第22話 守ってあげたい

 夜が明けたばかりの美濃国大桑おおが土岐屋敷の前。


六兵衛「わはははは。油断したな」


カズマ「「ヨシノさん!」」


ヨシノ「サブロウさま、助けてー!」


サブロウ「おのれ、我が嫁、愛しのヨシノに何をする!」


六兵衛「知れたことよ」


彦七郎「ヨシノさまは人質だ」


三八郎「丁重におもてなしさせていただく」


彦七郎「サブロウさまは大人しく長井豊後守さまの言う通りになさればよいのだ」


三八郎「さもなくばヨシノさまの身の安全は保証できぬ」


六兵衛「わかったな」


カズマ「「なんて卑怯な!」」


サブロウ「ヨシノー!」


ヨシノ「サブロウさまー!」


六兵衛「行くぞ」


彦七郎・三八郎「「応!」」



「はい。割統カーット!おつかれさま!お芝居はここまで」


 チカの声が響く。


「面白かった〜!」


 ヨシノがはしゃいでいる。


「いやあ、思ったより緊張しました」


 多田三八郎がホッとした様子でこぼす。


「ははは。俺はセリフが短くて楽だったな」


 足立六兵衛が笑う。


「「我らはセリフがなかったでござる」」


 稲葉兄弟が愚痴る。


「まあまあ。コイツら三悪人が今回の主役だ。我慢しろ。俺たちとちがって、台詞は棒読みで演技力は壊滅的だけど、まあこんなもんだな。長井豊後守によるヨシノ誘拐の証人もいっぱいできた」


「ヤラセもいいところだけど」


「せやな」


「コイツら元々その気だったからいいんだよ。よし、じゃあ次行くぞ」


 サブロウは満足げだ。


「あの、サブロウさま。本当にヨシノさまをかどわかせばよいので?」


 岩手彦七郎が恐る恐る訊ねた。


「そうだよ。まあ俺と爺とカズマは途中で別行動になるけど。何しろ俺が次期守護だもの。父上の待つ福光の守護所に行かなきゃならん。それまでは俺たちもヨシノたちと一緒だ。後はヨシノとチカとヨシノの兄貴たちの指示に従え。わかったな!」


「それはわかりました。ところで、サブロウさま。コレはいつ外していただけるので?」


「そうです。そうです」


 彦七郎と三八郎が深刻な面持ちでサブロウに聞いてくる。


「正直言ってお前たち二人はまだ信用できないからな。変なところで裏切られては困る。外して欲しけりゃ大人しく言う通りにするんだな。ぜーんぶ上手くいけば今夜にも外してやろう」


 まるでサブロウの方が悪漢のような口上である。


「「そんなご無体な」」


「俺の嫁を拐かそうとした罰だ」


「自業自得やな」


「「そうだ、そうだ」」


「その、頑張ってくださいね」


「師匠もよくこんな鬼畜なカラクリを思いつくわね」


「ふははは!大桑職人衆の叡智の結晶!金属製だから鍵がない限り外せぬぞ!」


「ずいぶんHよりの叡智やけどな」


 説明しよう。


 彦七郎と三八郎は袴の下にはサブロウ考案のが取り付けられている。


 小用は横から何とか足せるが、問題は大の方だ。肛門がきっちりブロックされているのでウ▷コが普通にできないし、尻を拭けないのだ。この状態でウ▷コをするなら、それは貞操帯の内側に垂れ流しだ。うわあ、バッチい。エンガチョ〜である。


