ミステリーツクール

神楽堂

初級モード 1

推理小説を書きたい!

ミステリ好きなら、誰しも一度は思ったことがあるはず。

もちろん、俺もその一人。

いい作品を読んだ後は、俺もこういう作品を作りたいなぁ……と思ってしまうものだ。

そんな俺に、ぴったり?! のゲームを見つけた。


その名は、『ミステリーツクール』。

このゲームには、「初級モード」と「上級モード」がある。

「初級モード」では、小説を書いたことがない人でも遊べるように、選択肢を選んでいく形でミステリを作っていく。

一方、「上級モード」では、ミステリを創作するための支援をするようになっており、これを元に、実際に自分で作品を書いていくことになる。


俺は、まず「初級モード」から始めた。

犯人を誰にするか、トリックはどれにするか、など、画面にいくつか候補が出てくるので、それを選んでいく。すると、だんだん物語が作られていく。

作品の出来はAIが判定していき、面白いミステリであればあるほど、高得点がもらえる。

一方、辻褄が合わなかったり、ミステリのお約束を破ったりすると、点数が下がってゲームオーバーとなる。

なかなか面白いシステムだ。


さて、どんなミステリを作ろうかな。

俺は登場人物を設定していく。年齢、性別、職業などを選択する。登場人物の名前は候補からも選べるし、自分で任意に入力することもできる。

物語の途中で登場してくる人物もいるので、その都度、人物設定画面を出して、キャラを登録していく。

物語の時代や場所なども、いくつかの候補から選んで決めていく。

選択肢を選んでいけばいいので、とても楽だ。


ただし、時代を昔に設定した場合、その時代にないものを作品中に出してしまうとアウトとなる。

例えば、犯人を特定する手段として「DNA鑑定」を選択したとする。

この手法が使われはじめたのが、1986年頃である。

物語の年代をこれよりも前に設定している状態で、「DNA鑑定」を選択するとアウトになってしまう。気を付けないと……



俺は、読者に簡単には犯人が当てられないようにしようと思い、真犯人は物語の後半に登場する人物にしてみた。

すると、「ミステリーツクール」は、俺の作った物語に極端に低い点数を付けてきた。

なぜだろう?

不思議に思っていると、画面に減点理由が表示された。


「ノックスの十戒の1つ、『犯人は物語の当初に登場していなければならない。』これに違反しています。」


なんだと?!

ミステリにはそんなお約束があったとは……

でもまあ、確かに言われてみれば、物語の最後あたりにひょっこり登場した人物が犯人だったら、読者からブーイング喰らうよな……



犯人は意外な人物の方がいいだろう。

そう思って、今度は「探偵」を「犯人」に設定してみた。

面白いはず!

しかし、点数は極端に低いままだ。

画面には、こう表示されていた。


「ノックスの十戒の1つ、『探偵が犯人であってはならない。』これに違反しています。」

そうなのか……

じゃあ、ワトスン役を犯人にしよう。

ワトスン役とは、探偵と一緒に行動している、物語の語り手のことだ。

AIはどう判定してくるかな?


「ノックスの十戒の1つ、『ワトスン役は自分の判断をすべて読者に知らせなくてはならない』これに違反しています。」


なんと! 探偵の助手の思考判断は、すべてオープンになってしまうのか。

探偵の助手が、

「よし、今が犯行のチャンス!」

と思ったのなら、それを本文に書かないといけないということ。

これでは、犯人を隠しようがない。


結局、俺は真犯人の設定を、「ノックスの十戒」とやらに従って、物語冒頭近くに登場する人物へと変更してみた。

途端に、AIからの評価点が回復した。

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