第76話 シャルロット

月日は一ヶ月が経ち今日は新設された騎士魔法学園の入学初日だ。


俺はベルの協力の元、何とか試験勉強を乗り越えて入学できた。

なんと休憩スキルの効果は記憶力にも影響があった。

なんかズルしてる気分だが期間も短いため存分に活用させてもらった。

今でもベルの呆れた顔は忘れない…

そして実技試験は手加減しまくった。

正直、俺のスキルレベルは規格外だ。

こんな所で悪目立ちしてマリアに会えなくなるのは避けたい。

なるべく水魔法と格闘術だけで穏便に済ませた。




そして今、俺は自分のクラスに向かうため廊下を歩いている。



「お、お兄様!」



よく知る人物の声が聞こえてきた。

見なくても誰か分かる。



「同じクラスですね!

 これは運命と言わざるを得ません」



「アリスも一緒なのか、

 確かにそれは心強い」



規格外の俺が普通に通っているのは違和感があるためアリスが同じクラスで助かった。



「この学園でも女共からお守りしますわ」



そう言いながらアリスは番犬のように通りすがりの女子達を威嚇する。



「入学初日から変なことは止めてくれ」



アリスの頭をチョップした後、廊下を歩き続ける。

すると偶然想い人とすれ違い心臓が飛び跳ねた。




「お、おはよう、マリア」



「クリス、おはよう」




この間の件があっても変わらずに、

マリアは笑顔を見せている。



「クリスも入学おめでとう、

 ようやく同じ学園に通えて嬉しいです」



「俺もだよ…

 マリアのおかげで入学できた」



マリアはその言葉に変わらず笑顔を見せるが、お互いに少し気まずい空気が流れる。



「クリス、私…」



「もうすぐ時間だから行くわよ!」



マリアが何かを話そうとしたが隣にいたシャルロット殿下がマリアを急かしていく。

確かに朝礼が開始してしまう時間だ。



「アンタ、後で屋上に来なさい…

 そうね、放課後が良いわ…」



去り際にシャルロット殿下が呟いていく。

その表情は若干呆れているようだった。




そして俺とアリスはクラスに入るとベルが席に座っているのを確認する。




「ベルも同じか、

 もしかすると運命かもな」




「な!お兄様!」




俺はアリスを揶揄いながら席につく。

ベルは意味が分からず頭をかしげていた。




しばらくすると教官が入って授業が始まっていったが、俺はマリアのことが頭から離れず話半分で授業を聞いていた。




そして時は早くも過ぎていき放課後になり、

屋上にてシャルロット殿下と対峙する。




「アンタ、私の妹を泣かせたわね」



「あの、それは…

 そうですね」



殿下の視線が痛い。

でも、怒ってはいないようだ。



「今すぐに焼き殺したいけど、

 我慢してあげる」



「そ、それはどうも、

 ありがとうございます」



殿下は呆れた表情で俺に話していく。



「キャロルから聞いたわよ、

 セシルのこと」



「襲撃していなかったんですね、

 セシルは」



すると殿下は考えた素振りを見せながら俺に問いかけてくる。



「アンタは過去に遡ったと聞いたけど、

 その前はセシルが襲ってきたって事?」




「はい、キャロルさんも死にそうに、

 そして殿下も…」



「まあ、

 そんな事だろうと思ったわ」



殿下は俺の言葉を信じて頷いた。



「極秘裏に進めていることだから、

 秘密にしてほしいけど、

 セシルは間違いなく、クロよ」




やはりセシルはこの時代でも変わらずに悪意に満ちている。

裏で暗躍しているのか。



「襲ってきた敵を倒しても、

 全く無くならないのよ」



「何がですか?」



「子供の誘拐が」



そういえばそんなこともあった。

確か陛下は、宮廷魔術師を向かわせて解決させたと言っていた気がする。



「それで部下に追わせてたの、

 良い固有スキル持ちがいたからね」



「なるほど、それで追跡していると」



「でも、やられてしまったわ」



「え?」



少し辛そうな顔を見せる。

それだけに部下の容態が気になる…



「探知のスキルもない。

 もう奴を追う事はできないわ」



「あの…

 持ってるんですけど…探知」



「な、なんですって!」



その後、どうやって探知を取得したのか根掘り葉掘り聞かれた。

しかし賢者に魔力を送り休憩スキルで取得しましたなんて言えない…



「はぁ…はぁ…

 アンタも中々強情ね」



「はぁ…はぁ…

 そりゃあ、どうも」



そして殿下は一呼吸して俺に呟いた…



「マリア、反省してたわよ

 アンタに言い過ぎたって」



「え?」



何でマリアが…

と言うよりも状況的に婚約者に告白もせずに女作って帰ってきてるのは俺だぞ…



「マリアも一度話したいんだってさ、

 しっかりと誤解を解くのよ」



「シャルロット殿下…」



俺はシャルロット殿下に足を向けて寝れない

やはり妹思いの優しいお姉さんなんだな…



「あ!でも陛下にちゃんと説明するのよ…

 処刑撤回を考え直すって言ってたから」



「は?」



俺はきっと顔が青くなっているだろう。

簡単に変えてルミナスの法律大丈夫か…



「マリアを溺愛してるからね…

 陛下は…」



「まあ確かにあんだけ可愛い娘がいたら、

 その気持ちも分からなくもないです…」



するとシャルロットはジト目になり俺に言い放った。



「その可愛い妹と破断になったら、

 次は私なんだからね」



俺はルミナスのしきたりを忘れていた。

覇王を生み出すために繰り返してきた歴史。

そのことを殿下は言っている。



「わ、忘れてませんよ」



「勘弁してよね…

 マリアと上手くいかなくて、

 アンタとその、あの…」



シャルロットはいきなり顔を赤くして、

しどろもどろになっている。



「シャルロット様?」



「う、うるさい!」



するとすぐさま後ろを振り向き、

俺に言い放った。



「と、とにかくマリアと仲直りしなさい、

 じゃないと焼き殺す!」



「わ、わかりましたよ〜」




そして俺たちはそれぞれの家路に向かった。

明日は予定外だが陛下に呼ばれている。

気を重くしながらも俺は帰宅していくのであった…

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