「本当にエゲツないわ」


「怖い道具ですね」


「ウ▷コでけへんからなあ」


「この男性用貞操帯の商品名は『守護まもってあげたい』だ!」


「「やめんかい!」」


パパーーーーーン


 サブロウを左右からハリセン攻撃が襲う。


「このおぞましい道具にその名前をつけるなんて!センセ、あんたというヒトはホンマにもう!」


「たった今ユーミ▷のあの曲のイメージが崩壊したわ!師匠、どうしてくれるのよ!」


 チカとカズマが激おこだ。


「商品名って、これ売るんですか?」


 なにもわかってないヨシノが無邪気に訊く。


「「こんなモン売れるかい!」」


 チカとカズマがハモる。


「でも西村勘九郎は嬉しそうに試作品を持って行ったぞ」


「「「うわあ〜」」」


 触れてはいけない闇がそこにはあった。


「「しかし、我らだけで、六兵衛だけつけてないのは不公平ですぞ!」」


 彦七郎と三八郎がぶーぶーと文句を言う。


「六兵衛みたいにデカい奴用の貞操帯なんかないから仕方なかろう」


「かははは。悪いな、お主たち。でも、俺は絶対裏切らんから安心せい」


「「くそ〜!」」


「大丈夫。お前たちがウ▷コを漏らしたら六兵衛に掃除や洗濯の始末させるから」


「「「それは絶対に嫌だ〜!」」」


「三馬鹿うるさい!」


「サブロウさま、そろそろ」


 サブロウの傅役の林四郎二郎通村も今回同行する。仮にもサブロウが守護に就任するのだ。その晴れ舞台を傅役としては是非見届けなければならない。


「爺、わかった。ようし、みんな行くぞお、出発だあ」


「「「「「「「応!」」」」」」」


 その場の二百人ほどが声を上げた。


「・・・・・・何、だと・・・・・・」


「おい、冗談だろ?」


「冗談でも四月馬鹿でもないぞ。本気マジだ」


「ちょっと待て!全員、一緒にくるのか!」


「そんなに沢山人質はいらん!無理だ!」


 彦七郎と三八郎が焦りまくる。


「別にかまわんだろう。賑やかな方が良いではないか!」


 サブロウがあっけらかんと言う。


「それもそうだな。良いではないか!」


 六兵衛もそれに乗る。


「たわけ、六兵衛!物には限度というものがあろうが!」


「六兵衛、お主正気か⁉︎」


「まあまあ、良いではないか」


「「「「「良いではないか、良いではないか!」」」」」


 六兵衛が二人をなだめようとするとその場の二百人ほどが異口同音に怪しい台詞を口にする。


「こんなのアリかよ」


「まるで悪夢だ」


「はい、それじゃあ出発しゅっぱ〜つ!」


 サブロウが声をかけるとその場の老若男女ニ百人ほどが移動を始める。


「サブロウさま!ちょっと、そんなに大勢じゃ無理ですって。ヨシノさまを匿っておくはずの下克上組の本拠地には、入りきりません!」


「なんだ、そんなちっぽけな所にヨシノを住まわせるつもりだったのか。許せんな」


「本拠地なんでしょ?サブロウさま。見るだけでも見てみましょうよ!」


「わかった。彦七郎、三八郎!まずは本拠地とやらに案内せい!」


「人質という言葉の意味はいったいどうなったのか」


「人質の方がずっと偉そうで圧倒的に頭数も多いだなんて」


「拐かす側が人質の言いなりだなんて」


「「まるでわけがわからん!!」」


 彦七郎と三八郎がボヤく。


「「言いたいことはよくわかるぞ!俺たちも訳がわからぬままヨシノといっしょに一昨日から振り回されっぱなしだからな!」」


 ヨシノの兄の稲葉彦次郎・彦三郎もボヤく。


「彦七郎、三八郎。細かいことは、気にするな。ヨシノさまの兄上ですら訳がわかっておらんのだ。俺たちが考えたところで無駄だ。俺たちではサブロウさまたちの腹の底は見通せはせぬ。この流れに乗って一緒に暴れて楽しむのが風流というものだ」


「「開き直ったな、六兵衛!」」


「ほう。だがそれが正しいな」


「六兵衛さん、ちょっとカッコいいかも」


「あんた意外といい根性してるわね」


「ただの筋肉ダルマやないな。傾奇者やな!」


 なぜか六兵衛の株が上がりつつ、一行は福光を目指す。


 サブロウたちの屋敷のある大桑から、守護所のある福光までは南の方に向かっておよそ3里半(約14km)の距離だ。ちょっとした遠足の程度の距離である。


 サブロウとヨシノは一緒の馬で。傅役の林四郎二郎通村、チカとカズマ、彦次郎、彦三郎はそれぞれの馬で。六兵衛、彦七郎、三八郎は徒歩で。金属の貞操帯のせいで彦七郎と三八郎は少し歩きづらそうだ。その後を二百人ほどが賑やかについていく。


