第2話

…え、私,…世間ではそんな言われ方を…?

え、…ええ、私、そんなことは全然…。元々ワイドショーなんかはあまり見ませんでしたし…。ええ、祖母も。……マスコミに携わってる伍代さんのような方の前で、大変に恐縮ですけれど、うちの祖母、自分のお弟子さん達を初めとした余所の方にはともかく、唯一の同居家族の私には良く、「こんな、ワイドショーなんぞで言われてるような、ちゃちな常識なんて、ある日あっという間に引っ繰り返ったって可怪しくないんだから。昭和20年の8月15日が良い例だ。その証拠に、毀誉褒貶は世の習いとは言え、いくら持て囃されてる人間だろうが、何かひとつでも問題を起こせば、たとえそれが、いわゆる犯罪を犯したんじゃなくでも、あっと言う間に世の中総出で、袋叩きの上に爪弾きの目に遭わされるんだから。世間に大きく顔が売れてる身で問題引き起こす方にも、まあ、まるっきり問題がない訳じゃないけれど、『報道の自由』を盾に、家族でも直接の関係者でも何でもないのに、散々持て囃した相手を、『一家の内事』を種にあっさり日和って、地面に叩き付けて踏んづけて、たとえ誤報だったとしても、補償どころ謝罪もしないで口を拭う側は、隣組より質が悪い。それに、『公正と中立』とやらを謳い文句にしながら、実質はスポンサー様や大手芸能事務所様辺りの提灯持ちなのは、視てるこっちがちょっと考えれば判る。その上に、自分のところに都合の悪い報道は後回し、問題が大きくなってどうしようもなくなってから、やっとおもむろに、謝罪を兼ねた特別番組なんてのを組むだろう。あれもみっともない。大本営発表のラジオニュースや新聞記事と同じだ。結局それが玉音放送に、…敗戦に繋がったんだから」って、心底胸糞悪そうに。何しろ、それこそ先の大戦の経験者ですから、言うことが、……あ、あの、…お説いちいちごもっとも、ですか?…いえ、こちらこそ、門外漢の素人が口幅ったいことを申し上げまして、恐縮です。

まあ、そういう下地の上に、祖母の介護の大騒ぎに再就職、それに祖母が亡くなってからは一層…。少し落ち着いたと思ったら、今度はあの事件でしたから…。後藤さんや小宮先生、それに病院の先生にも、あの一件は過去のこと、曲がりなりにももう済んでしまったことなんだから、無理に掘り返すもんじゃない、特にマスコミ経由の情報は止めておけ、私の傷が大きく深くなるだけだから、って…。幸い、って言うか何と言うか、少なくとも当分の間は、こうやってこの家に引き籠っていても、誰からも文句を言われない立場ですから…。

あの、…これは凄く不遜な物言いかも知れませんけれど、私、基本的に世間の人にどう思われようと構わないんです。

私の大切な、…少なくとも私が大切に思ってる相手が、私のことを大きく誤解してさえいるのでなければ。

…ああ、やっぱりお気に障りました…?……でも、そうでも思っていなければ、私みたいな立場の人間は、生きていることが、…いえ、呼吸をすることさえも辛くてやってられないんです。

だから、そのことを正そうとお思いなら、…え、違う…?……私の考えには、ジャーナリズムの立場からは多少は言いたいこともないわけじゃないけれど、それは個人の思想・信条に関わることだから、取り敢えず一旦脇に置いておくとして、まず第一に、あの一件において、あんな状況から、ともかくも生還した、私という人間に、純粋に興味がある…?…だからこそ、私の話を聞きたい、んですか?……自分の興味を第一に優先した取材だから、もし気が進まないなら、今すぐこの場で断っても構わない…?

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