クイーンアンの福音

亜未田久志

第1話 リィルとロゼ


 鼻歌混じりに荒野を行く車が一台。

 そうして書くとまるで車が鼻歌を口ずさんでいるように聞こえるかもしれないが。

 事実、その通りなのである。

「うっさいわねぇ。あんたもっと車らしく出来ないわけ?」

「鼻歌くらい許容したまえよ」

「えらそー」

 後部座席でふんぞり返る二人の少女。

 運転席には誰もいない。

 最新鋭の無人運転……ではない。

「あんたいつでも質屋にぶち込めるって分かってるわけ?」

「足が無くなったら困るのは君達のほうだろう?」

「むかつくー」

 憑依型の悪魔、それがこの車だった。

 名前をカースド。呪われたカースド。である。

 後ろのでけたたましく怒っているのがリィル。

 ぼんやりと言葉を紡ぐのがロゼ。

 二人はアメリカにまで侵略してきた悪魔を狩るデビルハンターだった。

「目的地までどんくらい?」

「あと百キロ」

「もっととばせないわけ?」

「おそーい」

 不承不承といった風に速度を上げる車ことカースド。

 すると百キロも無い。十キロくらい先に黒いもやがかかっていた。

「なにあれ」

「やっば低級悪魔コウモリだ避けてカースド」

「無理だな、この速度じゃどのみち気づかれる」

「おうせんー」

 寝ぼけまなこで車の天窓を開きミニミ軽機関銃を構えるロゼ。

「ちっ! やるしかないか! 聖水散布ホーリーアクアス!」

 突如、雨が降り出すとそれは黒い靄を

 ミニミ軽機関銃がダダダダダダダダダダダダダダッ!! と鳴り響けば。低級悪魔は蹴散らされていた。

「敵影無し」

「そらそうよ」

「かんぺきー」

 カースドは速度を緩める事無く突き進む。

 目指すはカンザスシティ。

 最も悪魔の蔓延る魔地だ。

 

  ☆


 ――煌びやかなカンザスシティの街並み。

 ――そこに悪魔がいるだなんて信じられなかった。

 ――そう、その時までは。

「よおねぇちゃん。俺と遊ばない?」

 女性にナンパな男がちょっかいをかけている。

 それを突っぱねる女性。

「結構よ」

「ハッ! いいね、その威勢気に入った!」

 すると男は凶悪な笑みを浮かべる。

 そして頭から角を生やし、背中から翼を生やし、ケツから尻尾を生やした。

 唐突の事で女性は頭が追いつかない。

 しかしそれだけは理解した。

「悪魔……!」

「助けを呼んでも無駄だぜじょうちゃ――」

 バラダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

 機関銃による弾丸の雨あられ。

 悪魔は吹き飛び、女性の視界から消え去る。

「ハローレディ? 弾丸分は補填出来そうなら助けてあげるけど?」

「デビルハンター……」

「いかにもー」

 二人の修道女がどこからともなく降り立つ。

 その光景はまるで宗教画の一枚のようで。

 似合わない機関銃とグレネードを構えた二人に。

 女性は怯えるしかなかった。

「さっすがカンザスシティ! まずは一匹目ね!」

「今日の晩御飯はすてーきー」

「ざっけんなよ餓鬼共……」

 悪魔が道端から起き上がる。

 口笛を吹くリィル。

 ロゼは眠たげだ。

「ロゼ、あんたの機関銃効いてないわよ」

「うん……近くに一般ぴーぷるがいたから手加減した」

 銃に手加減もなにもあるのだろうかとその場にいた女性は思いつつ逃げなくてはと身体を動かそうとするも腰が抜けて動けない。

「そこでじっとしてて! もう手加減出来ないから!」

「よろしくー」

 グレネードを投げつけるリィル。それは悪魔によって掴まれ投げ返される。

「えっまず!?」

「ばかー」

 バシャン! と水飛沫が上がる。そうグレネードの中身は水。聖水だった。

 デビルハンターの本部、狩人教会にて聖別された特別な水。

 それをいともたやすく対処した。

 しかし気にせずロゼが。

「今度はほんきー」

「やってみろやぁ!」

 連続する重低音、ヘリコプターの飛ぶ音にも似た連射は悪魔を穿っていく。

 しかし。

「致命傷とまでは、いかねぇなぁ」

「嘘……ロゼの本気でもダメ……?」

「よそうがいー」

「我が名はバフォメット!」

「ネームドかよ!」

 これはマズいと口笛を吹くリィル。

 するとどこからともなくカースドが現れる。

「ネームドよ! 力貸しなさい!」

「というと?」

「ひきころすー」

「はぁ、ボンネットやタイヤが傷むのだがね」

 カースドに乗り込むリィルとロゼ。

 するとバフォメットは女性に手を伸ばすと人質に、盾にした。

「これでお前らも攻撃出来まい!」

「カースド、轢け」

 フルスロットルで突っ込んだ。

「ぶげらっ!?」

 バフォメットが跳ね飛ばされ、女性はカースドをすり抜けロゼにキャッチされた。

「お土産よ、グンナイ♪」

 ありったけのグレネードを落としてその場を後にする。

 大量の聖水が洪水の如くその場を洗い流し、バフォメットを浄化した。

「任務達成、ネームドだからきっと報酬弾むわよぉ!」

「すてーきすてーき」

「あ、あの」

 女性が二人の前に出る。

 お礼でも言うのかと思ったら。

「私、狩人教会の監察官をやっております。ドリーと申します。今回の件、あまりに街への被害が大きいかと……」

「げ、一般人じゃなかったの……」

「その分、報酬からはきっちり差し引かせてもらいます」

「す、すて」

 カースドがやれやれと車体を揺らしたのだった。

 こうしてデビルハンターリィルとロゼ、そして使い魔のカースドのカンザスシティでの戦いが幕を開けたのであった……。

 

 ――To Be Continued?

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