僕らが辿った一つの軌跡-弐-(旧;始の鐘)
@nokal
プロローグ
いつの日か、私は自分のことを話さなくなった。
誰かにわかってほしいと思わなくなったのかもしれない。
「……くん……」
自分のそばで倒れるその者の名を呼んで、心の奥が苦しくなった。
「……ちゃん……」
自分のそばで倒れるその者の名を呼んで、後悔が押し寄せてきた。
「みんな……みんな……」
地面に倒れ込む人の数は数知れない。
否、数えたくないし見たくもない。
ただただこの光景を目に焼き付けて恨むばかりだ。
望んでこんな未来を選んだわけじゃない。何もしないから変わらなかった。
何もしないから、覧たものと変わらなかった。
只それだけの事。
私はゆっくりと立ち上がった。
地面に転がる人を踏まない様に、その身体から流れる血を踏まない様に重たい足を動かす。
「……もしも……もしも誰かに話せたら、こんな未来にはならなかったのかな……。私が、間違ってたのかな……」
今、私だけしかいないこの世界で、何を願おう。
「……−−」
不意に誰かが自分の名を呼んだ。
声のした方を振り返ると、あの人はこちらをまっすぐ見て立っていた。綺麗な着物は汚れて、綺麗な髪も汚れて、自慢のボッロボロな草履は跡形もなく消えている。
私はその人の声に惹かれる様に歩いた。
「ねぇ……どうすればいい?……私は、私は……」
ふっとその人の優しい手の平が頭に乗った。そして包み込む様に私の頭を撫でた。
そのあまりの暖かさに私の目からは大粒の涙が溢れた。
溢れて、溢れて、止まらなくて。
「てめぇはまだ、やり直せる」
「………え?」
顔を上げて、その人の双眼を見つめた。
その人は、つり上がった目尻を下げて口角を上げて八重歯を見せて、笑った。
「別の未来で、また会おう」
今度こそ、誰も失わない未来を……………。
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