 道中でその行列がさりげなく少しずつ増えていく。







 *    *   *   *   *





「意外とちゃんとした屋敷ではないか。六兵衛、下克上党の福光近辺の拠点はここだけか?」


「うむ。他のところは知らぬ」


「三八郎、中にいるのは何人だ?」


大桑おおがに行ったのが半分くらいだから、せいぜい二、三十人くらいかと」


「彦七郎、今ここの留守を預かっているのは誰だ?」


「言いにくいのですがサブロウさまの御縁者の方です」


「じゃあ、多治見の大畑五郎左衛門定近だろう」


「ご名答でございます」


「サブロウさま、どなたです?」


「分家の従兄弟だよ。亡くなった先代の大桑城主の大桑定雄さだかつの弟だ。多治見の大畑で大人しくしていればいいものを」


「サブロウさまと仲は良いのですか?」


「次男同士だけど全然よくないな。まあよい。早速おもてなししてもらおうか。カズマ。やれ!」


「よっしゃあ!開門か〜い〜も〜ん〜!」


 カズマがまるでオペラ歌手のテノールのような大音量の美声で開門を求めた。


「なんて恐ろしい声だ」


「あら、いい声じゃない!」


「なんだ、なんだ」


「何者だ!」


 門の内側から誰何すいかの声が上がる。


「俺だ、彦七郎だ。ヨシノさまをお連れした。六兵衛に三八郎も一緒だ。正面の門を開けろ!」


「その声は確かに彦七郎。先程の奇声は何事ぞ。今開けさせるから待っておれ」


「なんだか偉そうですねえ」


「大したことはないくせに自分よりも上の者は妬んで下の者を見下すイヤな奴なんだよ。子供の出来は良いんだけどなあ」


 ギシギシ音を立てて正門が開く。


「彦七郎、六兵衛、三八郎、良くやったな。お手柄であるの。弥次郎と小太郎はどこだ?」


「あいつらは別行動だ」


「ふむ。ヨシノさまは?」


「そこの馬に」


「ふむ。誰だ、お主は」


 五郎左衛門はヨシノと共に騎乗しているサブロウに目を止めた。


「五郎左衛門、俺の顔を忘れたか」


「ええ?まさか、サ、サブロウさま!」


「そうだ。この度、長井豊後守と組んで美濃国守護になることにした。ココも下克上党も好きに使えと言われておる」


「ええ?聞いておりませぬが!」


「先程豊後守と話して決まったのだ。お主が知らぬのも無理はない。ん?疑うのか?」


「いいえ、滅相もございません」


「ほれほれ、豊後守がちゃんと守護になるかどうか保証のために人質が欲しいなどと言うもんだから、新妻のヨシノとお付きの者をわざわざ届けに来てやったのだ」


「お世話になります。よろしくお願いします」


 ヨシノもしゅたっと馬から飛び降りて挨拶した。


「儂からもよろしく頼む。くれぐれも粗相のないようにな」


もり役の林さままでいらっしゃるとは・・・・・・」


「では世話になるぞ!みんな中に入れ!」


「「「「「「応!」」」」」


 二、三百人のヨシノの『付き人』が応える。


「ちょっと待て!いやお待ちくだされ!」


「おーいちょっと待てってさ。どうした五郎左衛門」


「この者ども全てがヨシノさまの付き人だとおっしゃるのですか!」


「いかにも。ヨシノとこの付き人たち全てが豊後守の人質だよろしく頼むぞ」


「しかしながら、このような大勢を受け入れていいものか、それがしの一存では決められませぬ!」


「ふーん。ああ、そう。じゃあ別にいいよ。こっちも何もなりたくって守護になるわけじゃないんだ。さっさと大桑に帰ってココにいる大畑五郎左衛門が人質の受け取りを拒否したから取引はなしって豊後守に伝えたっていいんだぜ。豊後守の顔も折角の計画も丸潰れだ。豊後守は無能なお前さんのことをどうするかな?」


