第8話 かわいいところ

「オォォォォ……」


「こわっ、顔こわっ!」


「ケートうるさい」


「セツナちゃんも、こわこわー」


「ケート~?」


「ひぃっ」


 石で出来たゴーレム、推定2メートル半くらいの攻撃を避けながら、ケートの方へと笑顔を向けてあげれば、ケートも集中して魔法を放ち始めた。

 うんうん、最初からそうしてくれれば良かったんだよ?


「『ウォーターボール』からの『ウォーターボール』からの、さらに『ウォーターボール』!」


「オ、オォォ……」


「まだ倒れないならー! 新しくゲットした魔法『ウォーターフォール』!」


「オオ……ッ」


 おおー、すごい効いてる!

 こっちに水が跳ねてびしゃびしゃになる以外は、すごくいい感じだー。


「最後にもう一発! 両手同時の超『ウォーターフォール』ゥ!」


「オォ、オォォ……」


 水圧に負けたように、ガラガラと崩れていったゴーレムが光になって消えていく。

 ……私、なにもやってない。

 しかし、石の巨人相手に出来ることは特にない!


 ゆえに、そのあと何度もあったゴーレム戦における私の役割は、さっきと変わらずゴーレムと優雅にダンスすることだった。

 当たったら死ぬかもしれない、恐怖のダンスだけどね!



「それで、ケート。鉱石と木材ってどうやって取るの?」


「ふっふっふ、その辺は抜かりないですぞ。ってことで、はいこれ」


「つるはし?」


「そそ。さっき作業場を出るときに買っておいたのー。山に向かってる間に、掲示板を見て情報を集めてたんだけど、どうも山の中腹辺りに洞窟があるみたいで、そこなら【採掘】のスキルがなくても、分かりやすい形してるから掘れるってさ! あと、木材は帰りに森に寄って、セツナが枝を切り払えばおーけー!」


 ……それって、両方私がやることになってない!?

 まあ、ゴーレム戦はケートが働いてるだけだからいいけど……。


「というわけで、あそこが目的の洞窟です! わぉ、とても洞窟って感じの洞窟ですね!」


「ほんとにポッカリ空いてるね」


「まあ、他にもいくつかあるみたいなんだけど、今日は鉱石採掘に来ただけだからね。入口付近でカンカンしよう!」


「はーい」


 洞窟って感じの洞窟に近づき、ケートが教えてくれた、鉱石っぽい鉱石のある壁の回りをつるはしでカンカンする。

 カーンカーンポロッって感じに剥がれ落ちてくる鉱石は、アルテラ銅鉱石の中に、ときおりアルテラ鉄鉱石が混じるって感じで、鉄鉱石の割合は5回に1回くらいの感じかな?

 でも、まだゲーム開始直後だからか、どこを掘っても出る感じですごく楽だった。


「ん」


「ん?」


「おっけーだってさー! これだけあれば十分足りるって」


「あ、そう? じゃあカンカンするのは終わり?」


 つるはしをケートに返しながら、アイテムボックスを見てみれば、アルテラ銅鉱石が34個に鉄鉱石が6個入っていた。

 ほんとにこれだけでいいの?


