第21話 差し伸べる手
リーナに用意してもらった紅茶を飲みながら本をめくる。
部屋の窓から入り込む風がカーテンを揺らす。
今日はとても気持ちの良い日だ。
私室でゆっくりしながらベルが起きるのを待つ。
「ん…」
「起きたか?」
「はい」
「あの、クリス様、本当に
本当にありがとうございました…
あの、サーシャやみんなは?」
里のために死に物狂いで戦ったのだ。
捕らえられていた者たちがどうなったのか気になるだろう。
「牢に閉じ込められていた人は
全員保護されたよ」
「そう、ですか…」
親友や仲間が無事だと知り安堵したのか、
力が抜けて自然と目を潤ませる。
「あれから王国騎士団も来たからね…」
「あの、クリス様……
本当にありがとうございます…
一生かけて恩返ししたいです…」
クリスによって与えられた力。
それによって救えた親友や里の仲間。
クリスへの恩返しと尊敬の念は抑えきれないものへと変わっていた。
「そんな気にしなくても…」
俺は当たり前のことをしたし、
勝手に俺が介入したと思っている。
見捨てられないからな。
「だ、ダメです、私だけでなく、
里の皆んなを助けて下さったのです!
私だけが与えられてばかりでダメです…」
顔を赤くしながら俺に訴えかけてくる…
先程の涙で涙腺が緩んでいたのか、
俺への感謝の思いを口にしながら更に泣いている。
それだけ俺はベルにとって大きな事をしたということか…
「そしたら父上に会いに行こう…
ベルの今後で話したい事もあるようだし」
そう言って俺はベルに向けて手を広げる。
立ち上がることは難しいと思うから手を貸そうと思ったのだ。
驚いたベルは違った意味で頬を染める…
まるで茹でダコのように赤くしながら俺の手を取った。
そしてベルを私室のベットから起き上がらせたところで、手は自然と離れていく。
「ぁっ」
少し声が聞こえた気がした…
「ん?何?」
「な、な、な何でもないです…」
変なやつだなと思いながら俺は歩いていく。
俺はくすくすと笑いながらベルに一声かける。
「転ぶなよー」
あ〜、言ってるそばから転んだ。
全く目の離せないやつだな。
ほらっ!
もう、少しだけ手を貸してやるか…
そして俺達は父上の私室へ向かっていった。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
「キミが、白狼族のベルか…」
「はい、ベルと申します…」
「今回は騎士団の取り締まりが甘く、
迷惑をかけたな…
本当にすまなかった…」
「いえ、男爵様が悪いわけでは…」
「まあ、これでも王国騎士団の中枢を担う
役職にあるからな…」
ゲイルの立場は、王国騎士団の幹部である。
白狼族の件はそれなりに責任があるのだ。
王国騎士団が後手に回ってしまったのには別の理由があるが、今は口には出していない。
「ところでベルよ…」
「はい…」
「其方のスキルは魔力を消費し続ける剣、
クリスからは聞いたが、
お前には魔力はない、違うか?」
先日の圧倒的な力は、クリスの魔力を与えられてこその力だった。
つまり言い換えればベル一人では使えないスキルなのだ。
「その通りでございます…」
「それならば我が家の使用人に空きがある…
働きながら魔法学園を目指すか?
当然だが給金から学費は差し引くがな」
「へ?」
あまりに急な申し出にベルは頭が空っぽになってしまい全く理解が出来ないでいる。
「あはは、ベル…
レガードの使用人になるかって事だよ」
「良いのですか?
私は身寄りのない、しかも獣人です…
皆様にご迷惑なのでは」
「確かにな、普通の貴族ならばだな…
我々は剣に生きるレガード家だ…
王と名前の付くスキル保有者を
邪険には出来ないのだよ…」
獣王剣の秘密を解明することはレガード家にとっても利益になる。
当主として同情だけで行動しない。
ゲイルも貴族である。
実力のある者を引き込むのも派閥争いとしては大切なことだ。
行動の裏には打算があるのだ。
「よろしければ是非、一生をかけて皆様に
クリス様に恩返しをさせてください…」
深々とおじきをするベル…
白狼族は忠誠心の強い種族だ。
レガードのために、クリスのために命をかけると誓う。
今日、正式にレガード家に一人の使用人が
誕生したのだった…
「教育係はリーナとする
これからはリーナに色々と聞きなさい」
そう言い残しゲイルは去っていった。
ベルもリーナに引き連れられて、
今後の身支度を始めていく。
そして俺は、父の私室から庭に移動した。
日課である自主練を終えて1日1回限りの休憩スキルを使ってみることにする。
恐らく例のスキルを獲得しているはずだ…
名前:クリス・レガード Lv.12
MP:300
取得スキル:
休憩 Lv.1
獣王剣Lv.5 ←new
取得魔法:火魔法Lv.2
回復魔法Lv.2
獣王剣、やはり獲得していたか。
獲得は予測していたがまさかレベル5とは…
獣王剣、今使ったら俺の身体はどのように変化するのだろうか…
ベルのように成人の身体になるのだろうか?
今すぐに使ってみたいが人間の俺が使うと反動があるかもしれない。
出来れば休憩を使える状態で試したい。
明日マリア様にも相談してみよう。
ちょうど明日がマリア様との訓練の日だ…
早く明日が待ち遠しい…
明日は素晴らしい一日になる。
そんな気がしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます