第24話 魔法使いの力

 イーリアスの外は、四方八方に至るまで、荒野が続いている。

 一応、西側には大河があり、東側には岩がごろごろ。

 北側に第一層のダンジョンに続くゲートがあって、南側はなにもない。


「何度見ても荒野だねぇ」


「だねー。街から離れると、目印もないから怖いよね」


「にひひ、そのおかげで魔法は当てやすいけどねー。『アースニードル』!」


「だねー」


 ケートの放った魔法で、こっちに向かってきていた獣の群れ……イーリアスドッグの半分以上が貫かれて光になる。

 しかし残った数体の獣達は恐れることもなく、私達へと向かってきて、すべて左右で真っ二つになった。


「【蝶舞一刀】風の型……『旋花ひるがお』」


 紫煙を納刀し、チッと音がなる。

 それと同時に獣達は光となって、『イーリアスドッグの牙を入手しました』とシステム音声が脳内へと流れた。


「相変わらず、よく分からない動きだにゃー……」


「そう? 結構分かりやすいと思うけど」


「いやいやいやいや、全然見えないし。装備効果もあって、動きの初動がよく分からないから、気づいたときには終わってるんだよ!?」


「あー、カリンさまさまだねー」


「もうそれでいいにゃ……」


 「はふぅ……」と、諦め半分呆れ半分な顔で微笑んだケートに、私は首を傾げる。

 でも、そう言うケートだってめちゃくちゃなのだ。

 さっきの獣の群れだって、半分以上はケートが倒してるんだし。


「そういえばケート。喫茶店のマスターから貰った魔法は、使えるようになったの?」


「ん? まあ、使うだけは使えるよー。でも、ちょっとねー」


「どうかしたの?」


「まあ、いっか。そろそろゴーレム地帯だし、単体だったら私がやるよー」


 そう言ったのを聞いていたのか、いないのかは分からないけれど、地面が少し振動し……私達の前に2メートルくらいある、砂の巨人が現れた。

 形はアルテラ街の北にあった山のモンスター『ストーンゴーレム』とほとんど同じ。

 ただ、あれは石だったけど、これは砂で出来ている。

 その名も『サンドゴーレム』だ!


 そのまんますぎる。


「物理耐性の強いサンドゴーレムを倒すには、水魔法が効果的。特に、水魔法を当てたところは泥になるからか、耐性も落ちるし」


「だよね。だからいつもは、ケートが水を当てて、私が斬ったりして倒してるけど……」


「まあ、見てなさいにゃー。魔法使いケートちゃんの、天才っぷりをにゃー」


 ケートは笑ったまま、私の一歩前へと足を踏み出し、防具へと魔力を回していく。

 するとケートの纏う服には、緑色の模様が浮かび上がり……その身を薄く輝かせた。


「オォォォ……!」


「にひひ、やっちゃうよー! 【魔法連結】、『クリエイトゴーレム』!」


 ドシンドシンと近づいてくるサンドゴーレム。

 しかし、ケートはそれにまったく怯えたりもせず……赤と黄、そして青の魔法陣を前方へと浮かび上がらせる。

 いつものように多数ではなく……たった3つだけの魔法陣を。


 そして、その魔法陣は3つの中心を基点にくるくると回り始め、その場に新たなる存在を作り上げていく。

 焦げ茶色よりも黒に近い……大きなゴーレムを。


「ふへー、やっぱりまだまだ慣れないにゃー」


「オ、オォォ……」


「さて、やっちゃいますかー! 『ウォーターフォール』かーらーのー! ぱーんち!」


 突然現れたゴーレムに驚いたらしいサンドゴーレム……その頭上に大きな魔法陣が現れ、滝のような雨を降らす。

 それによって砂である身が硬くなってしまった直後、軽い宣言とともに繰り出されたゴーレムパンチで、サンドゴーレムは大きく吹っ飛ばされた。


 お、おお……なんだか特撮アニメみたい。


「まだまだー。モードチェンジ、【魔法連結】『スピニングランス』! しゅーと!」


「オォォ……!?」


「かーらーのー【魔法連結】『ギガントハンマー』!」


「オォォォォ……」


 これはひどい。

 パンチで吹き飛ばされたサンドゴーレムが、槍状に形態変化したゴーレムに貫かれ、さらに、巨大なハンマーになったゴーレムに叩き潰された。

 うん、そりゃ死んじゃうよね……。

 というか、こういう使い方であってるの、これ。


「ふひー。どうだー」


「う、うん……すごかった」


「へっへっへ。まだまだ練習中だけどねー。ランスは風魔法の『スパイラルシュート』を連結してて、ハンマーは『ウォーターフォール』の連結なんだー」


 なんでも、『スパイラルシュート』は、魔法陣から台風を作って相手を吹き飛ばす魔法で、回転と発射の構造を取り込んでるらしい。

 そう聞くとそうなんだろうけど……よく出来るなぁ。


「どの形態変化も、一度連結を解体してってやってるとMPを使いすぎるから、最初の時点からすでに少し変化させてるんだよねー」


「そうなの?」


「うむー。魔法使いは個々の特性が出やすいって言ったでしょ? その理由がこういう、魔法一つ一つの考え方なんだにゃー。私がよく使う『ロックシュート』も、人によって大きさは様々だし、速度も違うらしいし」


「そ、そうだったんだ……」


 今まで、ケートとしか組んでなかったこともあって、他の人の魔法なんてほとんど気にしてなかったけど、これは少しだけでも見ておいた方がいいかもしれない。

 もしケートと全然違う使い方をする人がいたら、戦うときに大変そうだし。


「ま、ケートちゃんみたいに、天性のカンと閃きで、魔法を駆使しちゃう人はマレだと思うけどにゃー。用心は大事大事」


「うん、ありがと」


「いえいえ、どういたしまして。私は難しいかもだけど、セツナには頑張ってほしいからねー」


「そう? 私からすると、ケートは強いと思うんだけど」


 私がそう言うと、ケートは「え?」と、本当に呆気に取られたような顔を見せる。

 なんでそんな顔……決闘だって、かなり苦戦してるんだよ?

 まあ、全部勝ってるけど。


「そ、そっかー。そっか……私、勝てると思う?」


「思うに決まってるよー。だって、ケートはゲーム得意だもん。体を動かすのは私の方が得意かもだけど、戦略とか戦術は絶対ケートの方がすごいし。今の魔法だってすごかったよー」


「あ、あはは、そっかー。うん、そうだよねー」


「……?」


 ケートから感じた違和感に、私は首を傾げたものの、ケートはそれに気づかない振りをするように「さ、狩りの続きといこうぜい!」と、歩きだす。

 そんなケートを不思議に思いながらも、私はケートの後を追った。


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 名前:セツナ

 所持金:7,280リブラ


 武器:居合刀『紫煙』

 防具:戦装束『無鎧』


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.13】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.5】【カウンターLv.8】【蝶舞一刀Lv.8】 

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