第3話 進学(3)


「お前だって、たまたま運が良かったから小野内家に引き取られただけじゃないか!」


天人の視た未来が現実になったとき、空気が一変した。ただでさえ静かに呼吸することさえも遠慮して固まっていた俺たちの体がさらに冷えていく。花奏に言われて、驚いて表情を少しも変えない優一郎さんの周りに、嫌な感覚が巻きつく。花奏も自分が言った言葉の後に、後悔したように口元を押さえた。

「あ、いや、これはその………」と口籠るが、もう遅い。次の瞬間、優一郎は高らかに笑い声を上げた。小さな準備室に、恐怖で包まれた笑い声が広がる。

しかし、


「ちょっと落ち着け、優一郎。ここは私のテリトリーだよ。勝手に暴れるなと何度言わせたらわかるんだ。いや、これで二回目か?……ああ、もう、いいや。ちょっとこっち来なさい」


征爾が背後から首筋に打撃を与えたことによって気を失った優一郎はズルズルと引きずられて準備室のさらに向こう側へ、なんだか怪しい扉の向こう側へ連れて行かれた。残された五人はようやく呼吸することを思い出す。

な、なんだったんだよ………今の……。てか、優一郎さんってやっぱり危ないやつじゃねーかよ。なんでそんな人がこの学校に普通に通ってるんだよ…………。つーか、陰陽師って複雑すぎだろ…………。

暫くしてから、笑顔満点な征爾と、襟首を掴まれたまま仏頂面でこちらを向こうとしない優一郎が帰ってきた。

征爾は晴れた笑顔でいつも通りいう。


「さぁ。君たちの知りたいことを話そうか」




+++



「えーと何が知りたいんだっけ? ああ、そうだそうだ。“授業別対抗競技”のことだっけ?それねぇ、別に私が思案したことじゃないから詳しい理由は知らないんだけど、皆も知っての通り南高校は授業を希望生で取っているでしょう? それでも同じ授業を受けている生徒は、学年問わず枠のない無限性。つまり、顔も名前も知らなかった学生同士が同じ教室で授業を受けているってことなんだよ。さて、そうなったときに一番困ることはなんでしょう? はい、花奏くん!」

「え、ええと…………コミュニケーション……でしょうか? 試験範囲の教え合いや、ノートの取り方、実験などではチームワークが必要となりますからその際のコミュニケーションといったところでしょうか………」

「ザッツラーイト! その通り。まさに模範的な回答だね。さすが、この二年間独りで学んできたことだけある。君自身も何度もその壁にぶち当たってきたのだろう?」


「……………」


「つまりだ、君たちはコミュニケーション能力が足りない。それでは、学生生活というものを満喫できないし、ましては成績をあげようにも一人じゃ限界がある」

確かに、と天人は頷く。

「そこで、理事長はこう考えたんだよ。この年に一回の大行事、南高校体育祭を生かして、仲間と助け合うことの大切さを学び、さらに一歩人間として成長するということを。それは多くの先生方の賛同を得た。クラス対抗競技、学年対抗競技、部活対抗競技と、南高校にはたくさんの対抗戦があるけどね、それはすべて意味の持って行っていることなんだよ。この授業対抗競技もそのうちの一つさ。ああ、それと、そのチーム分けなんだけどね、それぞれ学生達が取っている授業の中で、その学生の一番成績が良い授業のところにチーム配分が渡っている」

ということは、俺は自分で言わずもがな、俺の一番成績の良い授業は陰陽道である。テストもそうだが、授業が堅苦しくなくて楽なのでどの教科よりも成績が取りやすい。天人は七人の顔を見た。

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