合谷

えくれあ♡

第1章 恋なんて……

第1話 新世界と少女

 彼女の朝はなぜか「ドヴォルザーク交響曲第9番『新世界より』第4楽章」 の旋律と共に始まる。


 時刻は6時。


「んあ……」


 スマホから流れるドヴォルザークを止め、ゆっくりとベッドから起き上がる。特に寝起きは悪くなさそうだ。


「とーうっ!」


 2月にしては暖かい日が続いていた。僅かに残る眠気も、ちべたい水道水での洗顔で洗い流し、クリアクリーンで歯を磨いてスッキリ。自室へ戻る。


 『ディープマリンブルー』で統一された部屋。その真ん中のテーブルの上に置かれたルービックキューブ。


 彼女はそれに手を伸ばす。


「よーい、スタートっ!」


 カシャカシャ、カシャカシャ


 早朝の静かな空気の中に響く、キューブをかき混ぜる音。ものの1分ほどで6面を揃え終えると、またぐちゃぐちゃにしてテーブルの上に戻した。


「よし!」


 次に、部屋の片隅にある足付きの将棋盤をやや部屋の中心に移動させ、盤の上に置かれた駒箱をパカっと開けて、駒をジャラっと盤の上に広げる。


  ぎょくきんぎんけいきょうかく……

 

 パチン、パチンッ!


 駒音が脳を目覚めさせる。


 すべてを並べ終えると、ふぅっと息を吐きテレビをつける。お次はめざましテレビでニュースを聞きながら20分程ストレッチ。


 血流が増し、体が目覚めていく。


「今日もよきよき」


 彼女の名前は『渕山ぶちやま美化みけ

 超キュートな高2の17歳セブンティーン。(自称)


 父は3年前に他界。母の実家に母と祖母の3人で楽しく暮らしている。


 ルービックキューブも将棋も父の趣味だった。父が楽しそうにそれらに触れているのを見て自然と興味を持ち、美化が物心つく頃には自然と生活の一部となっていた。


 今では、どちらも大好きだった父を感じられる大切な宝物。


 モーニングルーティーンを終え、自室のある2階から食卓のある1階へと美化みけは降りていった。

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