「ん、大丈夫」


「じゃあ、あとは森で木材ゲットしながら帰ろー!」


「おー」



 というわけで、カンカンタイムから二時間ほどして、私達はアルテラの共有作業場に戻ってきていた。

 ちなみに、アルテラの東にある森……東アルテラ森林の木からは、アルテラウッド木材というアイテムが手に入ってたりする。

 木をまるまる切り倒すと、アルテラウッド丸太になるらしいんだけど、さすがに刀で木は切れなかった。

 いや、切れるんだけど……ちょっと本気を出さないとスパッとできないんだよね。

 だからやめました。


「完成、リアル明日」


「りょうかーい! あ、ゴーレムの素材とかいる?」


「少し」


「はーい! じゃあ、少し渡して、あとはお金にしちゃうねー!」


 コクリと頷いたカリンの前に、ケートはゴーレムから出たストーンゴーレムの欠片を何個か置いていく。

 そのあとは一言二言話してから、私とケートは部屋から出たのだった。


 ちなみに、リアル明日というのはリアルの方での明日ってことらしい。

 このゲームは、ゲーム内の時間とリアルの時間が違っていて、ゲーム内での二日がリアルで一日になるようになっている。

 でも、半日ごとで二日じゃなくて、時計の5のところを目処に日付が変わるようになっていた。

 じゃないと、ほとんど夕方から夜しかプレイできない人もでちゃうしね。


「にっひっひ、変わった子だったでしょ」


「うん。ちょっと戸惑っちゃった」


「私も最初そうだったし、わかるよー。でも、悪い子じゃないし、仕事もきっちりしてくれるから信頼はしてるかなー。なんでも、リアルはDIYなんでも屋を家族でやってるみたいで、大型小型問わず、鉄工から木工、手芸に織物、調理と……なんでも手をつけてるんだって」


「そ、そうなんだ……」


 ほんとになんでも屋だ……。

 でも、リアルでやってると、VRでも効果があるって話だし、他の人よりも良いものができるかも?

 楽しみだなー。


「ってなわけで、まずはストーンゴーレムの素材を売って、お金にしてから……俺と茶でもしばこうぜ!」


「はいはい」


「もー、ツレないなー」


 そう言って唇を尖らせたケートもすぐに笑いだし、私達は笑顔でアルテラの街を抜けていく。

 そして、NPCのお店でストーンゴーレムの素材を売ったあと、店員さんに聞いた美味しいお店へと足を運んでいた。


「へー、『喫茶エルマン』かー。いい感じのお店だね!」


「うん。いい匂いがする」


「これはコーヒーかな? ケーキとかもあったらいいなー!」


「どうかなー? ファンタジーな感じだし、パンケーキとかならあるかも?」


 話しながら喫茶エルマンのドアを開けば、カランカランとベルの音が響く。

 そして直後に漂ってくる、少し苦味のある濃厚な香り……んー、いいかも。


「いらっしゃい。空いてるところにどうぞ」


「はーい!」


 漂ってくる香りと同じくらい、渋いナイスミドルなマスターが、渋いナイスミドルな声で私達を迎え入れてくれる。

 内装は最近のオープンカフェとかみたいな、若い子向けの内装ではなくて、むしろ純喫茶に近いシックな雰囲気のお店だった。

 私はこういう感じ好きだなー。


「な、なんだかこう……背筋ピーンってしないといけない気持ちになるよね……!」


「あはは。普通にしてたらいいと思うよ」


「そ、そう? うう、こういうところあんまり入らないから」


 そう言って背筋ピーンするケートに、私はなんだか笑ってしまう。

 似合わないなー。


「大丈夫ですよ。ご自由におくつろぎ下さい。注文はどうされますか?」


「あ、えと……!」


「お嬢さんみたいな若い方には、アルテラ近郊で育てているフルーツケーキのセットがおすすめですよ」


「あ、じゃあそれのミルクティーセットで! お、おねがいしますっ!」


「私は同じものの、コーヒーセットで」


 ナイスミドルが渋い声で「かしこまりました」と頷き、ふっと微笑んでくれる。

 瞬間、ケートの顔が真っ赤になっていた。

 うん、かわいい。


「はわぁ……おとなのかいだんのぼっちゃうよー」


「ケートのそういう感じ、初めて見たかも。ホントに慣れてないんだねー」


「もうっ、あんまり見ないでっ」


「はいはい」


 といいつつも、それからケーキが運ばれてくるまで、私はケートをいじっていたのだったー。


-----


 名前:セツナ

 所持金:4,230リブラ(+3,230)


 武器:初心者の刀


 所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】

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