「まるで口上がヤクザの追い込みやなあ」


「この後のことを考えるとちょっとだけ可哀想よねえ」


「くっ、わかり申した。お入り下さい」


が出たぞ!みんな入れ!」


「「「「「「応!」」」」」


 二、三百人の男女が応えて屋敷の門を順々にくぐる。


「サブロウさま、かわやを使いたいんじゃが」


「俺もションベンしたくなってきた」


「俺も俺も」「あたしもあたしも」


「儂は大きい方なんじゃけど」


 五、六十人ほどが一斉に尿意や便意を訴え出した。


「おい、五郎左衛門。厠はどこだ」


「こんなにたくさん一度に使える厠などココにはございませぬ!」


「であるか。是非に及ばず。庭を潰して穴を掘って天幕を張って簡易の厠を作るとしよう」


「そんな勝手な!」


「では他にどんな手があるというのだ」


「サブロウさま。もう待てないだあよ」


「俺も」「あたしも」「早く!」


「このままだと屋敷の中といわず外といわず好き勝手に放尿、脱糞されかねないが良いのかな」


「わかり申した!庭に厠を作ることを認めましょう!」


が出たぞ!円匙えんしを持ってきた者たちは、大急ぎで用足し用の穴を掘れ!」


「サブロウさま天幕が全然足りませぬな」


 傅役の林四郎二郎が報告する。


「おい、五郎左衛門。ネタは上がってんだ。今すぐ蔵を開けろ!戦の準備をしてたんだろう?長井とか斎藤の紋が入った天幕や旗指物が山ほどあるはずだ。全部出せ!このままじゃ安心してウ▷コもできやしない」


「しかし、流石に蔵の中身を勝手に持ち出すのは」


「おい、五郎左衛門。俺さまに逆らおうっていうのかい」


 サブロウはそう言うと五郎左衛門の肩を引き寄せて耳元に口を寄せて囁く。


「俺は身内にはとっても優しいんだ。お前さんは俺の従兄弟じゃないか。そうだろう?」


「たしかに左様でございますが」


「ましてや俺は今日にでも美濃国守護になる男だ。五郎左衛門よ。俺と豊後守、尻尾を振る相手を間違えるんじゃないぞ。貴様なんぞ今すぐに無礼打ちにしたってかまわないのだ」


「ひいっ!」


 サブロウが殺気を込めて脅すと五郎左衛門は腰を抜かしてしまった。


「おい、それじゃあ俺が虐めているみたいじゃないか。仕方がない奴だ。従兄弟のよしみだ。いいものをやろう」


 サブロウは懐から書き付けを取り出すと五郎左衛門に手渡した。


「この書き付けは?」


「俺が美濃国守護である限り有効になる借用書だ。そこの空欄にお前の名前を書き入れておくが良い。俺が無事に守護になりその地位に留まっている間に持参すれば、お前にも豊後守とは別に千金をくれてやろう」


「千金!真でございまするか!」


「くどいぞ!俺だけじゃない。我が父上の署名と花押もあるだろう」


「たしかに!」


「安心しろ、五郎左衛門。この先何があろうと、何が起ころうと俺と組んでいる限りおいしい目に合わせてやる。だから、たかが豊後守のあれやこれやを気にするな。わかったら励め!よいな!」


