第38話 【弱体術師】の真実

 王の言葉に会場がどよめく。


「今回の【弱体術師】も人間を隷属させる能力を得たのか!?」


「まずいぞ...、このまま奴を野放しにしたら...また!」


「殺せ! 奴をこの場で!!!」


 俺を殺せと民衆が沸き立つ。


 それを味方にしていた王が俺を指差してこう叫んだ。


「者ども! 奴を仕留めよ! 最早生死は問わぬ! 奴は存在してはいけない!! 奴は勇者召喚の汚点じゃ!!!」


 この状況...。


 王はきっとこの状況を作りたくて今まで根回しをしていたんだろうな...。


【弱体術師】を悪と決めつけることで国の団結力を固めるとは頭が良いな。


 いや、本当に前に召喚した【弱体術師】が糞だったのかもしれないな。


 まあ、今となってはどうでも良い。


 俺はこの場所から逃げ出すために優樹の手を取った。


「優樹...、逃げるぞ!」


 その言葉に彼女はにっこりと笑う。


「和希...! うん!!!」


「逃すと思うか!? 者ども! かかれ!!」


 兵士達が次々と押し寄せてくる。


 このままではジリ貧だ。


 いくら【憎悪の杖】が攻撃力に優れているとは言っても所詮は【弱体術師】の武器だ。


 そこまで接近戦が得意な訳ではないらしい。


 それに優樹を救い出せたおかげか【狂化状態】の段階が1段階目に下がってしまっていた。


 このせいでステータスが下がっているのだ。


 どんどん倒しても湧き出てくる兵士の群れに押され気味の俺たちは戦う事を諦めて石川に攻撃を集中した。


 優樹が先に先行し石川の前に立つ。


「小鳥遊の攻撃力で俺を倒せるとでも!?」


 弱体化したとはいえ【賢者】である石川に【回復術師】である彼女が戦うのは危険だろう。


 なので彼女にやって貰うのは囮だ。


 石川が優樹に気を取られている間に石川を後ろから襲う俺。


「なっ!? 卑怯だぞ!」


「卑怯? これだけ人数差に頼っているお前達の方が随分と卑怯だろう?」


 俺の言葉の後で奴が『感電状態』となり倒れた。


 勇者と賢者を状態異常で倒された奴らの足並みは崩れ去った。


「今だ!!」


 その隙を逃さずに俺たちはコロシアムから逃げ出すのだった。

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