第3話

受験日は頭が真っ白で、高校を楽しむなんてことは出来なかった。動く人に合わせて受験を受けて、そのまま帰ってきた。


また行く時はちゃんと見て·····ってあっちに住むことになるのか。多分。


合格発表の日は生憎の大雨。船が出航出来ず、御坂高校に行けなかったので、公民館のネットが繋がっている場所で見た。


近所のおじいちゃんとかおばあちゃんも一緒に合格発表を見守ってくれた。落ちた時、気まずいじゃないか、なんて言う心配はここには存在しなかった。パソコンで御坂高校のウェブサイトを開く。


そして合格発表の欄を開く。番号とかではなく、合格か不合格かが発表される。俺はうっすらっと目を開けて見る。


「·····受かってる。合格だ!合格!」


俺が叫ぶと周りでみんなが俺と同じくらい喜んでくれた。中には涙を流して他人の幸福を喜んでくれる人もいた。田舎なだけあって、俺を子供だと思ってくれている人までいる。


「「おめでとーっ!翔!」」

「ありがと。みんな·····」


そんな涙の中、俺は島の外に出る準備を進めるのだった。翌日には出ていかないといけなかったから。

一応、あの二人にも別れの挨拶にいった。


「ざびじぃよぉぉぉお!」

「泣くな、バカ。じゃあな、翔」


泣いて送るヤツと笑って送り出してくれるやつ。


「またな。また会おう」


若干泣きそうになったのは、また別の話。


キッチンでネギを切っているお母さんが俺に向かって話し始めた。


「·····翔にいい話があるの」

「何?俺が受験に受かったことよりも?」

「多分·····?で、話っていうのはあっちいったら、沙和ちゃんの部屋に住ませてもらえるらしいのよ」


俺は一度思考を止めた。なぜって、あの憧れのさわちゃんと同棲??


「まじで!?·····キタッあぁーー!」


受験に受かった時よりも、ガッツポーズをとった。沙和ちゃんとひとつ屋根の下だって。楽しみすぎる。死ぬほど勉強した甲斐があった。


ずっとふわふわしている気分だった。


それから時間がたって、翌日になり出発のフェリーが来た。これが俺の希望の船。エス〇ワール!


ザワザワ·····なんて文字は見えなかったが、それくらい待ち望んでいた船だった。


「じゃあばいばーい!」


島のみんなに手を振って、ここから出る。でも正月とお盆くらいは顔を出そう。寂しいし。


一番印象に残っていたのは、いつもは厳しい顔をしているお父さんが泣いていたことだった。一生の別れでもないのに·····。


沙和ちゃんはこんな気持ちだったんだなと理解出来た。前は見送る側だったから分からなかったけど、これはやばいな。


耐えていた俺も思わず泣いてしまったが、すぐに袖で拭いて旅たったのだ。


「愛されてるねぇ……坊主」


横にいる風情漂う、おっさんが話しかけてきた。俺は照れくさく笑って言うのだった。


「俺も同じくらい愛してます、この島を」


やはり建物が高すぎる·····。俺の島では1階建てが基本だったから、尚更なのかもしれない。


皆が田舎者の俺を襲おうとしているように見えて、若干、怯えながら歩く。あ、アウェーだ。


みんな、俺が合格祝いで貰ったスマホとにらめっこしていて、俺の事なんて気にしていないようだ。なんか冷たいな。そんなふうに思った。その板と見つめあって何がわかるんだ……。


「そうだ、マップ、マップ。」


そう思って、地図アプリを立ち上げる。地図アプリなんてお母さんのスマホの中に入っていたのを見たくらい。


島では道に迷うなんてことはなかったから、使い方がいまいち分からない。でも検索の画面に、沙和ちゃんの住所を打ち込むと、道案内が始まった。


「ハイテクだ·····。日本は進んでるぞ·····!」


感動を隠せずに、スマホをよしよしと撫でてしまう。そんな姿を奇妙に思ったのか、道行く人が目をこちらにやる。


「し、しまった·····。田舎者ってバレるところだった」


田舎者はバカにされるらしいし、隠しておかないと。変な方言も無い島で良かった。方便がきつかったら、話がまともに出来ないからな。


スマホの道案内の通りに歩いていくと、1件のマンションに到着した。島にはなかった物騒な建物である。色んな人がひとつの家に集結してるという、あれ·····。


「503号室·····」


インターホンを探すが見当たらない。どうすればいいんだっけ。まず番号を押してだっけ?ど、どうしよう。俺、入れない!?


あわあわと、マンションの玄関ホールのところで暴れていると、後ろから柔らかい声が聞こえた。


「どうかしましたか?マンションの人に用事ですか?」


そんなふうに優しく、話しかけてくれたのは俺と同じ年くらいの女の子。ふわふわとした金髪をサイドでくくっている。


いわゆるサイドテールってやつ。コンビニの雑誌の知識だけど、多分そう。


「た、助けてください!この中の人に用事があるのに、入れてくれないんです!このドアが」

「あ、あわ、あわわ!分かりました。分かりましたから!その手を離してください。し、心臓に悪いです」


しまった。島の人のコミュニケーションのとり方を·····。これでは田舎出身だとバレてしまうじゃないか。


ほら·····。田舎者を見てて恥ずかしくなって、女の子が顔を赤くしてしまった·····。反省しないと。


「503号室のさ、中島さんに用事があって」

「あの美人な人ですか。多分·····先輩になる人なんですよね。これは私事でしたぁ……。ほら、開きましたよ。入ってください」

「ありがとうございます」

「それじゃ、私は行きますので」


そう言って、女の子はパタパタと早歩きでどこかへと言ってしまった。可愛い女の子だったな。都会·····レベル高ぇ!


そんなことを思いながら、階段を昇って503号室にまで来た。時刻は昼くらい。休日だし、1番いいタイミングだろう。


ドアの前に立って、深呼吸する。初恋の人と、対面するのだ。俺は意を決して、インターホンを押した。


「はーい!ちょっと待ってくださーい!」


俺の好きな人の声が聞こえる。懐かしい。2年間も会ってなかったから、感動の再会である。ドアがガチャりと音を立てて、開く。そして中からは憧れの沙和ちゃんが!


「いらっしゃい··········待って男の子?後輩って聞いてたから。てっきり私、女の子だと。私、こんなイケメンの人知らないんだけど·····どなたですか?」


ぽかんと、間抜けな顔をする沙和ちゃん。黒髪の、ショートカット。あの頃から変わっていない髪型。そして大きな目に綺麗な鼻筋。


ていうか、俺。覚えてもらってない·····?


「沙和ちゃん·····夏目翔だよ?」

「·····夏目翔!?翔なの!待って、待って。今、冷静になるから。私と一緒に住む人ってもしかして翔?」

「そうだよ。沙和ちゃん。よろしくね」

「え、え?え!?えぇええっ!?」


·····目をどんどんと丸くする沙和ちゃん。その可愛い顔が驚愕で歪んだ。


♣♣

伸びなかったら辞めます。星ください。

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