「かしこまりましてございます!」


 五郎左衛門はサブロウに平伏した。


「それで良い。コレだけの人数が寝泊まりするにはこの母屋だけでは足りぬ。早速蔵を開けて、中の物を運び出せ。まずは天幕と旗指物は全て簡易の厠に回せ」


「御意!おい、蔵の荷物を全部出せ。天幕と旗指物は庭で作る厠に使え!」


「ははっ!」


「米や麦は食糧は炊き出しに使う。屋敷の外で雑炊にしろ。今宵は新守護就任の祭りになるぞ、ヨシノの付き人だけじゃなくもっと大勢に振る舞うのだ」


「御意!おい、女子衆は炊き出しの準備だ。雑炊をどんどん作っておくれ」


「ははっ!」


「溜め込んだ武具の類は用心のために目録を作ってココに来たヨシノの付き人たちに預かってもらえ」


「御意!」


「それ以外の値がつきそうなものは桔梗屋を呼ぶから目録を作って桔梗屋の蔵に預かってもらえ」


「御意!」


「それにしても敷地が狭すぎるぞ。コレでは窮屈すぎる。塀は裏の一箇所除いて壊して撤去だ!」


「御意!おーい塀を叩き壊すから木槌を持って集まってきてくれ!」


「さて肝心の母屋だが強度に不安が残るな」


「と、言いますと?」


もろい建物では地揺れ(地震のこと)や野分のわけ(台風)が心配で安心してヨシノを預けられないではないか」


「な、なるほど」


「お〜い、ヨシノ、チカ。ちょっとこっちの板壁を蹴ってみてくれ。履物は脱がなくていい」


「はあい!」


「OK!」


 二人は躰道風の道着に革の古代ローマ風サンダルを履いている。サブロウに言われるまま土足で上がった。


「では行きます。ドロップキーック!」


バキッ!


 小柄なヨシノは助走をつけてふわっと浮かび上がり、胸に膝を引き付け折り畳んだ両脚をグインと真っ直ぐに伸ばして板壁を蹴り抜いた。


「行くわよ!ローリングソバット!」


パキッ!


 チカは助走をつけずその場で回転しながら飛び上がり、大きく後ろに片脚を伸ばして板壁を破壊した。


「脆いですね」


「脆いわ!飛び蹴りじゃなくても踵か中足でなら行けそう」


「ですね。海老蹴り」


パキッ!


「やっぱりそうね。前蹴り!」


パキッ!


「三日月蹴り!」


パキッ!


「卍蹴り!」


パキッ!


「横蹴り!」


パキッ!


「後ろ回し蹴り!」


パキッ!


 面白いように板壁が割られていく。


「ひいっ!」


 五郎左衛門は再び腰を抜かした。


「まるで、小枝だな。か弱い女子どもが軽く蹴っただけで壊れるような壁はいらんな」


(どこがか弱い女子どもだ!)


 サブロウはスタスタと二人がまだ蹴ってない壁に近づく。


鉄山靠てつざんこう!」


ドカン!バコッ!


 強烈な背中からの体当たりで壁が全面外れて吹っ飛んだ!


「サブロウさますごい!」


「師匠の鉄山靠を見るのも久しぶりね」


「俺のは邪道でただの一発芸だからな。勢いだけで技とは言えないよ」

 

(なんなんだこの人たちは⁉︎)


「床にもヒビが入ったか。床も脆いな。今度は柱だ。カズマ、彦次郎、彦三郎!」


 身長ほぼ一八〇センチ(約六尺)の三人が呼ばれた。


「押忍!」


「「只今これに」」


「この辺の柱蹴ってみてくれ。まずはカズマがお手本で」


「押忍!試割りっすね。じゃあ横蹴りで。せいっ!」


バキッ!


 カズマは半身に構えてから後ろ足を引きつけると同時にその反発力を前脚に乗せて柱を蹴り折った。


「「おおおお」」


「カズマ凄い!」


「すごいです」


「まあ、カズマなら楽勝だな」


「押忍!じゃあ彦次郎さん、彦三郎さんもこっちで」


「「応!ふん!」」


ガコッ ガコッ


 彦次郎、彦三郎も見よう見まねで蹴りを出すが柱は折れない。少しヒビが入った程度だ。


「「悔しい!」」


「素人が三日目でそこまでやるなんて大したものだが、彦次郎と彦三郎は慢心しないで体術に励むように」


「「ははあっ!」」


「最後はあの大黒柱だ。六兵衛!体当たりを一発ぶちかましてやってくれ」


 身長二〇〇センチ。約六尺六寸の六兵衛だ。驚くべきことに666の数字が並ぶ彼はミオスタチン関連筋肉肥大症という体質のために超マッチョな体型でもある。まるで超人△ルクだ。


「応!行くぞ!」


「あ、コレはちょっとヤバいんとちゃうか?」


「ジェンガでいったらもうギリギリよ!」


「母屋にいる連中は危ないから総員退避!」


「危ないから逃げてくださーい」


「おおおおおりゃあ!」


ガコッ!バキバキバキバキッ!


