を向ける。


『結椿』


 魔法使いに名前を教えれば呪われる。自分の場合、これがその魔法を成す魔道具。


 発動すれば対象との距離を『見立て』を用いて結合わせ、椿の様に音もなく首が落ちる。故に、結椿。


 魔法を扱う者なら、必ず『名前を知られている事による呪詛』への対策はしているものだ。だが、それを力技で引き裂く事も、魔法にはできる。


 ケルト神話に出てくるゲッシュを始め、いくつかの条件を付ける事でその力を高めるというのは魔法においてそれほど珍しい事ではない。この短刀も、材料に自分の血をふんだんに使った事以外に、三つの制約をつける事でその出力を上げている。


 一つ。対象のフルネームを刀身に刻む事。


 二つ。対象を視界内におさめている事。


 三つ。対象が自分の一部を身に着けている事。


 通常、『見立て』による呪いは対象の一部を術者が持ち、それを藁人形などに入れて呪うのだ。


 これは逆に相手に自分の一部を持たせる事で、『相手の傍に自分がいる』という『見立て』を発生させ、『ならば、刀を振れば首が切れる』という呪いを成立させる。


 そう、相手に自分の一部を持たせる必要があるのだ。魔瓦は賢者の石を含めたその魔力量で多少のレジストを行ったが、それでも骨に食い込むほどの傷を与えた。


 必要のない。そう、『必要のない事であるべき』思考を奥にしまい込み、接近してくる魔力に意識を戻す。


 広い道路の中央に降り立ち、空を見上げる。


 満点の星空の下、それは体をくねらせながらゆっくりと降りてくる。


 三角形の頭に、真っ黒な鱗。紅い目は夜の闇の中で怪しく輝き、口元にズラリと並んだ牙は一本一本がまるで槍の様に鋭く、大きい。


 二十メートル程の巨体をもつ蛇が、背に生えた一枚の羽をゆったりと動かしながら飛んでいる。対ですらないその羽では到底飛行どころか滑空もできないだろうに、随分とまた常識とは遠い存在が現れた物だ。


 更に、ビル周りの建物からヒタリヒタリと音をたてて異形どもが出てくる。


 白いぬらぬらとしたヒキガエルとでも言えばいいのか。その大きさは人を丸のみに出来るほど。


 ヒキガエルのような体つきながら、二本足で立ち手には黒い槍が握られていた。目にあたる器官は把握できず、鼻があるだろう場所には桃色の触手がうじゃうじゃと生えている。


 魔力の流れで分かる。これらはあの邪神が差し向けたものだ。よほど、あのビルには近づいてほしくないらしい。


 いいや、あの邪神の事だ。『歓迎は必要だろう?』とでも言うかもしれない。


 だが、よかった。


 見るからに怪物としか表現できない異形共。特に百を超えるヒキガエル擬き……確か『ムーンビースト』だったか?奴らからは、強い悪意を感じ取れる。


「躊躇なく、殺せる相手だと言うのなら」


 剣に魔力を流し込み、蒼の炎が刀身を包み込む。その光を怯えるかのようにムーンビースト達は後退り、推定『忌まわしき狩人』はガラガラヘビの様に尻尾を震わせている。


「周囲に巻き込んでしまう人もいないのなら」


 恐らく、こいつらがいるのは中央のビル周辺のみ。そして、辺りには人の気配は一切ない。先ほど治療した子供も、現在地はかなり遠い位置にいる。


「『この程度』、物の数には入らない」


 12月24日23時21分。神が定めた殺し合いの勝利者はここに立ち、神を撃ち落とすために進撃を開始する。


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