第27話 抗戦
第二十七話 抗戦
サイド 剣崎 蒼太
開幕の号砲が放たれる。どこから持ってきたのか、放たれる数々の迫撃砲。ロケット弾。魔力砲。
殺到するそれらの隙間を縫い、爆風を背にそれを利用して加速し跳びあがりながら距離を詰める。
空中で剣を振り回し、最大火力を解放する。空気を焼きながら迫る蒼に、地面から巨大な壁が二重三重と現れる。
厚さも高さも今までの比ではない。大津波でも防ぐかのように、炎が壁とぶつかり合う。
拮抗は二秒。それだけで三枚の大壁を焼き切り、融けた破片が赤く散る。だがその後ろにまでは届かない。空中にいるこちら目掛けて、触れれば焼ける破片を蹴って駆け上がる影が二十。
ただ真っすぐ駆け上がる者。弧を描くように上る者。鋭角な軌道をとる者。それら全てが同じ顔。しかしまったく異なる太刀筋で切りかかってくる。その様は容姿以外まったく別の剣士が殺しに来ているようだ。
返す刀で剣を振るい、炎で燃やしにかかる。いかに転生者と言えど、力を分散させた今ならば一瞬たりとも生存は許されない。
だが、剣士たちは自分の前を駆ける剣士を盾とし、それでも耐えられぬならまた別の剣士がそれらを盾にする。
炎の包囲を突き抜けて、四人の剣士が肉薄する。四方から放たれる斬撃。五体満足とはお世辞にも言えないだろうに、あまりにも流麗な太刀筋。その内二本を持ち手諸共焼き潰し、一本を回避。残った一本を兜で受ける。
第六感覚が警報。しかし他に回避する術はない。
兜を滑る様に振るわれた剣が、紙でも切ったかのように防御をすり抜けてその下にある顔を裂く。左の視界が消え失せた。焼ける様な痛みから左の額から頬にかけてを斬られたのだと察する。
だが紙の防御でも、紙一枚で救われる命もある。
「おおおおおお!」
痛みを忘れるための咆哮と共に左の拳を剣士の腹へと叩き込み、遠い壁まで殴り飛ばす。
超速で再生が始まる左目。だがそれよりも下から速く砲弾が襲ってくる。炎による回避も防御も不可。
真下に向かって障壁を集中展開。新城さんに渡した物とは違い自分が装備しているのは任意発動型。その分強度もあるし無理も効く。
流石に砲弾までは想定していなかったけどな!
四発の砲弾が直撃コース。それらがほぼ同時に障壁に衝突。凄まじい轟音と衝撃を至近距離で浴びせられ、衝撃と破片が全身に打ち付けられる。おそらく対装甲車両用の榴弾。いかにこの身が頑強とは言え、障壁越しでも激痛で一瞬意識が飛んだ。
「がっ……!」
打ち上げられた体が、天井に叩き込まれる。石の様な素材で出来たそれにめり込んだ体を引き抜くよりも先に、銃弾が大量に叩き込まれる。
今更この距離で放たれた銃弾など無意味。本命は――っ!
「撃てっ!」
どこからか聞こえたその声と共に、放たれる四つの光弾。それが音速を越えて自分に迫るのが見えた。
爆発と共に、天井から大小さまざまな瓦礫が落ちていく。
舞い上がった粉塵と煙の中を、蒼い炎が照らしだした。
「化け物め……!」
お前が言うな。
鎧と肉体を再生させ、天井を蹴りつけながら剣を下に向かって振り下ろす。それに従い、特大の火柱が人斬りを、人形どもを、魔瓦を蹂躙しようと床を這う。
すぐさま火柱を囲むように壁が形成されていくが、既に三十は巻き込んだ。その上で、熱線を凝縮。一筋の光線へと変えて、一閃、二閃と振るっていく。
天上が、壁が、床が、幾筋にも切り裂かれる。当然その中には人形や人斬りも含まれ、巻き込まれて焼かれていく。直接触れずとも、光線の数メートル以内にいれば体が発火し、銃火器は融けて炸裂していく。
光線が熱線へと戻り、ただ自分の周囲を舞うだけのそれに変わるまでほんの二、三秒。それだけで東京ドーム程も広さがあった空間がいくつものに焼き切られている。
「攻撃を緩めるな!」
「奴に炎を使わせ続けろ!」
それぞれ叫びながら、こちらへと高速で突撃する三体の魔瓦。その背後から残りの一体が光弾を放ってくる。
威力、速度。全てにおいて前に見た物とはケタが違う。だが、それでも。
「邪魔だ」
一発を空中で体を捻って避け、二発目を左の裏拳で殴って逸らす。背後でまた崩れていく天井を背に、体勢を整え視線を巡らせる。
中、遠距離では埒が明かないと見たか、三体の魔瓦が回避も考えずに接近してくる。もはやダミーと隠す気もなしか。
随分と様変わりした杖の先端に黒紫の刀身を生み出し、三方から斬りかかってくる。いや、『一体だけ違う』!?
第六感覚と魔道具が、一体だけ異様な脅威を感じ取る。
他二体を無視。違和感を覚えた一体に全力の炎を叩き込む。案の定、その一体だけ焼け焦げる直前に姿を人斬りへと戻す。
では残り一体の魔瓦擬きはどこに?
