第3話 クリス・レガード

少しずつ意識が覚醒していく。

俺を呼ぶ甲高い声が聞こえたが頭痛に悩まされ声を出せない。

しばらく経ってから徐々に痛みも引いた。



そうか…

俺は転生したんだ。

俺の名前は確か…



「クリス様、クリス様」



俺を呼ぶ声が聞こえる。

先ほどよりも年上の優しい女性の声。

黒髪短髪のメイド、リーナだ。

歳は20代前半で物静かな性格をしている。



「……リーナか」



「はい!お身体はいかがですか?」



俺は父上、妹と共に訓練場で剣術の訓練をしていた。

なんと妹のアリスとの勝負に負けたのだ。

本気の剣撃を頭に受けて気絶してしまった。



「ア、アリス様をお呼びしますか?」



「いや、少し待ってほしい

 まだ頭痛が酷いんだ

 アリスの声は少し響く」



先程の声は恐らくアリスだ。

申し訳無いが妹に完敗してしまったため、

今は1人で放っておいて欲しい。

現実逃避がしたいのだ。



「冷やすための氷を、

 お持ちしますね」



そう言って、部屋を出るリーナ。

少し落ち着きたい。

鏡の前に立って自分を見て改めて驚愕する。

俺は男だよな?

この顔、どう見ても女だぞ。

長髪とまではいかない銀髪に赤目をしている。



「あ〜少しずつ思い出してきた」



俺の名前はクリス・レガード。

レガード家は伝説の剣士が起こした貴族。

平民だがドラゴンを退治し剣聖の称号を授勲された。

そんなレガード家は剣が全ての家系で、

産まれた頃より剣に生き剣に死ぬ。

過酷な訓練を行い剣の血筋を残していくのがレガード家当主の使命と言われている。

そして当主である父上から俺は過酷な訓練を受けてきた。



「人一倍努力してきたんだけどな」



俺は幼少から死ぬ気で努力してきた。

しかし妹のアリスはとてつもない才能を秘めており瞬く間に追い越してしまいそうだった。

そして父上が俺たち兄妹の模擬戦を指示した事で悲劇が生まれてしまう。

ついにアリスの圧倒的な才能に手も足も出ず負けてしまったのだ。



「クリス様、まだ立ってはなりません」



リーナが戻ってきたようだ。



「綺麗な顔は全く傷が付いておりません、

 ですから、ゆっくり休んでください」



リーナはいつも良くしてくれる。

生まれて今に至るまで俺の専属メイドだ。

通常12歳でスキル鑑定の儀式を受けられ、

剣術スキルを出すかで人生が決まる。

スキルが開眼すれば訓練でどうにか上げられるが、レベル0から上がった事例は殆どない。


そして明後日、アリスと一緒に儀式を受ける予定のため、我が家は緊張感で張り詰めていた。



「リーナ、明後日って正装だよね?」



「お二人の準備は、全て終わってます。

 後は、体調を整えて頂ければ大丈夫です」



使用人達もこの日のために準備を尽くす。

レガード家の将来を決める一大イベント。

そう言えば転生前の女神がチートスキルを渡してくれると言っていた。

きっと素晴らしいスキルだと信じたいが女神の言ったことを信じられない自分がいる。

なぜだろう、すごく嫌な予感がする。



「分かった

 もう少しだけ眠ることにするよ」



アリスもまだ来ていない。

明日の朝には厳しい訓練があるため、

今はゆっくり眠ろう…



「クリス様、必ず良い結果と信じています。

 もし結果が悪くても私は………」



リーナの声を最後まで聞き取れず、

俺は夢の世界に旅立った。

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