第40話 今日一番の好カード
あれから試合は進み、ゲーム内お昼休憩のようなものも挟みつつ更に進み……気づけばベスト4が決まっていた。
といっても、ケートが言うには、下馬評通りに近い感じになったらしい。
「ミシェルさんが上がってきたのは予想外だけどにゃー。弓使いとか魔法使いは、勝ち残りが厳しいって予想だったしね」
「まあ、一対一ってなると、遠距離は難しいよね。接近されちゃうと離れるのも一苦労だし」
「ん」
「でも、ケートさんもミシェルさんも、接近されても戦えてたので、すごかったです!」
そう、ケートに至っては、二回戦がグレンパーティーの刀使い、ゴンザブローだったのだ。
ごり押しで接近してくるゴンザブローに、ケートも困ったらしいけど、最後はごり押しで押し返してたのが印象深い。
というか、ゴーレムの汎用性高すぎ。
「さて、それじゃ行ってくるかな。ケートを除くとたぶん一番の難敵に」
「セツナ、頑張ってねー」
「ん、頑張って」
「応援してますー!」
三人に見送られながら観戦用の部屋を出て、私は控え室へと向かった。
さて、ホントにどうやって戦おうかな……。
□
「やあ、セツナさん。ここでこうして
「はい。よろしくお願いします、グレンさん」
正面に立つ赤の鎧と大盾。
爽やかに言いながらも、その身体からは獰猛な野獣のような……
やはりこの人は、スポーツの世界や武術の世界のトッププレイヤーにいる、強者との戦いに全てを賭けているタイプだ。
こーゆータイプは、野生のカンみたいなのがあって読めないんだよねー。
『両者とも、準備はよろしいですか? では、三回戦第一試合、開始です!』
「こちらから行かせてもらう!」
「……ッ」
宣言と同時に、左手に持った大盾を前へ構え、まっすぐに突っ込んできたグレンへ、とりあえず一閃。
しかし、予想通りというべきか……綺麗に大盾で防がれて、その速度を緩めることができなかった。
んー、どうするかなぁ……。
「ハアッ!」
お互いの武器の間合いに入った瞬間、グレンは声と共に右手の剣を振るう。
それを刀で弾き、一撃返すも、それは盾で防がれた。
そこからも、グレンが剣を振るえば、私が弾き、私が斬れば盾で弾く。
まさに、千日手のような変わらない応酬が続く……。
ぐえー、反応が速いー。
「仕方ない。とりあえず……
「むっ!」
このまま続けていても意味がないと悟った私は、バックステップで距離を取りつつ、左右前方の空を斬り、見えない刃を残す。
そして、ゆっくりと近づいてきたグレンに、今度はこちらから斬り込んだ。
「【蝶舞一刀】風の型『
「甘いッ!」
下段からの斬り上げを大盾で弾き、グレンは右手の剣で反撃を見舞う。
しかし、それは空中に置いておいた斬撃で弾かれた!
「なっ!?」
驚くグレンの隙を逃さず、右腕の下をすり抜けるようにして一閃。
十分な手応えはあったものの……やはりダメージはあまり通ってなかった。
んー、見た目以上に鎧の下も防御力がありそうだぞー?
「ふんっ!」
「おっととと……反撃は喰らいたくないのでっと」
「先程の現象はスキルか。たぶん攻撃を時間差で与えるものなんだろう」
一発でバレてるー!
「トーマスから聞いていたからな。槍が不自然に逸らされたって言っていたのは、このことか。なかなか面白い技を使うじゃないか」
「あはは……まさか一発でそこまで分かるとは。さすがですね」
「なに、ただのゲーマーだ。君たち二人は実力がありながら、そのスキルはまるで不明という、なかなか面白いプレイヤーだからな。何をしてきても、納得できてしまうだけだ」
誰が面白プレイヤーか。
でも、その評価はケートの思惑、のはず。
……たぶん。
「それでは、ここから第二ラウンドと行こうか。……本気で来い」
「本気……分かりました。じゃあ、少しだけ」
対するグレンの威圧が強まり、私は不思議と笑みがこぼれてしまう。
本気……本当に本気で良いんだよね?
「――ッ!」
スッと踏み込んで、ドンッと地面を蹴り飛ばす。
硬かろうと、守りが上手かろうと……速さがあれば、それは威力になって、全てを斬り裂く。
「【蝶舞一刀】水の型『水月』!」
「
はずが、ガギィンと鈍く響くような音がして、振り抜いたはずの刃が盾に止められる。
……ええ?
「ぐ、金剛を使っても、これだけの衝撃か……」
「まさか止められるとは思ってもなかったんですが」
「それならば
「っとと」
一応避けたものの、反撃が今までよりも数段鈍い。
たぶん、見た目こそは大きくダメージを受けてないにせよ、そこそこのダメージはあったのかもしれない。
あ、あとスキルによる反動もあるのかな?
「じゃあ次の一発で、その金剛とやらを正面から撃ち抜いたら、私の勝ちってことでいいですか?」
「……面白いことを言うな。いいだろう、だが次の一発を防ぎきった場合は、こちらの勝利とさせてもらうぞ」
「わかりました。その方が早くていいです」
お互いに頷きあい、グレンは大盾を構え、私は刀へと右手を添える。
そして、私は踏み込み、刀を抜……かなかった。
「【蝶舞一刀】」
「【八方亀盾】」
「火の型」
「剛の型」
「『発破』!」
「『金剛』!」
魔法スキルや戦闘スキルは、一定のレベルを越えると魔法や技が使えるようになる。
その一定のレベルが、Lv.1、Lv.5、Lv.8、そしてLv.15らしい。
もちろんそれは、私の使っている【蝶舞一刀】でも例外ではなく……火の型『発破』はLv.8で使えるようになった技だった。
動きとしてはいたって簡単で、空中へと舞い上がり、柄の頭を叩きつける。
そう……奇しくも私が、あの金色になったサソリに対して行った行為、そのものだった。
「アアァァァァ!」
「オオォォォォ!」
ガギィィィ! と音が鳴り響き、一点に集約された力が大盾へ。
その力はあの時の比ではなく、まさに岩をも破壊する『発破』の名の通り、グレンの金剛を打ち貫いた。
「ぐはっ!」
「あっ」
そのまま落ちるようにグレンの胴を柄頭で強打し、私はサッと距離を取る。
……これで攻撃されたりしたら嫌だし?
「ふぅ、抜かれてしまったか」
「……なんで逸らさなかったんですか?」
衝撃の方向を逸らせば打ち貫くことは無理だった。
けれど、グレンはそうせず、あくまでも真っ向勝負に応じてくれていたのだ。
それが不利になるってことくらいは、分かってたと思うんだけど。
「俺は大盾使いのタンクだからな。受け止めた以上、弾き返す以外に選択肢はない」
「……他のメンバーと比べて、裏表がないんですね」
「はっはっは、面白いことを言う。みんな一生懸命に全力を出しているだけだ。そこに裏も表も在りはせん」
そ、そうかなー?
まあ、本人がそれで納得してるなら良いんだけど、他のメンバーは全員裏表ありすぎだと思うよー?
「さて、金剛を打ち抜いたらセツナさんの勝ちだったな」
「え、ええそう言いましたけど……良いんですか?」
「ああ、構わない。俺としても、今よりももっと強くなる必要があると認識できたからな。それは何よりも得難い想いだ」
「はあ……。良いなら良いんですけど……」
なんかすごいスッキリした顔でそんなことを言われてしまった以上、私にはもう止められない。
そんなわけで、グレンはリタイアを表明し、私の勝利が確定した。
……いいんだろうか、これで。
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名前:セツナ
所持金:11,590リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.8】【秘刃Lv.2】
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