砕け、瓦礫を落とす天井から、黒紫の影が突っ込んでくる。杖を突撃槍の様に構え、先端には他の個体同様に魔力で編んだ剣。
一手使わされた状態で、三方同時に斬りかかられる。
「堕ちろ!」
瓦礫が重力に引かれて床へと落ちるよりも速く、敢行された波状攻撃。
だが、それでも。
「遅い」
向けられたこちらの背に斬りかかる先の二体を振り向きざまに首を刎ねながら燃やし、左手を上に。突き込まれる魔力の切っ先を掴み取る。
踏ん張りの効かない体は当然地面に高速で叩きつけられ――両の足で床を踏み砕きながら着地した。
「なっ」
驚きの声をあげる魔瓦の刃を握りつぶし、右手の剣を上に振るう。顔を断ち、一瞬で全身を焦がしつくす。
問題はこの後。地面に立った自分は、当然奴の斬撃の有効射程内。
土煙を突き破って現れる十四の人斬り。相も変わらずまったく違う型でもって振るわれる刃。たった一人で剣士の群れを成している。
人外のそれらとまともに戦うつもりなど毛頭ない。上に振り上げたままの刀身に魔力をあえて乱しながら注ぎ込む。
まともに炎を放出できず、ただ一瞬だけ光り輝く刀身。それだけで斬りかかって来た人斬り共の目を焼き潰す即席の閃光弾となる。
それでなお、音と匂いだけで踏み込んでくる人斬り。だが、それならばこちらの方が速い。
剣を引き戻し、円を描くように周囲へと振るってみせる。鍔競り合えばこちらの刀身が切られかねない。炎でもって焼き殺す。
いかに人を越えた剣技をもとうと、形なき物までは切れはしない。一息に十四の焼死体を作り出す。
炎の壁が晴れると、つかの間の空白が生まれた。
敵戦力。人斬りが二十一。人形が七。魔瓦の分身が一残存。
こちら。五体満足。魔力残量七割前後。装備の損傷は軽微。
勝てる戦いだ。だが、今何時だ?この戦いにおいて時間はあちらの味方。迷宮内に取り込まれたのが午前九時。無限に広がるのかと錯覚するこの迷宮内を走り回り、壊して進み、戦闘を繰り返す。それがどれだけかかったのかがわからない。
空も見えず、外部との通信も断たれたこの迷宮は時間感覚を狂わせてくる。第六感覚と魔道具のおかげで、方向感覚までは失わずに済んでいるが。
「「きっついなぁ……」」
不本意にも、魔瓦と同じ言葉を、同じタイミングで呟いた。
* * *
サイド 新城 明里
「うーん……」
剣崎さんからの連絡を待ちながら、スマホを見る。時刻は既に午後九時を回り、夜のとばりに包まれている。
運転席の窓から眺める空は綺麗な星々が照らしており、雲一つない。きっとこんな事が無ければホワイトクリスマスでない事を嘆いていたのだろう。この分だと明日も晴れだし。
ただまあ、そもそも明日があるのかという話しでもある。
邪神の召喚。きっとひと月前の自分に伝えたところで、『ラノベ乙』と笑ったに違いない。剣崎さんはじめ、金原さんやらアバドンやらぶっとんだ存在を『この目』で見ていなければ、信じられるわけがなかった。
我ながら、なんとも濃い七日間だったと思う。一日目でビヤーキーから剣崎さんに助けてもらい、万国ビックリ人間大集合の頂上決戦みたいなのに関わって。本来なら何回死んでいた事か。
だが、それに充足感を覚えている自分もいる。
友達はいなくはないが、どこか馴染めない日常。そんな中に現れたこの刺激的すぎた劇物じみた日々は、なんとも麻薬的な感覚を及ぼしたものだ。これ、もう今までの日常に戻れるのだろうか?
まあ、その心配も今日をどうにかしなければ無意味なものなのだろうが。
「よしっ」
ハンドルを強く握り、小さく掛け声をあげる。剣崎さんとの作戦で、この時間まで連絡がなく、かつ渡された魔道具に反応もなければこちらも動くと決めていた。
装備は万全。メインウエポンのショットガンを含め、剣崎さんに強化してもらった物もある。ついでに言えば、荷台に積んだ『アレ』もある。
現在地は『埼玉県』。東京都と接している人気のない森の中。お父さんがいざという時の避難ルートとして教えてくれた隠れ道だ。まさかこうしてお世話になる時がこようとは。
アバドンの被害で放置されっぱなしのトラックを拝借したわけだが、持ち主には正直申し訳ない。だが、世界が滅ぶか否かなので、勘弁願いたい。一応私の痕跡が残らないよう注意はしてあるけど、世界を救った後檻の中はいやだなぁ。
まあこのトラックは『ぶっ壊す』前提だからいいか!
キーを捻り、入れっぱなしにされていたCDが流れ出す。少し前に流行ったアニソンだったか?トラックの運ちゃんには珍しい。元の運転手とは話しが合いそうだ。
「いっくかぁ!」
アクセルを踏み込んで、碌に整備されていない道を進みだす。
いざいざゆかん!人類の命運をかけた大戦!これで胸が高鳴らなかったら日本人じゃない!
「突貫!」
気分はたった一人の奇兵隊。だが、友軍は別所にて戦闘中。ならば、こちらも戦果をあげずに何とする!
12月24日21時14分。新城明里。魔法陣の破壊に向け前進開始。
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