第2話 逃走と再開

「よぉ、さっきはありがとな」


と米倉は前方に立っている男─葛城を見上げる。


「とりあえず地面で寝そべるのはやめろ汚れるだろ」


「いいのかい?んじゃ遠慮なく」


「…お前、なにしてんの?」


と胸から血を流してる米倉をみて葛城は唖然とする。


「流石だね、あの爺全然衰えてなかったわ」


「お前…能力縛って戦ったとかねぇよな…?」


「んなことしたらもう死んどるがな、アホ」


と戦闘はそれなりに得意だったはずの米倉が殺られかけてることに葛城は嫌な感じを覚える。だが至って平静を装った声で質問をする。


「それで?相手は殺れたのか?」


普通戦闘が終わった後に来そうな質問のはずだが米倉は驚いたような顔をする。


「あの爺?無理無理。だって…」


米倉から想像もしたくない事がこぼれ落ちる。

「マルチスキルだよ?」


「は…?マルチスキルって…あの?能力を複数持ってる?」


「そだよ?しかも元々が強いから手に負えないんよなぁ…」


葛城が驚いたのも無理はなく、マルチスキル─略してマルチと言われる人間は希にしか存在しないといわれている。


そのため存在が確認されると様々な方面から勧誘・誘拐などが敢行されるのである。その際、敵対組織と鉢合わせし、その場で即戦闘になる事が多く、多かれ少なかれ被害を受ける可能性がでてくる。勧誘に応じなかった場合、他の手に渡る事を恐れて手練れの軍人などが派遣され、拒否された後戦闘になるということも頻発している。


そのため、マルチで組織に存在している人間は非常に少なく、とてつもない生存能力を持っているものが大半である。


「そういやさっきお前、爺って言ってたなその人のこと。」


「ん?そうだな」


「知り合い?」


「じいちゃんの知り合いでたまに稽古してくれたんだよ。名前は梅原…だっけな?下は忘れた」


葛城は名前を聞いた瞬間倒れそうになる。それもそのはず、その梅原という人物は自分にとっての存在意義がないと感じた組織・人を抹殺するという都市伝説じみた報告を貰っているからである。


「稽古をつけてもらってたってことは…能力とか知ってるのか?」


「んー…ひとつは知ってる、ってかさっきも使われた。確か、異空間を操るんだったけな」


「なるほどなぁ…けどなんでそんなもの使えるのにお前異空間に拘束とかされてないのか?」


葛城は異空間拘束などをしていればでられなくなるはず、と考えていた。

が、


「それがさぁ、一回拘束回避の稽古で異空間に吸われてさ、ビビって本気で暴れたら、いきなり外にほっぽり出されて怒られたよ『人の内側に入ってきて暴れるバカがどこに居る』ってね。だからあいつの異空間は拘束のためじゃなくて専ら収納運搬用だね、現に武器とか出してきたから。」


「ふぅん…面白いね、異空間は場所と場所を接続可能なのか?」


「接続か…できたと思うよ?なんか一回無限に物を落とす練習とかしてたから。」


(無限に落とし続ける…か)


「おーい。急に黙ってーどーしたのー!」


その言葉を聞き少し恐怖を感じた葛城は横で喚く米倉を無視し、拠点へ早足で帰っていく。勿論喚く米倉も一緒に人気のない路地を梅原が歩いて行く。


「あの坊主が過去を思い出さなきゃいいんだがなぁ。」


いきなり梅原の後ろの空間が歪み始め、ある名称を言えば万人が思い浮かぶような円錐形が顔を覗かせる。


「いくら訓練したって空間を繋ぐ距離はそんなに長くならねぇし…」


徐々にその物体は姿を表し、滑り落ちるように姿を晒す速さを早めていく。


「こんなもの至近距離で爆発させるもんじゃねぇっての」


完全に姿を晒した物体─昔戦艦の主砲に装填されていた物とされている40cm徹鋼弾がそのまま道路に向かって落ちていく。


「慣れなきゃ死ぬぜこんなの」


だが、着弾間近というところで頭部が消失を開始する。


「まぁ、訓練でできるようになったいいことっていったら」


砲弾が出てきた穴の横から少し離れた所にまたもや歪みが発現する。


「複数を同時展開しても、複雑に繋いでも落とし続けることができるようになったってことだな」


いつの間にか梅原の周りには上下が対になった歪みが発生しており1つづつが缶詰めのようなものが中空に浮かせているように見える。


「まぁあとは取り込める範囲が広がったことも良いことだな。」


先程までは梅原の周りを囲っていた歪みは梅原の背後に後光のような位置取りをしている。後光と違う点は人々のためのものではなく、ただ破壊をするものということである。


梅原が路地を半分程度行った時、突然前後を武装した黒服の人物達が包囲する。


「梅原様とお見受けします。」


「だったらどうする。」


「ご同行を願いたいのですが…」


黒服達は丁寧に話しかけるが、梅原は粗暴な口調で返答する。狂気的な笑みを浮かべて。


「無理って言ったらどうなるのかなぁ?」


「主のご命令なので、力ずくといくしかありませんね。」


「良かろう、やってみろよ」


というや否や黒服達は銃を構え、装填されていた弾を吐き出す。


「豆鉄砲か、そんなもので死んでみたいねぇ」


梅原の声が終わるか終わらないかというタイミングで道路が爆発を起こす。砲弾が道のアスファルトに突き刺さり炸裂したのであった。現に先程からあった後光擬きは消え失せ、またゆっくりと動く砲弾が歪みの間を見え隠れする。


「誰だかしらないけど俺をとらえてこいってねぇ、かわいそうな奴らだ。」


と両脇の建物が半分消し飛んだクレーターのど真ん中で梅原は一瞬で消し炭になったであろう人間に憐れみの言葉をなげる。


「また坂道だよ…能力を使わずに上りにくいんだよなぁ…」


と梅原は何処からあがったら良いものかと爆風で炎が消えてしまったため、炭化した状態で固まっている木材などを見上げながら探し始める。

その瞬間、隣の家の屋根上から1つの影が見える。


「そこにいるのは何処のどいつだ、吐かねば殺るぞ?」 


という初っぱなから脅しが飛び出たことで相手は怯えたのかなんなのか、すぐ飛び出してきて敬礼をする。


「桃井です!言伝てを受け渡しに!」


というや否やせかせかと物づたいにクレーターへと降りてくる。


「これを読めばわかると!」


「ふん」


と真剣な表情で桃井が伝える反面、梅原は心底どうでも良さそうに差し出された紙を取る。

そこには──


「これは──」


「お話がしたいそうですがどうでしょう?」


桃井は梅原の顔が驚きに染まった瞬間を見逃さず声をかける。


「いいだろう、聞いてやる。」


「では!」


「だが─」


と喜びを露にした桃井に対して梅原は悪鬼のような顔でいい放つ。


「嘘や誤魔化しだったらどうなるか」


と、既に梅原の手にはリボルバーが握られ、それは桃井の眉間に狙いがついていた。


「わかってるよな?」

数分後某所

扉をゆっくりと開け、部屋の奥にあるソファーに向けて声をかける。


「お連れしました!緑丘さん!」


「そうか、ご苦労」


そして桃井と共に入ってきた梅原を見る。


「どうした?折角の再会なのに…顔色が悪いぞ?」


青くなった顔で呆然と見る梅原の視線の先には…

死んだはずの友人がいた。

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