第30話 予定調和!?

 ノリィの件といい色々あったが無事昼食を食べ終わりゴーカートを楽しんだ後、俺たちは次の目的地へと向かっている。



 そんな中、俺は一切ノリィとコンタクトを取ることが出来ていない。



 デート中なのでむやみにスマホを確認することができないため、ノリィの状況を把握しづらいという理由もある。だがそれでもお手洗い中だったり、メールだったりと色々と方法はあるはずだ。



 しかし.......



 お手洗いに行く際、何度もノリィへ着信をしたが一切繋がらかった。

 ならばメールをと何通か現状確認のメールを送ったが.......




『あ?こっちは忙しいんだよ!!』



『フルマラソンがどれだけ辛いかご存じでない?』



『人使いが荒い人間に扱き使われる気持ちを考えろ!』



『VRライブ.........S席......限定グッズ......』




 などと意味不明な返答しか返って来なかった。

 特に最後に関しては会話にもなっていなかった。



 今現在ノリィがどんな目にあっているのか想像するのはそれこそノリィに失礼だろう。俺が出来ることはただ横に居る彼女を楽しませることだけだ。




「次は.......ここですね」


「うん。『廃墟からの脱出』.......お化け屋敷だね」




『廃墟からの脱出』それは、最近よく見る脱出系のお化け屋敷だ。ただし、所々のトラップがガチすぎるあまり途中退出者が絶えないという噂がある。



 正直......あまりお化け屋敷は好きじゃない。だけどこれも彼女のデートプランの一つだ、俺がしっかりしないと折角の計画に支障が出てしまうだろう。



 俺たちは入口前に並んでいた列に並び、入場するその刻まで待った。











「はいどうぞ~!二名様いってらっしゃいませぇー!!」





 バタン






 入口の扉が閉められ、さっきまで聞こえていた騒がしい音が消えた。



 中は病院?のようになっていて、非常灯が点滅していたり壁や椅子がボロボロになっていてまさしく廃墟のような雰囲気を感じさせる。



 ちょっと壁際から足音や水音が聞こえるのは気のせいだと思いたい。



「セイ君.......一応これ渡しておきますね」



 そう言って俺の右腕を掴む彼女は黄色が目立つ安全ブザーを渡してきた。確かこのブザーは位置情報の共有をする機能があると運営の人が言ってたっけ。




「途中でギブアップする時や非常事態の時にと貰ったものですが、私はセイ君に持っていてほしいです」



「分かったよ。辛くなったらいつでも言っていいからね?」


「ありがとうございます。私はセイ君がいるので大丈夫ですよ?」



 暗闇で彼女の顔はよく見えなかったが、彼女が全幅の信頼を寄せてくれているのだと分かり、一気に気合いが入った。



「よし!それじゃあ進んでいこう!!」




 病院の通路はどこも穴が開いていて、その先の診療室が良く見えた。台の上には血で染まった人が乗っていたり、人と何かのキメラのような生物がもぞもぞと動いているのが見えた。



「ひっ!!」


「架純大丈夫。これ作り物だから」



 いきなり寝ていた人が壁の外から手を突っ込んできて、九条さんらしからぬ声を挙げたがすぐに片手で抱いて落ち着かせてあげた。



「ね?ほら進んでいこう」


「は.....はい。離れないでくださいね?」


「もちろん。絶対に離れないよ」




 ぎゅっと腕を掴んで身を寄せてくる九条さんはまるで今日出会ってすぐの時のような素面の雰囲気を感じさせていた。



(今日......ずっと良い所を見せようとしてくれてたのか)



 彼女の性格は学校の時に把握しているはずだった。だから、彼女はプライドが高く頑固で自己中なお嬢様だとずっと思っていた。



 でも、今まで一緒にプレーしてきた事、一緒に計画について話した事、そして今日の事でやっと理解することが出来た。




 彼女は本当はもっと幼くて、弱くて、努力家で.......



 好きな人目的の為ならどれだけ苦手でも諦めずにやり遂げる人で.......




 こんなにも可愛い人だってことを。









「ん、結構通路が入り組んできたね。それに狭い」



「はい.......気を抜いていたら迷子になりそうです」




 順調に順路を進み続け、トラップも乗り越えてやってきたのは病院の裏側にあたる空間、スタッフオンリーのような場所だ。



 ここはさっきの道より更に暗くなっており、瓦礫や書類で足元が悪く、様々な方面に繋がる通路が入り組んでいた。



「このお化け屋敷の別名は『恐怖迷宮』って聞いていたけど、こういうことなのか」




 確かにここまで道が入り組んでいれば迷うことは避けられない。


 もし迷ってしまったら、ゴールを探しながら道中にあるトラップも乗り越えていかなければならないのだ。



 閉鎖的な空間の中、いつトラップが来るか分からない極限状態に陥りゴールまでの道筋を見失う鬼畜設定.......



