第42話

私が思わず目を見張って、…その写真、どうしたの…?って訊くと、河近さん…紅麗さんからは、

「メーリングリスト経由、うちの部活のね。…あ、アタシ、軽音部入ってて、目下、高等部の先輩達と結成した有志バンドでギターボーカルやってんの。今度の文化祭で校内デビュー予定なんで、良かったら見てやって?」

って、また例の、ぽんぽんぽんと捲し立てるような調子の返事が返ってきました。それこそ、一言が十言…程ではないですけれど、こちらの発した言葉を、二倍にも三倍にもして返してくるのは、ここのおうちのご家風だろうか、…と、埒もないことを考えながらも、…その、軽音部のメーリングリスト経由で、何か他の情報も…?って、恐る恐る尋ねたところ、紅麗さんは、ごくあっさりとした口調で、

「うん、まあ…色々ね。このメーリングリスト、部外のヒトも結構な割合でメンバーになってんだけどさ、…アタシがさっきざっと見た限りじゃ、メインの話題は押谷への非難と、あとは立花サン、アータへの同情票…。

何ぽかんとした顔してんの、アータ、校内じゃ、ちょっとした有名人なんだよ?『お血筋』は…ちょっと脇に置くとしてもだ、間違い無しの学年成績上位者で、テストごとの、毎回廊下張り出されの常連。で…その上に、茶道部の『麗人』…。

……だからその、『ますます訳が判らない』って顔さあ…。ホントに気付いてないんなら言うけど、…アータ、去年の文化祭、茶道部の野点のチケット売り上げ、例年の倍以上だった、って知ってた…?…そう…。……いや、いくら去年は文化祭期間中、連日晴天続きで人が出たって言っても、それだけじゃ片付けられないって。

要するに立花さん、アータだアータ…。アータ、自分が矢鱈と席に引っ張り出されたのにも気が付いてたでしょう?普通、中坊…いや、中等部生の、しかも一年なんか、受付にだってろくに立てやしない、ひたすら水屋の手伝いと、道具の出し入れと手入れの下働きってのが相場だってのに…。あ、…詳しいのは、知り合いの愚痴を聞いたからだって…。

……いやいや、それ、単純に、『小学生のうちからやってて場馴れしてるから』ってだけじゃないんだよ?要するに、アータの見た目だ、見た目。…最終日なんか、野点のチケット、完全にプラチナ化してたから、撤収のついでにちらっと拝むしかなかったけどさ、…アータ、着物着て立って動いてるとさあ…」

って、そこまで言って、急に渋い顔になると、私から視線を逸らして横を向いて、それからぼそりと「…まるっきり気が付いてない…ってのも、こりゃあ罪なもんだねぇ…」って、何やら謎の台詞を呟くと、わざとらしくこほん、と空咳をしてみせてから、

「…まあ、あれだ。中等部の有名人で、校内でも評判の別嬪さんが、校門前でヘンタイ男性教職員に絡まれてたら、そりゃ目立つし、同情票も集まろうってもんよ?」

って、…何だか、私から見た限りでも、妙に無理矢理な感じで話を纏めました。

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