 どこぞのラガーマンのようなタックルで柱を割り箸のように容易くへし折りそれを担いで駆け抜けていく。


「やっぱり化けもんや」


「だなあ」


「よくあんなのに勝てたわね」


「六兵衛さんも、カズマさんもすごいです!」


ミシッミシッミシッ、ミシミシミシミシシシ


「で、やっぱりこうなると」


「ダメだこりゃ」


「脆いぞ下克上党!」


「「脆いな」」


「倒れますよーーーー」


ズザザザーン


 酷い土埃を巻き上げて下克上党の本拠地だった母屋は完全に崩壊した。


 五郎左衛門は口をあんぐり開けてそのさまを眺めている。素手の男女七人の攻撃であっという間に家屋が一棟崩壊したのだ。


(コイツら人間じゃない!)


 つい先日までこの連中を操ろうなどと考えていた自分の迂闊さを今さらながら呪った。


「さあて、五郎左衛門」


「はいっなんでございましょうか!」


「さすがにこんな廃墟に寝泊まりするわけにはいかぬ。建て替えねばなるまい」


「ごもっともで」


(誰が廃墟にしたと思っているんだ!誰が!)


 思っていてもそのような恐ろしいことは口にできない。できるはずがない。


「廃墟の後片付けはヨシノの付き人たちに任せて、お前たち下克上党の二十人だか三十人はヨシノたちを長井豊後守の本邸に届けておくれ」


「へ?」


「俺と爺とカズマはこれから新守護就任のため守護所の福光館まで行かなきゃならん。後は頼むぞ」


「くれぐれ粗相のないようにな」


「ははああっ!」


「ではヨシノ。行って参る」


「いってらっしゃいませ、サブロウさま。すぐにお迎えに上がりますからお気をつけて」


「うむ。そちらも気をつけてな。チカ、彦次郎、彦三郎、六兵衛、彦七郎、三八郎、五郎左衛門。ヨシノのことを頼んだぞ」


「頼んだで!」


「任せときなさい!」


「「「任されよ!」」」


「「サブロウさまあ、なんでもしますから絶対に忘れないで下さいね!!」」


「うむ?なんのことだ?」


「「これの鍵です!!」」


ガシャンガシャン


 彦七郎と三八郎は袴の上から金属製貞操帯を叩く。


「わかった、わかった。カズマ、あれの合鍵どこだっけ?」


「金兵衛が持ってましたよ」


「であるか。金兵衛に会ったら伝えておく」


「「本当に大丈夫ですよね!信じていいんですよね!」」


「俺もコイツらの下の世話はしたくないぞ」


「・・・・・・さらばだ!」


「「「えええええ!今の間はどういうことですかあ⁉︎」」」


 サブロウたちは馬に鞭を入れて福光の守護所へ急ぐ。


 次回、いよいよサブロウと長井豊後守が直接対決をする。


 さあ、サブロウは本当に美濃国守護となり土岐家の御家騒動を終わらせることができるのか。


 そして、三馬鹿は無事に『守護まもってあげたい』の鍵を得ることができるのか。乞うご期待。




つづく
















 うーん。誰か忘れているような。











 ああ〜っ!


 そう、ヒーローは遅れてやってくるのだ!


「いったい何が起きた!どうしてたった一日でここが廃墟となってしまったのだ!そして肝心のヨシノさまはどこへいったのだ!」


 ヨシノを己の生命に変えてでも助けださんとやってきた好漢、森小太郎は廃墟となった下克上組の本拠地を見て一人途方に暮れていた。


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