第5話 わたげ
するとあの猫がやってきた。俺はその猫の頭の傷が目に留まった。
(あっ、もしかして。あの時の…?)
俺の中の記憶がよみがえってきた。
(俺がまだ2歳か3歳の時だったと思う。その時俺はまだ、動物が好きだった。そのころよく庭に遊びに来る子猫がいたんだ。だから俺は毎日そいつと猫じゃらしで遊んだり追いかけっこしたりして遊んでいたんだ。その時は、毎日ほんとに楽しかったな。
あの日もいつものように猫じゃらしで遊んでいた。俺が猫じゃらしを大きく振り回していたら、その子猫が猫じゃらしを追いかけようとしてブロック塀に衝突してしまったんだ。小さい猫からは想像できないくらい赤い血がたくさん流れて、猫はピクリとも動かなくなった。その時の俺は、怖くて怖くて頭が真っ白になってしばらく動けなかったのを覚えている。その後どうしたのかは記憶にないがあの時の猫に違いない。名前は、、、。名前は、、、わたげ。そうだわたげだ!)
この瞬間俺の記憶が現在に戻った。
「どうしたの?さっきから何回呼んでも気づいてくれないんだもん。何か考え事してたの?」
「うん、、、。もしかして、もしかしてなんだけど。君の名前はわたげ?わたげなの??」
「れんと君、、、、。思い出したんだね。そうだよ、わたげだよ!」
「俺はあの時、怖くなってわたげを置いて逃げ出してしまった。本当にごめん。今思い出したんだけど、あの時から、また動物を傷つけてしまうのが怖くて動物を触るのが怖くなって、、、。」
「ううん。こっちこそ怖い思いをさせてごめんね。れんと君は覚えていないと思うけど、あの後れんと君のお母さんが泣いて戻ってきたれんと君を不思議に思って、お庭にいる私を見つけてくれて、動物病院に連れて行ってくれたんだ。私はあの頃みたいにまた、れんと君が動物たちと仲良く遊べるようになってほしいなって思ってここに呼んだっていうのが大きな理由でもあったんだ。私のせいでれんと君が、本当は好きなはずの動物を嫌いって言っているのが辛くてさ…。」
「わたげ、ありがとう。ここに連れてきてくれてありがとう。俺、ここにきて本当に良かった。わたげの事思い出せたし、俺が動物好きだったことも全部思い出せた。それに、動物たちが今どんなに大変な状況に陥っているかどうかも教えてくれた。感謝してもしきれないね。ところで、わたげは今までどうしてたの?」
「動物病院で手術を受けて、れんと君のお母さんが里親を探してくれて今は、違う家庭で幸せに暮らしているよ。意外とれんと君の身近なところにいるかもよ♪」
「え?まじで!外の世界でもまた会えるんだよな?どこにいるか教えてくれないの?」
「もちろん、外の世界でも会えるよ。でもね、ここの世界の決まりでどこにいるかは教える事ができないんだ。でもねでもね!今までに私、れんと君のこと見かけたこと何回もあるから注意して過ごしてたらきっとまた会えるって!その時は私の言っている事分からなくなっちゃうけどね。」
「そっか。でも今度会ったら絶対わたげだって気づくから!それにもう言葉がわからなくても、きっと大丈夫!前みたいにお互い気持ちが通じ合えると思う。僕がまたここに来ることはできないの?」
「うん、ここに来れるのは一回だけなんだ。
それにね、条件もあるんだ。僕達動物を助けてくれる見込みがある人。これから動物と関わる事がある人。だかられんと君のクラスで鳥を買うことになったこのタイミングでこの世界に呼んだんだ。なっちゃんは動物の事が本当に本当に大好きなんだよ。それに、環境問題にも心を痛めていて、人間が動物のために何ができるかを考えているみたいだよ。だから、これからもっとなっちゃんと仲良くしてあげてね!きっと今のれんと君なら話が合うんじゃないかな?」
「え、俺あんまあいつと話したことないんだけど…。でも今度話しかけてみることにするよ。」
「うん、そうして!ってもうこんな時間!
大事なことを言うの忘れてた。この世界にいる事ができるのが三時間って決まっていて、それを過ぎるとれんと君は動物の姿になって一生出られなくなっちゃう!はやくこっち来て!」
「は?動物??動物は好きになったけど、一生動物は嫌だよ!」
僕とわたげはれさ、こんた、しろにばいばいと手を振って、来た道を全速力で走った。
「さあ、はあはあ、はやくはやく!」
と息のきれたわたげがおれの背中を押す。
「うん、はあはあ、今日はありがとう。じゃあね!」
僕は急いでトンネルをくぐった。後ろを向いても、もうトンネルはない。ふと時計を見ると時計の針は四時五分を指している。俺は公園の草陰から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます