第5戦 様銀二と樹里菜

 起きたら家の筈が部室だった。


 はて、寝ぼけてここに来たのだろうか?


 「あ、起きた。」


 「樹里菜先輩、僕寝ぼけてました?」


 「部長が連れて来てくれたんだよ。」


 「え? 部長が?」


 「全く、無茶するんですから。」


 「部長? あれ? お身体が……?」


 「お陰様で治りましたよ。

 まったく、死ぬ覚悟が出来ていたというのにこの世に引き止めて。」


 「一番感謝しているくせに。」


 「樹里菜、うるさいです。」


 状況がよく分からない。


 「あれ? 部長は人間に戻ってますよね?

 どうやって僕をここに?」


 「その前に飛んで連れて来たとしたらどうする?

 深夜だし目立たないよ?」


 「え? 今、夜ですよ?」


 「一日経ってるとしたら?」


 「あぁ、でもベッドに寝て無くてよかったんですか?」


 「それはもう治る見込みが立ってたからだよ。」


 「そんなに早く治るんですか?」


 「まぁ1000万円もあればね、ゆっくり治すなら半分位でもよかったんだけど……。」


 「お、そんなに捗ったんですか。 そりゃよかった。」


 「ですから私は半分は様銀二君に残しておこうと言いましたのに。」


 「様銀二君はどっちがよかった? 今更ズルいかもしれないけど。」


 「そりゃ早い方がいいに決まってるじゃないですか。

 そもそも部長のために世界大会何て壮大な試合に出させてもらったのに金だけはよこせとか強欲過ぎません?」


 「ほらー! 様銀二君ならこう言ってくれるって言ったじゃないですかー!」


 「樹里菜、うるさいです。」


 「部長、さっきからそればっかり。」


 「むむ。」


 「部長。 お願いと言っては何ですけど、ひとつよろしければ聞いて貰ってもいいでしょうか?」


 「構いませんよ、様銀二君には多大な恩がありますからね。」


 「お名前、お伺いしても?」


 「あ、そうでした。

 ……って、そんな事でいいんですか?」


 「いいですよ?」


 「高橋 真浦です。」


 「部長も珍しい名前されてますね。」


 「よく言われます。」


 「部長、これで心置きなく出来ますね。」


 「何がですか?」


 「卒業です。」


 「あ……。」


 部長の顔が少し赤くなる。


 「単位は取れていたので卒業自体は出来たのですが、卒業式間近になって呪いに気付きましてね。

 卒業式に出れず卒業が出来なかったのです。

 結果2年も経って20歳に。

 何とも情けない話です。」


 「そうですか?

 部長は苦しんでこられたのではないですか?

 この世から離れるお覚悟をされるほどにまで。

 解放されたのなら理由も災いも知られるところでしょう。

 それ程ハンデになるとも思えませんが。」


 「まぁ、部長の事は今現在で大ニュースにはなってるね。」


 「卒業が出来ても、大学に進む切符は断たれてしまったのですか?」


 「部長の進路は大学は待ってくれてたの。

 呪いが解けるまで席は空けて置くって。

 だから大丈夫!」


 「いいことづくめですね、何よりだ。」


 「様銀二君、超電磁テニスのプロになる気はありませんか。

 FLマイト電極を使ってホワイトフルムーンで決勝戦まで勝ち抜いたと聞いた時は耳を疑いました。

 しかも決勝はブラックフィルムーンまで使って。

 ブラックフィルムーンの使い手はプロでもいません。

 机上の空論なんです。

 どうでしょう、様銀二君にはその素質があります。」


 「あはは、僕の部活制限をお忘れですか。

 世界大会だけというお約束でしたよ、部長。

 それに僕はこの部にいてはいけない。

 無双も面白いかもしれませんが、ロクに練習もしてないやつがのさばっちゃいけないんですよ。

 今回は部長の治療費という名目があったのでゴメンして貰いましたが。

 僕も卒業、ですよ。」


 「まぁ、勿体ない……。」


 「たった一日でしたけど本当に楽しかったです。

 電気球と呼ばれてたこの体質が役に立つ日が来るとは思っていませんでした。

 実際自分自身、この体質に困っていましたからね。

 地面に座れば砂鉄が付くし、イライラするだけで放電しますし。」


 「朝になったら部長だけの卒業式だよ!」


 「今まで寝ていた分を取り戻さなければいけませんね。」


 「部長ったら、しっかり勉強して衰えないようにしてたのに?」


 「万が一にも治ってしまった時のためです。

 本当に治るとは思っていませんでしたが。」


 「真面目だなぁ、部長は恋愛もせずにずっと勉強一筋だったんだよ?」


 「ほう、そんな事を言いますか。

 なら樹里菜、様銀二君とお付き合いでもしたらどうです?

 彼の試合中ずっと気になってたのかソワソワしてたじゃありませんか。

 仕舞いには飛び出して行ってしまったと言うのに。」


 「ふわっ!? ぶ、部長!」


 「あれ、そうだったんですか? 樹里菜先輩。」


 「ちちち、違うの! 部長は何を言っているのかな!?」


 「ふーん。

 様銀二君カッコいいなぁ、って寝顔見ながら呟いてたのは誰でしたっけ?

 私でした?

 寝言は寝て言った方がいいと思いますねぇ。

 何なら録音してましたけど、面白くて。

 様銀二君、聞きます?」


 「へ?」


 「ひゃあああ!? ぶ、部長! そんな録音消してください!」


 「録音があると認めるんですね?

 それ即ち発言したと認めました。」


 「部長、嵌めたなー!?」


 「ということですが様銀二君、返答はいかに?」


 「自分みたいなヒヨッコでいいんですか? 樹里菜先輩。」


 「あうぅ。 ふ、ふたつも年上だけど……いい?」


 「構いませんよ、よろしくお願いします。 樹里菜先輩。」


 「……先輩って言うのやめて。」


 「え? 年上の方にいきなり呼び捨てですか?

 失礼じゃありません?

 あ、樹里菜さん?」


 「呼び捨てがいい。」


 「……分かった、よ? 樹里……菜。」


 「まぁ、たどたどしいのはいずれ治ると思う事にする。

 やだなーもう、恥ずかしい。 あはは。」


 いや、樹里菜先輩はもともと可愛かったんだけどな……。


 あ、また先輩って思ってるや。


 そんな事をだべってたら朝になりました。


 

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