(これは対象年齢が高いわけですわ)



「か、架純、大丈夫か?」



 腕をがっちりと掴んでいる九条さんに視線を動かすと、彼女はまだ大丈夫と早く先に行きたいという意志を身振り手振りで表していた。




(そうだな、早くゴールしてあげないと)






 そして俺たちは迷宮の奥地に足を踏み入れた。












「大丈夫?結構急ぎ気味だけど」



「大丈夫です。セイ君がしっかり掴んでくれているので」









「ほら、ここ段差あるから気を付けて!」



「はい、ありがとうございます」








「ちょっと人の声がしてきたね.......」



「私たちと同じだといいのですけれど.........」








「「あ!ご、ごめんなさい!!!!」」



「い、いえ大丈夫です!!」


「は、はい私も.......不注意だったので」









「よし!じゃあ早くいこう!!!」



「え、あ、あれ??私?」


「え?セイ君?」









「大丈夫!俺に掴まってて!!!」



「え?あ、は、はい♡」








「あ、危ない!!」


「きゃあああっっっ!!!」




「ふぅ........ケガはない?」



「は、はい、おかげ様で♡」











「ほら、あと少しでゴールだよ!!!」



「そ、そうですね!!寂しいですけれど.......」








 ガタン









「はい!!おめでとうございますー!!!クリアですーー!!!またのお越しをお待ちしておりますー!!」








「よし!!やっと終わった.......って架純大丈..........誰?」



「あ..........超イケメン.......」






 やっと出口に辿り着いたと思ったら、俺の腕を掴んでいるのは九条さんでは無くらない女性の方だった。


 その女性は顔を赤く染めており、口元を抑えてそれを誤魔化していた。




「あの、えっと.......ありがとうございました♡」



「え?あ、ああ」



「私は........これで失礼しますぅ!!!!」




 そう言って女性は何処かに走り去ってしまった。

 何とも良く分からない......謎の女性だった。












 ていうかそういう事はどうでもいい!!!!!!



 一体いつだ!??


 いつ九条さんと入れ替わった!!??



 思い出せ俺...............ま、まさか



 たしか途中二人組くらいの誰かとぶつかって、それで九条さんと離れてしまって.......それで俺が早くゴールするために........











 何........してんだよ








 何してんだよ俺!!!!!!!!









 絶対離れないって約束してただろうが!!!




「あのすみません、ちょっと戻ります。あとで色々言い訳をさせてください」




「え?あ、あの」



「では失礼します」






 ガタン





「ふぅ........とりあえずノリィに連絡だけしとくか」




『九条さんとお化け屋敷ではぐれたから合流しに向かうわ』




 よし、こんなもんでいいか.......




『おう了解。行くんだったら早くいけよ。なぜか知らんがそのお化け屋敷は監視カメラがついてねぇ。多分女王様はスマホの電池切れてるし、かなり困ってると思うぞ?』





「返信が早くて助かった。さっさと戻んねぇと.......約束破ってるからな......」


















 セイ君が何処かに消えた。


 辺りは真っ暗で.......非常灯ぐらいしか良く見えない。



 途中で何度か追いかけようと頑張ったが、今日の為に新調したパンプスが足元の瓦礫に引っかかり、転んでしまったのでむやみに動けなくなってしまった。




「これじゃあ、セイ君に会えないじゃない」



 スカートはさっき転んだせいで傷が入っており、真っ白だったトップスもほこりや砂がついてしまって見た目が悪い。



 膝はすり傷が目立ちみっともない。




「ふぅ......っ痛!」




 持ってきていた消毒液で膝を消毒し絆創膏で一応の応急措置はしたが、汚れた服と傷の入ったスカート、膝に見える絆創膏は消えない。





「ううぅう............なんでこうなるの..........」




 あの男と連絡していたせいでスマホの電池が無くなっており、このお化け屋敷には監視カメラもないのであのブザーが無ければ助けが来ることもない。




 今日ずっと取り繕っていた罰が当たったのだろうか.......



 私は体育座りで道端に座り込み、誰かこないか待ち続けた。





「なんで.........誰もこないのよ」




 彼女は気づいてはいないがこの場所は迷路エリアの奥の奥に位置する。気が動転しすぎており、自分がどこにいるのか理解できていないのだ。






「お願い........誰かきてよ」





 この迷宮エリアはトラップの量で場所でだいたいの道筋が分かる。自然と出口に誘導するような作りになっているので完全に迷うことはほとんどありえない。







「一人くらい、来てもいいでしょ........なんで」







 祈ってもこの事実が覆ることはない。現実がうまくいかないことは、彼との恋ではっきりと理解しているからだ。








 ただし





「お願いセイ君........離れないで.......」







「うん。もう離れないよ........架純」






 彼女の為に、全てのルートを網羅してきた者なら......可能だ。

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