序5 契約
魔術の契約とはどのような事をするのだろうか。
命がかかっていると言うのに、未知の出来事を前にして少しわくわくする自分がいる。
「それじゃあ紙を用意しよう」
東雲先生は立ち上がって先ほど立っていたロッカーの所へ向かう。
中から紙とインクとペンを取り出しながら戻ってくる。
「契約といっても色々あるんだ。一方的にこちらの言う事に従わせる強い魔術から一般的な紙の取引だったりね。今回は魔術具の貸与もすることになるだろうから中間の方法にしよう」
するとスーツの胸ポケットから注射器を取り出した。
「……その注射器は?」
「君から血を貰うためだよ。互いの血を混ぜたインクで契約書を書くんだ」
嘘でしょ!?なんかすごく抵抗感を覚える。
「大丈夫。初めてじゃないから上手に刺せるよ」
待ってください!まってください!そんな笑顔でこっち見ないで!!
「い、痛くしないでくださいね?」
「善処しよう」
東雲先生が腕を押さえ血管を探す。悪寒が酷い。目の前が暗くなりそうな錯覚に陥りそうになる。
チクリと刺す瞬間少し痛みが走った
「いっつ……!」
嘘ついた!痛いじゃない!!
うぅ、むず痒い!そして血が抜けていってる感覚と同時に寒気も覚える。
「ほら、おしまいだよ」
血を抜く手が止まり針が引き抜かれる。注射器に半分ほど溜まっているのが見える。
そして同時にさらなる空腹感を覚えた。なるほど。血を抜かれるとお腹が減るのか。
「うーん少し顔色が良くないな。朝ごはんまだだった?」
「食べてないです」
そうだ。なんで買い物に出たと思ったのにこうなってしまったのか。いや、こんなの不幸のうちには入らない。大丈夫、大丈夫。
「そうか。ならこれを食べると良い」
東雲先生はスーツの右のポケットに手を入れてそこから小さなクッキーを取り出してくれた。真ん中にチョコが流し込まれていて可愛らしい花形のクッキーだ。
一口食べるとサクサクしたクッキーとチョコの甘みが広がって美味しい。
そこでふと疑問に思った。
「そのスーツにはなんでも入ってるんですね」
「これも魔術具の一つだよ『異次元スーツ』と僕は呼んでいてね。ポケットと同じサイズの物なら何でも入れることができるのさ」
「すごい!」
すごいスーツだった。これがあれば筆箱や教科書を持ち歩くのも便利に違いない。
「まぁそのかわり作るのはとても大変でね。色々な材料が必要なんだよ」
「例えばどんなのが必要なんですか」
「そうだねぇ、自分の血を混ぜた染料で染めた糸とかかな?」
「ヒッ!」
想像以上に恐ろしい服だった。いったいどれほどの血を使うのか想像できない。
「さっきの戦闘中も着ていたんだけどね。あの火に燃やされた時は本当に焦った」
話しながらも手を動かしインクと私の血を混ぜている。
こぼれないようゆっくり混ぜている。すると徐々に淡く赤い輝きを出し始めた。
「おお!」
ひときは強く赤く光る。今ので完成なのだろうか。
「これで完成だ。それじゃあ内容を決めようか」
内容か。当然一つしかない。
「私の身の安全が確立するまでの護衛をお願いします」
「わかった」
そういって脇に置いてあったガラス製のペンにインクを付けすばやく書いていく
「次は報酬だけど、魔術士の相場なんてわからないよね。そうだな……週二百万でどうだろう」
あ、割と安い。
「それじゃあその値段でお願いします」
「え?」
「え?」
なぜか驚かれた。どうしてだろう。思わず私も疑問の声を上げてしまった。
「いや、そ、そうだね。そうしようか」
「もしかして、盛りました?」
「いやいや!そんなことはないよ。ただ即決だったから驚いたんだよ」
あやしい。あやしいが、まぁ命がかかってるし守ってもらう側だし突っ込むのはかわいそうか。
「……そうですか」
「あははは……」
それはそれとして疑いの目は向けておく。
「さて、最後に期間だけど、ひとまずあの火を放ってきた者を捕獲もしくは殺すまでにしておこう」
「殺しちゃうんですか?」
殺したくなるほどスーツが気に入っていたのだろうか。
「相手は強そうだからね。できれば生け捕りだけど難しいかな」
「私はこれからどうすればいいですか」
東雲先生は少し悩むそぶりを見せてから口を開く
「そうだね……ひとまず道具を作るために僕の工房まで来てもらうのは決まりとして……家に誰か保護者はいるかい。」
そう聞かれた私の心臓の鼓動が大きく跳ね上がる。
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