第186話 宴会③
俺がレイアンタールを食べながら過ごしていると...。
「あの...【弱体術師】様」
と姫さんが声をかけてきた。
「なんだ? 姫さんか」
俺は興味なさげに彼女の方を見る。
「先程は断られてしまいましたが、今度こそ貴方様の旅に私も連れて行ってください!」
その言葉に和気藹々としていた会場が凍りつく。
「アルシェ! せっかく帰ってこられたと言うのに何という事をいうのだ!」
王も血眼になってそう叫ぶ。
「父様...」
一瞬王の迫力に押し負けるアルシェでしたが負けじと言い返す!
「父様、私は今回の誘拐事件にて分かった事があります」
「ほう、なんだそれは? 申してみよ」
「力無き者はいずれ力ある者にとって変わられるという事です。此度の騒動の中心には力のある騎士団長がお父様に成り代わって王座に着こうとしていましたよね? それはつまり失礼ですが父様が騎士団長に舐められていたと言う事に他ならないと思うのです!」
堂々と肉親に向かってお前は部下に舐められていたと答える度量は凄いが相手を選べよとも思う。
「な...な...なんだと!!!」
流石の王もその言葉には激昂しているように見える。
「だからこそ私は【弱体術師】様について行き広い世界を見て自身を高めたいと思っているのですよ。お父様、どうかお願いします。アルシェにかの者についていく権利をください」
(【勇者】が自分を連れ出してくれなかったから【弱体術師】でも良いってか? ただ単に自分が城の外に出たいだけだろ!)
と思わずにはいられない。
当然そんな言葉使いでは王の了承など得られるはずもないだろう。
「アルシェ...お前と言う奴は...!」
(そうだな。ここで激昂するに決まっている)
俺はあ〜あとそっけない振りをしながら苦笑していると...。
「そこまでの物言いを親であるわしにするとは...。良く育ってくれたな! わしは鼻が高いぞ!」
いきなりアルシェを褒め出す王に俺は「んっ!?」と唸る。
「実は言うとわしも少々過保護すぎるとは思っておったのじゃ。一人娘じゃからな。だが今のお前の瞳の輝きはいつもとは違う光を放っておる」
そう言いながら俺の方を見てくるエトランゼの王。
「【弱体術師】高坂和希殿。どうか我が一人娘アルシェを育ててはくれぬか? 騎士団長であるグレイスを倒したという腕を見込んで頼みたい」
俺は思わず「断る」と言いかけたのだが慌てて口を塞いだ。
なぜならこの場面で断った場合、せっかく勝ち取った王の信頼をドブに捨てる事になるのだ...。
(ぐっ...くそっ! なんで好き好んでこんな甘っちょろそうなガキをパーティに入れなきゃならないんだ! 王も王だ俺たちは魔王軍と戦う勇者だぞ!? こいつが死んでも責任は取れないんだぞ!?)
俺はその事を王に告げてどうにかアルシェをパーティに入れさせないように配慮したのだが...。
「はっはっはっ! アルシェも死ぬ事は覚悟しておる。そんな瞳の輝きをわしは見せてもらったからこそ貴殿に大事な一人娘の教育係を任せたのだ。戦いで死ぬのならまだ貴殿を許そう...。ただし...」
いきなりギロリと怖い視線を俺に向けてきた。
「娘の意志を尊重せずに間違った行為をすれば命はないと思え」
つまり王の言いたいことはこうだろう。
俺と一緒に魔王軍や冒険中に戦って姫さんが戦死したのであれば罪には取らないが、俺が姫さんの意志を尊重せずに間違って子を成してしまった場合は許さないと...。
聞いてるだけで頭が痛くなってくる。
(誰がお荷物のガキと子を成すか! ばーか!)
と面を向かって言いたくなる気持ちをこれながら無理な笑顔を作り「せ...精一杯頑張らせて貰います」と棒読みで答えるのでした。
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