第58話 豚は豚らしく

「いやー、昨日はありがとさんしたー。おかげさまで夏休みの宿題がほぼ全部終わったぜよ」


 結局、あの勉強会は丸一日使うことになったものの、その甲斐あって、二人とも宿題のほぼ九割を終わらせることができた。

 あとは読書感想文的なものがあるので、それはお互い、自分でにどうにかする必要がある。

 でも、逆に言えばそれ以外は終わったのだ。


 そんなわけで、私達は今、アルテラの噴水に腰かけた状態でのんびり話をしていた。


「こっちこそありがとね。それで、今日はどうするの?」


「リンに訊いたら、最後の詰めにまだ時間がかかるってことだったから、狩りにでも行こうかなって思ってる。南の犬とかゴーレムに東のサボテンはやったことあるし、西側でも攻めてみるかなってね」


「でも、西は大河でしょ? 向こう岸は存在しないって話じゃなかった?」


「うむー。でも次のゲートがありそうなのは西側くらいなんだよねー」


 なんでもケートが言うには、こういう時は水中にあったり、小さな島にあったりするらしい。

 見えないところが怪しいってやつなんだってさ。

 でも、水中はわかるけど……島ってあるの?


「わからん!」


「わからんって……適当だなー」


「まあ、こればかりは情報がないんだよねー。大河のエリアも広いし、空を飛んだりはできないから、どうしてもしらみつぶしになるし」


 それでも西側を探索するってことは、なにか策があるってことなんだろうか?

 ……さすがに潜る! とか言わないよね?

 んー、まあ悩んでても仕方ない、か。


「とりあえず西の大河を目指してみようず!」


「はいはい」


「あ、それと道中のモンスターは、刀使わずに戦ってみようぜい! 試し切り……もとい、試し打ちにはちょうどいいでしょ?」


「まあ、うん。使ってみるよー」


 言って、アイテムボックスから例の呪符を取り出す。

 確か、火の呪符が『鬼火』で、雷の呪符が『天雷』だったっけ。

 初魔法が呪符って、見た目も相まって、完全に和風プレイヤーって感じだなー。

 わふー。


「そんじゃ、出発しんこー!」


「おー」



「いい? セツナ。呪符はこうやって挟んで、こう!」


「……そのポーズ、絶対に必要なの?」


「お約束は必須。ここは譲れない」


 モンスターを前に、人差し指と中指で呪符を挟み、顔の前に掲げるケート。

 ポーズ決めるのはいいんだけど、そのたびにキメ顔になるのはちょっといただけない。

 なんかイラッとするし。


「えーっと、こうやって……こう?」


「そうそう、いいよセツナ。いい感じだよー!」


「……なんなの、これ」


 モンスターを無視して繰り広げられるよくわからない指導に、私はなんとも言えない気持ちになってしまう。

 ねえ、そろそろ打ってもいい?


「よし、セツナやってやれ! いいか、すごく“イイ声”で宣言するんだぞ! こう、『鬼火』って感じで」


「イラッとする顔に、イラッとする声が加わって、余計イラッとした」


「……さあ、放つのだ! 君の熱い想いを、今こそ!」


「『鬼火』」


 訳のわからないことを言い出したケートの言葉は、右から左に聞き流し、私は適当な声で呪符の魔法を発動させる。

 すると、呪符の模様が光りだし、ゴウッと、中々の勢いで火の玉が飛びだした。


「おわっ」


「ボアッ!?」


「……いや、豚じゃん。ボアとかよく鳴けたね?」


「セツナ、なに言ってるの?」


 呪符一発で火だるまになる豚……もとい、『イーリアスボアモドキ』。

 ボアモドキの名前通り、猪っぽい豚である。

 ちなみに、草食らしい。

 ……なんで餌の少ないこんな土地に生きてるの?


 ちなみに、呪符は模様が光ったあと、崩れるようにして消滅した。

 あー、たしかに使い切りだねー。


「ボアッボアー!」


「いや、豚なんだし、ブヒブヒ鳴こうよ。サイはちゃんとブヒブヒ鳴けたよ?」


「だからセツナ、どこに突っ込みいれてるのかにゃ?」


 怒りに震え、まっすぐに突っ込んできたボアモドキを軽々と避け、私はビシッと呪符を構える。

 そして、こんがり焼けた豚を想像しながら、『天雷』を発動した。

 ……ちょっとイイ声だったかもしれない。


「ボ、ボアーアァァ……」


「だから、豚はボアとは鳴かない」


「……それはまあそうだけどにゃ」


 光になっていくボアモドキを見つめつつ、来世は第一層森林に住まうボアとして生まれてほしいと、なぜか思った。

 自分でも、理由はよくわからないけど。


 ちなみに、ゲットしたアイテムは『イーリアスボアモドキの足肉』。

 つまり、豚足だった。

 豚足て。


「ねえ、ケート。カリンさんって豚足でも喜ぶかな?」


「肉だし、喜ぶんじゃない? 豚足とれたの?」


「うん」


「豚足って煮込むとプリプリしてて美味しいよね……」


 ケートの言葉に、煮込まれて味が染み込んだプルっプルの豚足を想像してしまう。

 ……ミト作れないかな?


「あと、ここでならいくら食べても太らないよね。つまり、プルンプルンの豚足を食べても太らにゃい!」


「よし、やるかな」


「うむ。やろう」


 私とケートは互いに背を向けて歩き出す。

 ボアボアと鳴くブタモドキの肉を狩り尽くすために!

 そう、すべては肉のために!


-----


 名前:セツナ

 所持金:210,740リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.9】【秘刃Lv.2】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る